第105話  覚醒相談

 魔物連合による宣戦布告から3日間、オレはエルフの国、アグカル国の都市、メギオンにて休養を取っていた。


 その理由は、かつての同級生、リーインの死によって引き起こされた殺戮衝動の鎮静化。

 今はだいぶ落ち着いている。

 怒りによるパワーアップもコントロールできるようになれたらなと思っている。


 リーインの死を目の当たりにしたとき、衝動に身を任せたら辺りの魔物をすべて殲滅していた。

 怒りの制御が強くなる秘訣だと知った。

 だが、そうそうコントロールできるものではない。徐々に、だが早急に。


「さて、そろそろ行こうか」

「ぶるっ」


 オレはひとまず、ある人のもとを訪ねに、へラリア王都まで戻ろうと思っている。


 その人はオレの知る限り、最も魔術に精通し、最も強い人物。

 三賢者の時代より、【最強】という言葉が指す唯一の人物。


 ――寺島駿。別名、シドー・ハンダイラン。


 転生者仲間で、オレと同じ器の所持者というか器というか……。

 ちなみに駿は【魔】の器で、魔法、魔力のトップ。


 おまけに近接戦闘も強い。

 まったく敵わなかった。


 師事を仰ぎに、更なる強さを得るために。

 へラリア王都にある、三賢者直属の機関、教会にある7本の柱。

 それがある『名無しの部屋』に行けば会える。


 フレイに乗ってへラリア王都へ向かう。

 半日あれば着くから、朝に出る。

 フレイもこの3日間、ゆっくりできたらしく、上機嫌だった。






 夕方、オレは教会にいる。

 フレイはすでに宿を取ってあるため、そこに預けた。


「ようこそ、【放浪者】様。今日はどういったご用件で?」

 

 ここに来るのも久しぶりか。

 仮面を外しても、オレがライン・ルルクスであることはわからないだろう。

 現に、役職で呼ばれた。

 わかる人はこの組み合わせで、オレが【水晶使い】であることに気づく。


「ああ、大した用ではない」

「左様ですか。ではごゆっくり」


 前回同様、正直に『名無しの部屋』に行くと言ってもいいかもしれない。

 でも、あの部屋、ほんとに何もないからな。7本の柱のみ。


 その7本の柱はオレにとっては重要なんだが、オレ以外の存在にとっては、ただの柱だ。

 加護持ちも意味はない。


 オレは誰もいない廊下を歩く。

 夕方という時間帯も相まって、誰もいない。

 そして、誰と出くわすこともなく『名無しの部屋』に到着した。


 部屋に入り、『不可知の書』を開く。




 すると次の瞬間、オレは真っ暗な空間にいた。


 目の前には、全身黒ずくめの服装に仮面を着けた、ぱっと見不審者。


「また来たのか、蓮」

「先日、魔物連合から宣戦布告があってな。やつらは蹂躙と呼んでいる」

「なるほど、修行か」


 話が早い。

 蹂躙なんて言葉、相手がよほどの格下でないと使えない。


「ん~~、でも、ここにいられる時間はあまり残ってないぞ? 前回、3年も使ったから」

「残りは何年ぐらい?」

「1年弱……かな。向こうで神器が覚醒してないってのもあるが……」


 向こうで器として覚醒すれば、もっと強さを得ることができるんだが……。

 覚醒の条件で、満たしていないのは単純な強さだ。


「単純に、連の強さが足りてない。それより、向こうで実戦を積んだ方がいいと思うんだが……」

「せっかく来たんだ。修行を着けてくれよ」

「ん~~……ここでの修行は、もう意味を持たないんだよな。筋トレはすべきではない。筋肉はすでに大丈夫」


 筋肉は実戦向きにするため、実戦の動きで着けるしかない。

 魔術は……相手が【魔】の器のせいで、修行にもならない。強すぎるし、持っている能力が違い過ぎる。


「まあ、ちょっとだけ付き合ったるわ。死なれたら困るし」

「おお! ありがとう!」

「一日だ! 一日……24時間な。正直、やる意味はないからな。一刻も早く事態を解決してほしいんだが」

「ん? なんでだ?」

「え、あ~、暇つぶし?」


 暇つぶしだぁ!?

