第64話  近衛騎士の卵②

「さて、向かって左からオレ、ヤマル、ターバ、リーインでいいな。最初にターバが持って──」

「──サクッと殺っちゃえばいいんだな」

「ああ、そうだ。あと、武器は3人で回してくれ」

「「了解」」


 ターバは、この中で一番の剣の使い手だ。

 スピードもパワーも兼ね備えている。だからこそ、最初の持ち手はターバだ。


 オレは水晶を使って、ここから『晶弾』を一発放てば終わりだ。

 ゴブリン程度、簡単に貫ける。


「「ぎゃぎゃぐ!!」」


 そのゴブリンの濁った汚らしい鳴き声を合図にオレたちは覚醒し、ゴブリンに襲い掛かった。 


 3人はゴブリンが眼前に迫ったところで高くジャンプし、ゴブリンたちの後ろ側に降り立つ。


 4匹のゴブリンが3人に気を取られている隙に、オレは『晶弾』を生成し、オレの目標のゴブリンの眉間に打ち込む。


「……ゃ?」


 後ろを振り返ったところに、頭を貫かれたため、何が起こったか理解できず、ゴブリンAは息絶えた。

 これにて、オレのとりあえずの役目は終了。


 それと同時に、ターバがゴブリンCの首を刎ねた。


 そして、ゴブリンを羽交い絞めにしているリーインに剣を投げ渡す。

 リーインはゴブリンを投げ、飛んできた剣をキャッチし、ゴブリン目掛け投げる。

 剣はゴブリンの腹に刺さり、ゴブリンDは死んだ。


 ヤマルはゴブリンの首を折っていた。

 白目を剥き、口から泡を吹き、死んでいた。剣の存在意義について……。


「さて、終わりか」

「いや、ゴブリンの亡骸を森に捨てないとな」

「この血はどうしようか?」

「それはオレがどうにかしておく」


 幸い、血はあまり垂れていない。


 自分の倒したゴブリンを森に向かってハンマー投げのように投げ、オレの作ったシャベルで血のある部分を掘り返し、作業は終了。

 覚醒状態で投げたため、かなり遠くまで飛んでった。


 汚れが残っていないことを確認し、『晶壁』を消す。


「終わったようだな。ふむ……時間にして3分。……すごいじゃないか! さて、食事はまだ冷めていない」

 

 料理の続きを楽しみ――まだ温かった――、腹も膨れたところで再び出発した。






 そして6時間後、ようやく王都に到着した。時刻は午後6時。


「食事処を予約してある。その後、寮の割り当てられた部屋に案内する。安心しろ、今晩は奢りだ。……近衛騎士団のな」


 へーー。どんな店なんだろ? そこまで高価な店ではないだろうけど。






 定食屋で美味しい食事を頂き、オレたちは王都内にあるアパートみたいな建物に案内された。


「ここだ。ああ、集合時間ピッタリだな」


 副騎士団長の目線に合わせると、道の向こうから1人の男が歩いてきた。


「副騎士団長様、こんにちは」

「ああ、時間ピッタリだな」

「はは。この者たちが見習い生ですか?」

「ああ、そうだ。この3人・・を部屋まで案内してやってくれ」

「承りました。初めまして、近衛騎士第二隊所属、イッコウ・ヒンです。では、部屋まで案内しますので、ついてきてください」


 イッコウさんに呼ばれ、ターバ、リーイン、ヤマルと、順についていく。


 ──だが、オレは残された。


「副騎士団長様、これはどういうことですか?」

「ラインは私についてこい」

「…………わかりました」


 何が何だか、まるでわからない。

 だが、ついてこいと言われた以上、ついて行かないわけにはいかない。






 オレが案内されたのは、


「……王城?」

「そうだ」


 王城の門を通り、正面の城へ……ではなく、右手に見える尖塔に案内された。


「ここは……?」

「近衛騎士団団長──レイハル・ストロークの部屋……? 家? だ」


 つまり、ここで寝泊まりしてんのか。

 普通の一軒家より広いうえに、地上4階建てぐらいの高さがある。


「さ、入るぞ」


 言うが早いが、木製のドアをノックし、


「ミュイ・ライトリクスです、騎士団長。ライン・ルルクスを連れてきました」

「わかった。入れ」

「失礼します」

「し、失礼します」

 

