第60話 卒業試験③
「では、リーイン・ケミスさん対副騎士団長、ミュイ・ライトリクス様!! 両者、構え!」
リーインはエルフだ。
エルフという種続柄、五感が優れている。特に、聴覚。
鬼が身体強化、覚醒をすると角が伸びるのと同じように、エルフは耳が伸びる。
前世で読んだ漫画の基準で言うと、身体強化時が
リーインは
あの、副騎士団長の魔鉱製の剣。魔力を注ぐと、鈍く発光するんだよな。何かあるのか?
「…………始め!!」
その後のリーイン、ヤマルの戦いは――当たり前だが――副騎士団長の圧勝だった。
あれだけ戦えたターバがおかしいんだ。
だがこの数分後、オレもその「変な奴」の仲間入りをすることを、オレはまだ知らない。
「では、次が最後です。ライン・ルルクス!」
『ミュイ、注意――いや、最大級の警戒をしろ。あれは…………やばい』
「わかっております。そして、感じています。やばい、と」
なんか、すんげぇ言われよう……。
それに、オレは何も発動していないから、そんなもんわかんないと思うんだけど。
オレに何か憑いてたり?
騎士団長と副騎士団長がやばいと感じたのは、本能から来る、直感のようなものである。
食物連鎖の中にいる1つの生命体としての、本能からの警告――生存本能が、ラインという……檻の中の猛獣……怪物を感じたのだ。
「では、両者構え…………始め!!」
構え、覚醒する。
姿勢は受けだ。攻めでもよかったが、なんとなく、受けのほうがいいと思ったからだ。
副騎士団長をよく見ると、面白いことに気づいた。――
実際は、覚醒ほどの魔力反応ではない。
先に足に魔力を込めている、という意味だ。
副騎士団長の顔には、覚醒者の証として、痣が現れている。
左目の下から、根っこのように3本の線が緩やかな曲線を描きながら落ちている。
ちなみにオレの痣は、左目を切り裂くように1本の線が上から下へ、外側に向かって、斜め方向に落ちている。
眉、目の下辺りで、若干歪んでいるため、直線ではない。
「――『飛撃』!!」
『飛撃』は詠唱が必要だ。物理攻撃魔法に分類されている。
副騎士団長の袈裟斬りが飛んでくる。なら、ここはオレも――
「――『飛撃』」
突きではなく、薙ぎ払いだ。ちょうど、副騎士団長の『飛撃』と直角に交わるように放った。
2つの『飛撃』は、ぶつかった瞬間相殺された。理由は、力の向きの関係だ。
「…………『飛撃』……」
視界の一部が、かき消えた『飛撃』の欠片でできた霧で遮られている隙に、突きの『飛撃』を飛ばした。
魔力探知で、どこにいるのかはわかっている。
晴れてきた視界に、『飛撃』を避け、低空姿勢で駆けてきた副騎士団長の姿が映った。
「はああぁぁぁぁああああ!!!」
そして、近づいてくるやいなや、すさまじい連撃を放ってきた。
突き、逆風、袈裟斬り、右薙ぎ、右斬り上げ…………。
ときに棍で受け、ときに棍で流し、ときに『
もちろん、防ぐだけじゃなく、攻撃も入れている。水晶頼みだが。
『晶弾』に、『晶弓』、『晶拳』…………。
『晶弾』の応用、『晶弾・機関』の更に発展形――『晶弾・
使えたら、攻防一体なんだが。
少しでも集中力を欠けば、大きい一撃をもらうのは必至だろう。
なんとしても、それは避けたい。
だってオレは、勝つために戦ってるんだから。
「はあ!!」
このちまちまとした攻防に飽きたのか、大振りの一撃を出してきた。
大きく振りかぶっての一閃。
今までの攻防から判断した速度予測値を大きく上回る一撃に、反応が少しばかり遅れてしまった。
間一髪で間に合ったが、これは好機だ。
あたかも、勢いを殺しきれずに吹っ飛んだように見えるようにタイミングを合わせ、後ろに跳んだ。
そして、距離を詰めようと迫ってくる副騎士団長の――文字通り――目と鼻の先に『
魔術師にとって、相手との距離は武器だ。
今回の『晶壁』には、必要最低限の魔力しか込めていない。
つまり、少し攻撃するだけで壊れる。
さすがに、覚醒している状態で生成したため、数回は攻撃しないと壊れないだろうがな。
そして、それに副騎士団長は気づいているはずだ。
なにより、目の前に出現したんだ。方向転換は間に合わない。なら、攻撃するだろう。
今のうちに集中し、周りに『晶弾』を生成しておく。
維持魔力がバカにできないが、この3年間で魔力量も増やした。
入学前の倍近くにはなったんじゃないか?
