第1話   突然の異世界転生


 目を開けると、暗い空間にいた。

 すると、足元の地面が淡く光りだす。下を見ると、地面はなかった。

 浮かんでいるわけではなさそうだ。確かに足がついている感触はある。


 そして周りにはクラスメイトがいた。


 そして顔を上げると、眩しい光をまとった女の人がこちらを見下ろしていた。

 いや、女と判断していいのか分からない。


 ただ、整っているであろう鼻と口と艶のある長髪が見える。髪の色は茶髪のようだ。

 ただし、目は見えない。光で見えない。目だけではなく、体全体が光っている。

 服が光っているわけではない。足元のこの光ように、淡く光っているのだ。


 下半身はどうなっているんだろう。そう思って見てみると──ないのだ。そう、下半身が見えない。

 目のように光っていて見えないというわけではない。へそのあたりから消えているのだ。


「ようこそ皆様。私は異世界の神です。皆様にはこれから異世界──私の世界──に行き、魔王を退治してもらいます」


 うん、常套句出た。ドッキリにしては設定が甘いな。

 考えた奴、結構な厨ニ病だろ。オレも人のこと言えたもんじゃないが、あれほどではないぞ……多分。ライトノベルはいろいろ漁ってるけども。


 いや、まてまてまて。神だと? こいつが(笑)?


 そう思うと少しムッとした様子で、


「まず、私が神である証拠を見せましょう」


 と言った。


 そう言うと自称神は手のひらから火や、水、岩を出した。唐突に岩をオレたちの近くに置き出した。


「触ってみてくださって結構ですよ」


 ちょうど目の前に置かれていたので触ってみる。確かに触れる。オレだけじゃない。みんなも触れている。


 すると、それを見た自称神は、岩を指差した。


 何をするつもりか怪しんでいると、突如、岩が光りだした。

 燃えたり、苔を生やしたりと、ありえないようなことが立て続けに起きている。

 燃えているときは熱く、苔も触れる。


 その後、自称神が指を鳴らすと、岩は消えた。

 欠片も残っていないし、跡もない。こっそり採った苔も消えている。


 異世界の存在というのはもともと信じていたから、疑いようがなかったが、これが神であると言うのは、まだ信じきれない。

 まぁ、神じゃなかったらいつかボロを出すだろう。


「皆様の反応だと、魔王退治の理由を話しておく必要があるようですね」


 そりゃそうだろう。知らないやつに意味の分からない戦いを強要されて、はい、そうですか、と従うやつはいない。


「長くなりますよ」


 校長の話で鍛えられたオレ達だ。問題はない……はずだ。




 その話の内容とは、世界そのものと神に関することだった。


 世界は、生命が活動するときに消費されるエネルギーが栄養となるらしい。

 ただし、その生命は、一定以上の知力がないとだめらしい。数値にして50。一般の人間は、400ほどだそうだ。


 つまり、生命がたくさんいればそれだけ世界の力も大きくなる。そしてその生命を神が管理する。

 動物園のような仕組みだな。オレは何かな。人間だから猿系かな、やっぱり。……話がそれた。


 だが、神は生命の数を大きく変化させるような干渉をしてはならない。見守るだけ。

 だからどんな極悪人がいても、異常気象があっても見守ることしかできないらしい。


 あまりにもひどく、必死に救いを求められたら少しは干渉してもいいらしいけど。干渉とは言っても、手段を教えるぐらいだそう。

 神が出てきたら、人間はすべてを神に委ねてしまうからな。




 ──だが、異世界で魔王が誕生し、その魔王が血もにじむ努力の結果、神レベルの力を手に入れてしまった。


 1つの世界に存在できる神のエネルギー量には上限がある。上限を超えてしまった場合、力の弱い順から神が消滅してしまうらしい。

 力の強い神はそれなりに重要な役割があるためだそうだ。


 しかも魔王は、かなりのエネルギーを所持しているそうだ。神の中でも上位クラスにあたるレベルの。

 だから、かなりの神が消えてしまう可能性があるらしい。必ずしもエネルギー量=神の格ではないらしい。

 そこでこの自称神は魔王を倒すべく兵を集めようとした。


 ちなみにさっきから自称とつけているのは、まだこの存在のことを信じきれていないからだ。


「それが皆様です。皆様はくじ引きで決めました」


 クジかよ!!!!!

 全員が心の中で突っ込んだ。ダーツでも投げたのかな。こんな当たって嬉しくないくじってないな。


「そうそう、向こうの世界の話をするのが先でしたね。先程より長いですよ」


 要約する。要約と言っても、さっきの話と同じで、同時並行でまとめているだけなんだけど。


 オレたちの世界は入りやすく出にくい、特殊な形らしい。

 なので、スライムやヴァンパイアといった、異世界のモンスターがやってくることもある。


 やって来るのは、たいてい下級のモンスターだが、極々稀に鬼人やドラゴンといった上級のモンスターがやってくるとのこと。

 ただし、そんなことはほとんど起こらない。


 じゃあ、オレ達の世界にいる(らしい)鬼やドラゴンは何なのか。

 それも質問するまでもなく答えが出てきた。それは、下級のモンスターが異世界に適応すると進化する。

 例を出すと、ゴブリンは鬼になる。


 ただし、オーガや鬼人といった本来の進化先にはなれず、オーガの亜種と言うべきものに進化する。

 鬼は、ゴブリンの姿が変化して知恵がついただけのようだ。もともと力が弱いため、力は強くない。


 ヴァンパイアのように、適応しても姿は変わらない種族もあるが、かなり弱体化するらしい。変な進化や弱体化も、世界の違いが原因だそうだ。


 しかし、異世界のモンスターというものは、長生きできない。上級の存在ほど異世界で長く生きられないのだそうだ。これは、魔力がないせいだとのこと。


 人間はモンスターではないため、偶然迷い込むことはないらしい。

 オレたちの世界の人間は、むこうの世界の人間より下級の存在らしい。ただ、魔力を有しているかどうかの違いだけではあるが。


 だから、むこうの世界に行くことはあれど、やってくるとはないらしい。もし仮にやってきても、魂の状態になって、記憶も無くすそうだ。

 人間に転生できる保証もないし、確率も低い。逆もまた然り。


 また、向こうの世界の生態系は、オレたちの世界の一部の動物プラス魔獣、魔人、人間、人間の亜種という形で、人間はオレたちの世界とは、比べ物にならないぐらいほど少ないらしい。

 けど、オレたちの世界と比べ、生命の数は向こうのほうが多いとのこと。どんだけ人外の生き物が多いんだか、想像に難しくないな。


 実際、オレたちの世界にも、異世界に渡ることのできる人間は多くいるらしい。ただ、魔法の才能を持つことが条件だとのこと。

 才能を持つ者は意外といるらしいが、科学文明の環境では、なかなか開花せず、そのまま死んでしまうことが多いらしい。

 極稀に異界への門を開くものがいるが、この自称神の世界には行けない。仕組みが違いすぎるからだ。


 また、偶然世界や次元を超えても、狭間を漂うか、何もないところに出るか、時間や場所を超えるのがオチらしい。

 行ける世界や次元、時間も限られている。魔界や天界などだ。地獄、天国なんて呼ばれたりする場所だ。



「ここからは転生の話に入っていきます。まず、皆様には向こうの世界に馴染むため、転生をしてもらいます」


 また話の内容をまとめる。同時並行で。


 オレ達にはかなりの寿命が残っていたため、様々な補填があるらしい。サービスじゃなくて補填ね。残りの寿命をエネルギーに変換するそうだ。寿命はかなりのエネルギーになるとのこと。楽しみだ。



 ・孤児や捨て子にはならない。

 ・愛されて育つ。

 ・元素人の職業を習得可能。



 こんなものだ。意外と現実的だが、よしとしよう。


「質問はございませんか?」


 すると、クラスの女子の1人が手を上げた。


「向こうの世界のわたし達はどうなったの?」

「……存在からなかったことになります。流石に皆様がいっぺんに死んだというのは不自然ですから」


 不思議なことに、誰も何も言わない。


「……質問はないようですね。では、元素人での選択をお願いします」


 元素人は……なるほど、火、水、土、風の四大元素を操ることができるのか。

 それなら……。


 元素人では、土系統にして……、まだ矢印がある。え〜と、太い矢印が1つに、あとは細い矢印が複数。太い矢印の方は…、闇系統につながっている。なるほど。四大元素からの派生ってわけね。


 細い矢印の方は……宝石、石、泥……等々。


 宝石と石は、見た目の問題。泥は行動阻害系のデバフがメインのようだな。


 これはもう、選択肢は決まったようなものだ。宝石系統にしよう。

 そこからさらに矢印が……と思ったら宝石の種類の選択だった。まぁでも、どれも効果は同じで、見た目の問題のようだ。

 とは言っても、異世界物の定番、アダマンタイト、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネ、アポイタカラといった魔石はない。

 オレたちの世界にもあるようなものだ。少し残念。


 ルビー、サファイア、エメラルド、水晶……。少し悩む……。まぁ、いいや。効果はどれも一緒なんだし。水晶にでもするかな。




 今更ながら、ドッキリとは思えないな。設定画面が半透明で空中に浮かんでるんだ。しかも操作方法が頭で考えるだけ。

 こんなの今の科学じゃできないはずだ。頭に何かつけられている感じもない。夢ならありえるけど、そこまでする必要性を感じないし、金がかかりすぎるだろう。


「では、準備もできたようですね。あぁ、あと、記憶はそのままですよ。活躍を期待していますね」


 突如、足元の光が強くなって、オレ達を包み込んだ。最後に見えた神の顔は笑顔だった。その後、意識は途絶えた。

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