 中は、綺麗に整理整頓された、それでいておしゃれな部屋だった。

 中には、騎士団長の他には、腰に剣を差した執事が一人のみ。


「さあ、好きな席に座って。お茶を出そう」

「失礼します」


 席に座ると、執事が茶を持ってきた。

 緑茶ではなく、紅茶だ。酸味のある──体育祭とかで出された果実水──メイルの実の果実水も用意されていた。  


「お好みでどうぞ」


 なるほど。これを混ぜるとレモンティーみたいになるのか。


「ありがとうございます」


 礼を言って、適当に注ぐ。

 紅茶はレモンティーが好きだった。


 なにより、今も酸味が好きだ。

 入れない理由はない。副騎士団長は入れずにそのまま向かい側で飲んでいる。


「さて、予告もなく、急に呼んでしまったことは謝る。ただ、公の場で公言することができなかったのだ」


 この感じ……ドラマじゃ、極秘任務が言い渡される、物語の序盤だよな。

 だが、それは一流のスパイとかエージェントだから言い渡される。


 一方、オレはどうだ?

 まだ冒険者学校を卒業したばかり。経験なんか、全くと言っていいほど積んじゃいない。


「……いえ」

「さて、本題に入ろう」


 なんだ? 何を言い渡される? 


「――冒険者になれ」

「? …………え?」


 ぼ、冒険者?

 近衛騎士じゃなく?


 オレ、覚醒したんだけど。


「単刀直入に言わせてもらう。お前は強い。だから、冒険者になって実戦的な戦いを身に着けてほしい」


 ああ。実戦向きな戦士となれ、と。


「ああ、騎士団長様に補足をつけよう。ライン、君は一応近衛騎士の人間だ」

「なるほど。冒険者としての活動が任務、という解釈でよろしいので?」

「ああ、言い得て妙…………いや、まさにその通りだ」


 近衛騎士として、冒険者として活動しろ、と。

 敵国に侵入し、標的ターゲットの側近として働くっていう……。いや、冒険者は敵じゃないけど。


「君の所属は第一隊……隊長はミュイだ。あと、【魔術師】アーグ・リリスも、君と同じ状況だ」


 へーー。なんかあったら頼ろっと。


「とりあえず鉄級の間は、ここ――王都で活動してもらう」


 鉄Ⅲ。別名、冒険者見習いだ。

 上位の冒険者に指導してもらいながら、魔物や薬草など、冒険者としての活動を身に着ける身分だ。

 期間は1年間。特例もかなり存在する。


「ただ、近衛騎士であることも事実。そして、特別任務に着くことも事実。それに見合った待遇も必要だ。そうだな……隊長たちと同等でいいか」


 ん? なんか独り言が始まった。

 オレの待遇の話?


「よし決めた。とりあえず、ここ2、3日はここ、王都で過ごしてくれ。さて、もう7時半か。帰っていいぞ」

「失礼します」

「失礼します。あ、お茶、ご馳走様でした」


 


 騎士団長の住まいをあとにし、門を抜け、再び副騎士団長に夜道を案内された。


「ここで、数日過ごしてくれ。それと明日、朝10時に教会前に来てくれ」

「わかりました」

「ほら、部屋の鍵だ。2、3日後にはなにかしら用意されるからな」

「何から何まで、ありがとうございます」


 至れり尽くせりだ。ほんと、ありがたい。


「細かい話は明日またする。では、おやすみ」

「ありがとうございました」


 副騎士団長と別れ、宿に入る。するとすぐに、


「いらっしゃいませ。宿泊なさいますか?」


 と聞かれたので、鍵を見せる。鍵に彫られた番号を見、手元の紙に目を落とす。


「失礼ですが、お名前を伺っても?」

「ライン・ルルクスです」

「確認いたしました。どうぞ」


 1階は、入り口のすぐ右手に受付があり、左手一面は酒場だった。

 酒場というより、見た感じフードコートに近い。

 見た目は、ファンタジー小説に出てくる酒場なんだが……作りはフードコート。


 そして、受付とは反対側の壁—―右奥に上階に繋がる階段が見えた。


 オレは階段を上り、全3階層のうち、その最上階—―3階に進んだ。


「え~~と、303号室ってことは…………ああ、これだこれだ」


 取り外し型の木の板にライン・ルルクスって彫ってある、ここで間違いないだろう。


 鍵を入れ、回し、中に入る。

 すると、自動的に明かりが点いた。魔法具の効果だ。この扉とリンクしているのだろう。


 中の調度品は、とても上品で、かつ落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「良きかな良きかな」


 普通の宿だ。

 ただ、扉と照明の魔法具をリンクさせているあたり、そこそこいいランクのホテルなのだろう。


 


 部屋の備え付けの風呂で疲れを癒し、水晶で少し遊び、寝た。


 荷物が届いていないせいで、読みかけの本が読めず、することがなかった。

 おかげで、今日の就寝時刻は10時だ。


 そして翌朝、5時に目を覚ますこととなる。

 


  

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