――ドガン!
4発か。
どんな攻撃をしたのかはわからなかったが、範囲の広い攻撃が最後に放たれたのはわかった。
おそらく『飛撃』だろう。その他は、単純な蹴りやパンチだろう。
『晶壁』の穴から、切っ先をこちらに向けた副騎士団長が顔を覗かせていた。
砂煙と『飛撃』の欠片で視界が悪いせいか、『晶弾』は見えていないかな。
だが、それで十分。
さて、用が済んだものは片付けないとな。
穴の開いてしまった『晶壁』を消す。距離はおおよそ20メートル弱。
結構近くに感じる。
「――『飛撃・連』!!」
副騎士団長が大きく、剣を三回振るった。すると、それら全てが飛んできた。しかも、ばらばらではなく、繋がっている。『連』って、「連続」の連じゃなくて、「連なる」の連か?
まあいいか。
「――『飛撃』」
3つの連なった『飛撃』の連結点である2か所に、突きの『飛撃』を打ち込む。
真正面から見ると三角形だな、とかどうでもいい感想を抱いてしまう。集中せねば。
そしてもういっちょ、
「──『飛撃』」
棍を大きく横に薙いで、横に広い『飛撃』を放った。これで、互いの『飛撃』は打ち消された。
そして、再び悪くなった視界。だが、準備完了だ。
『飛撃』の欠片が漂う箇所を避けるように、無数の『晶弾』を放つ。
着弾点は、もちろん副騎士団長。
だが、副騎士団長は読んでいたのか、それとも偶然か。『飛撃』の欠片の中を突っ込んできた。
だから、オレは手を前に出し、手のひらを上に向け、人差し指と中指で「こっちにおいで」のサインを出した。なんなら、煽りだ。
「──!!」
あ、怒った。そんなつもりじゃなかったんだけどなーー。……なんてな。
「ぐぁっっ!!」
後ろに回り込んだ『晶弾』の一部――3発ほどが、副騎士団長の背中に直撃した。残りは上を通り、オレの周りを回っている。
副騎士団長は、先ほどの一撃で大勢を崩し、その状態を『
『晶鎖』の長さを調節するため、地面に着いている方の先端を少しずつ、引っ張りながら消した。
『晶鎖』は、先端を地面に突き刺し、そこからチンアナゴのように生やしている。
だから、先端に近い部分を消し、長さを調節できる。地面の中まで鎖状じゃないしな。
「さて、止めを――」
「ふん!! ──『自由化』!!」
突如、副騎士団長を中心として、半径1メートルにも満たない範囲で魔力が走った。
『自由化』。
そのださい名前から察するに、拘束の解除…………いや、もしかすると行動阻害系デバフの解除か?
泥じゃなくて水晶を選んでよかった~~。
「――な!? なぜ…………?」
だが、副騎士団長は『晶鎖』から脱出できていなかった。
『晶鎖』に含まれる魔力が少々消えたか。多めに魔力を入れておいてよかった。
だが結局『自由化』の詳しい効果はわからずじまい、か。
拘束解除なのか、行動不能の解除なのか。状態異常の解除の可能性もあるな。
「まあ、いっか。近衛騎士になれば、習得できるんだし」
それだけ言うとオレは、『晶弾』を上空に一か所に集め、標的を副騎士団長にセットした。
「――『晶弾・龍』……――『
即興で考えた名前にしてはいい出来の攻撃は、容赦なく副騎士団長の体を穿った。
殺傷能力は抑えてあるから、不十分か……。よし!
未だ降り続ける『晶弾』の雨。拘束された体。武器も一緒に拘束されている。やっぱり、これだな。
副騎士団長は地面から伸びた『晶鎖』に体を固定されているため、背は地を向いている。副騎士団長との距離はおよそ10メートル強。ここで、背中目掛け、『晶棘』!
地面から伸びた『晶棘』は見事、副騎士団長の背の中心に命中し、そのまま伸び続ける。
先端は丸めてあるから、突き刺さる心配はない。
副騎士団長の体が持ち上がるのに合わせ、『晶鎖』も伸びる。
『晶鎖』の長さに余裕を持たせたあとで『晶棘』を――高さ20メートルほどで――止め、一瞬で消した。するとどうなるか。
――抵抗すら許されず、地面に叩きつけられる。
「――カハッ!!」
もちろん、この間『晶弾』は降り続けていた。
予め生成していた分はなくなったから、生成しては発射、生成しては発射を繰り返していたんだが。もういいか。
――勝った…………!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます