水晶使いの誕生

第0話   プロローグ

 誰も、異世界に行くだなんて考えないと思う。

 ライトノベルが好きな人でも、行ってみたいと思っていても、行けるわけないと心のどこかで思っている。


 突然人がいなくなっても、拉致、誘拐されたか、殺されて遺棄されたか、はたまた家出したかと言われる。

 解決されなくても、次々と新しいニュースが耳に入り、世間からは忘れ去られてしまう。

 そんな解決されなかった失踪事件は山ほどある。


 そんな事件で消えてしまった人たちは、どこに行ってしまったのか。

 どこかでひっそり暮らしているのか、どこかに閉じ込められているのか、既にこの世から旅立ってしまっているのか。

 もしかしたら、異世界に行ってしまったかもしれないが、誰にも分からない。

 

 ──そう、誰にも。






 なんの変哲もない今日。いや、今日に限った話ではない。ずっと……。


 これからもきっと、そうなんだろうな。なんて考えながら、担任の、歴史の授業を受けている。


 授業はまだあと40分もある。まだ10分しか経っていないのか。

 もう50分以上は経った気がする。


 ダルい。窓の外も見飽きたしなぁ。まあ、半年以上も見てきたわけだし、そりゃ飽きるか。


 席替えしても、見えるのは、壁か廊下だけ。窓際は他と比べたらマシなほうだ。

 そもそもうちの担任は席替えあんまりしないんだよな。3ヶ月に1度って言ってたな。

 夏休みとかの長期休暇を考えると……年に2、3回ってところか。


 なんて考えながらノートを取っていた。一応ノートは取るのだ。

 これでも、成績は学年でも上位層。何、羨ましい? オレが知るかよ。


 すると突然、耳鳴りがして、なんかよくわからないけど、不思議な気持ちになった。

 いや、そもそも耳鳴りなのか? 

 なんだか、脳内に直接響くような、音が耳から入ってきている気がしない。


 まあ、耳鳴りになった覚えがないから、耳鳴りがどんな感じで、どんな音か分からないんだけどな。

 でも、とにかく落ち着かない。

 心がざわついている?

 オレは何に不安がってるんだ?

 いや、そもそも不安なのか?

 他のみんなは?

 ……みんなもオレと同じらしい。

 キョロキョロとしたり、近くの席のやつとヒソヒソと話している。


 寝ているやつは……いない。珍しいな。5時間目ともなれば2人以上は寝てるのに。

 いや、さっき起きたようだ。


 先生は何も感じてなさそうだな。


 でも……何か変だ。まるで、オレ達が見えていないような……。ま、今は先生はどうでもいいや。

 とにかくこの音となんとも言えない心のざわめきはいつ止むんだ。


 そして、なんの気なしに先生の後ろ、黒板を見てみた。


 ──文字が動いている?


 先生がなにか書いてるが、書くそばから動き出したり、消えたりしている。

 もともと書いてあった言葉は1文字も残っていない。


 目をこすってみる。何も変わらない。もう一度。やっぱり、何も変わらない。


 文字が線になって、線がだんだん円状に集まっているような…。


 二重の円が出来上がり、その間に文字が目にも止まらぬ速さで書かれた瞬間、強い光がオレたちを襲った。

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