 まあ、ここ……何もないから……しょうがないか。


「それに、それを解決したらこっちに強制召喚だ」

「まあ、オレもいい年齢だしな……。ささっと解決してこっちに来るべきか」


 オレももう21歳。今年10月には22歳。

 まだまだ現役だが、そろそろ肉体年齢のピークか。

 

「ああ、それがいい。それじゃ、さっそく……!」


 いつの間にか手に剣を握った駿が迫ってくる。

 オレは咄嗟の判断で防具を着用し、剣を構える。


 寸でのところで防ぐことができた。


「蓮、何か気付かないか?」

「何がだ?」


 そう言うと、駿はもとの位置に戻った。


「俺はここから襲い掛かった。それも、殺す気で。まあ、殺す気はなかったけど」


 その位置は、オレからわずか5メートルほど。

 駿は仮面を外すと、そこには痣があった。つまり、覚醒して襲い掛かった。


「それが? オレも覚醒しているけど」


 オレも仮面を外し、痣を見せる。


「覚醒していても、この距離で、準備もしていないのに準備万端で防ぐことは不可能に近い」

「つまり……?」

「理科でやったろ? 脊髄反射」


 たしかに、剣は自分の意思で出したが、防具はほぼほぼ無意識だ。

 あれ、でも考えていたよな? なら、脊髄反射ではない……?


「無意識に起こる反応。あれだ」

「いや、防具のことも考えていたぞ?」

「……まじ? ……そうか、神器のせいで?」


 オレの神器は【知】。となると……。


「効果の中に思考加速がある。それか?」

「向こうで神器の特性は使えているのか?」

「いや、無理だ。神器が覚醒してないんだし」


 そう、神器はあくまで持っているだけ。

 加護持ちと同様に、強さに補正は掛かっているだろうけど、覚醒すれば更なる強さを得ることができるらしいが……。

 

「となると、覚醒は近いのかもな。蓮、最近……強さを引き出すこととかあったか?」

「ああ、2回ほど」


 魔狼フェンリルとの戦いでの最後の場面。

 リーインが殺された際の衝動。


「それはどんな場面だ? もしかして、死にかけ、何かしらの衝動が走った際か?」

「ああ、大当たりだ。死にかけの方は……死にかけとまではいかないがな」


 むしろ、そのせいで悪化した。


「体は壊れたか?」

「最初はな。2回目はなんともなかった」


 魔狼フェンリルを倒したあと、体中が悲鳴を上げ、3日寝た。


「やはり、今すぐ戻るべきだ。体の準備は完了している証だ。神器の覚醒は近い」

「そうか……なら、ありがとう。一刻も早く戻るとしよう。覚醒にはどうすればいい?」

「とにかく戦えばいい」

「なるほど、おあつらえ向きだな」

「……怒りに身を委ねるなよ?」


 ギクッ!!

 かつての自分がフラッシュバックする。


「……大丈夫だ。ああ、大丈夫」

「……だといいんだがな」


 オレにもわからない。オレが一番不安なんだ。


「まあ、【知】が抑制してくれるか。まあ、怒りに身を任せて戦うのも手か……」


 神器の覚醒に手段はえらぶ必要はないのか……。


「経験値みたいなものか?」

「さあ? 俺もよくわからない。俺は戦っていると急に、だったからなーー」


 優秀なようで何より。


「覚醒したら更に強くなるし、神器の特性も全部引き出すことができるようになる」

「オレは全知になるのか……」


 全知か……経験談が一切ないから想像がつかない。

 既成事実をすべて知る能力。未来予知はない。

 1秒毎におびただしい情報量が加わるはずだ。


 他人の心は読めるのか?

 できたらノープライバシーだな。


 他人の記憶も読めるかな。

 記憶も所詮、情報だし。


「心は読めないぞ、多分」

「え、なんで?」


 まさか……心を読んだのか!?


「他の柱の中に【心】があるからだ」

「効果が被る可能性もあるだろ?」

「ああ、たしかに」

「それよりさっき、オレの心――」

「顔見ればわかる」


 オレ、ポーカーフェイス鍛えないとな。

 仮面を常時着用しているから、そこら辺の技術が退化しているのかもな。


「まあ、ともかく……じゃあな」

「次は解決してから、正式に来い。時間をかけ過ぎるのは悪手だからな。ささっとな、ささっと」

「わかってるって」


 そうしてオレは教会に戻った。

 1時間も経過していない。 

 


 






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