第38話 土曜日
それは、木曜日の
「みなさん、何人かバイトを希望していたと思いますが、全員、バイト先が決定しました。前に紙を貼っておくので、各自見ておいてください。それでは、お疲れ様でした!」
オレは後ろの方の席に座っているため、前に貼られている紙をすぐに見ることはできない。
他の奴らが既に見ているからな。
少し時間をずらして見るとしよう。
「ライン、俺らの配布先同じだった!」
「配布先言うな! ……んで、バイト先はどこよ?」
できれば自分の目で……なんて、合格発表のような信念は抱いたりしない。
「荷馬車の警護だと。スゥも一緒だ」
「ほ〜ん……警護ねぇ。何から守るんだ? 盗賊か? モンス……魔物か?」
「さあ? でも、俺らは一まとまりとして動かされるんじゃね?」
「それもそうかもな。バランス良さそうだし」
ターバが前衛、スゥが後衛、オレが場合に応じて前衛や後衛。
できれば、あと一人、近距離でも遠距離でもいいから欲しいところだが、しょうがないか。
1つの馬車に護衛は何人もいらない。
「……あれ、でも、オレらが荷馬車の警護? 結構大任じゃね?」
「だよな。でも、契約期間は1年らしいぞ? 他は3年契約がほとんどなのに」
「……1組のバイト希望者の上位3人がやらされるのかもな。で、何曜日? 土曜か日曜かのどっちかだろ?」
「それが、書かれてないんだ。とりあえず、今週は土曜に行けばいいらしい。だから、そこで指示があるはずだ」
「なるほど。で、時間は?」
「朝の9時に領都東門前だ。揃って来るように言われている」
「わかった」
でも、荷馬車の警護か。定期便なのか?
「なぁ、みんなはバイトどこに配属されたよ?」
午後6時。
いつもの4人と晩ごはんを食べているとき、みんなに質問してみた。
「私たちは揃ってあの服屋です」
「ああ、あれね」
「と言うより、クラスのバイト希望者の2人に1人がそこだね。クラスの2/3は希望してたから、16人ぐらいかな? もちろん、曜日は別れてるけどね」
「で、みんなは?」
「日曜日」
「ラインは何曜日だ?」
「オレは……決まってないな。わかってるのは、荷馬車の警護であること、明後日にとりあえず行くこと。それだけ」
「そうか。頑張ってな」
「戦うこともあると思うけど、頑張って」
ありがたいねぇ。情けが心に染みるねぇ。使い方合ってるのから知らないけど。
「ああ、ありがとな」
そして、土曜日。
朝ごはんを食べ、少し部屋で休憩し、ターバたちと寮の玄関の外で待ち合わせる。
オレたちは8時半の便に乗る予定だ。
「よ! そろそろ行くか?」
「そうだな」
「ねぇ、ライン、ターバ。荷馬車の警護って、アヌースに乗るのかな? それとも、馬車に乗せられるのかな?」
「さあ?」
そこら辺は行けばわかるだろ。
そして、8時50分。東門前に到着。
すると、
「ラインくん、ターバくん、スゥさんですか?」
横手から声をかけられた。気品が漂う女の人だった。
「はい、そうです。貴方は……?」
スゥが上手く答えてくれた。
「今回、貴方たちを雇ったサミス・キーランと申します。私はこの街の物流を担う者の1人です。そして貴方たちには、私の保有する荷馬車の内1つの警護をお任せしたいのです」
物流を担う者……。
社長までは行かないが……重役……部長あたりか? パイプができたと喜ぶべき……か?
いや、この人が馬車に乗るわけではなさそうだし、パイプはできないかな。
……違う。そんな目で見る相手じゃない。
物流を担う者? 一つの街を影で支える一企業の社長相当じゃないか!!
「もちろん、武器は貸し出します。ターバくんとラインくんは、弓を使えると聞いておりますが、スゥさんはどうですか?」
「私は使えません。明後日の方向に飛んでいきます」
「なるほど、わかりました。では2人には弓矢を貸し出しましょう」
「キーランさん、オレは矢は必要ありません。弓だけで大丈夫です」
「? わかりました」
一瞬、コイツは何を言ってるんだ? って顔をしたが、納得してくれたようでなにより。
「さて、皆さんには荷馬車に乗ってもらうことになります。乗り物酔いは大丈夫ですか? 大丈夫だと聞いていますが……」
あ〜〜、そういや、水曜の自習で学校の周りを走る馬車に乗せられたな。
「えぇ、大丈夫です。試されたので」
「わかりました。では早速、仕事の説明に入るので、ついてきてください」
そう言って案内されたのは、2階建ての一軒家だった。
門の外にあるのはどうかと思うけどな。
と、思ったが、その理由は家に入ったときに明らかになった。
「どうぞお入りください」
「お、お邪魔します」
入って左側には、武器があった。
学校の武器庫の半分にも満たないが、ほとんどの一般的な武器は揃っている。
なるほど。この家が外にあるわけだ。
門を抜ける際、武器は門に預けなければならない。
そんなこと、いちいちやってらない。……と言うわけでここに建てられたのだろう。
「では、この中から好きなものを選んでください。選んだら私のところまで持ってきてくださいね」
「「わかりました!」」
「あ、私は武器は大丈夫です」
スゥはいらないのか。
まあ見た感じ、魔法の込められた短杖は無さそうだったしな。
魔法の込められた短杖は、魔力探知で発見できる。
そして、オレは刀を。ターバは、剣を2本。
棍や槍といった、長い武器はなかった。
「すみません、槍や棍などの長い武器は、いろいろ邪魔になるそうなので……」
「あ……いや、全然……問題ないです。刀でも十分戦えますから」
「そうですか? それにしても、刀を選ぶとは珍しいですね?」
「使いやすいと思いますけどね? 攻撃方法が少々制限されますけど、切れ味は最高ですよ」
そして、レンタルできる武器を登録し、別の箱に入れ、家を出た。
そしてそのまま、隣接する1階建ての一軒家に通された。
「基本は土曜日と、平日の放課後に来てください。放課後は、荷馬車の方から迎えに行きます。そしてバイト代ですが、月に銀貨一枚と半銀貨一枚です。貴方たちが警護する馬車の御者は、あそこにいる、モフール・ユーサーです」
モフール・ユーサー。
年齢は30後半だろうか? 逞しい、引き締まった体をしている。
日焼けで染まった小麦色の肌に、鋭い眼光。
路地裏に入ったら喧嘩を売られてそう……いや、売る側か。
「……どうも。モフール・ユーサーだ。ふ〜ん、なるほどなるほど……。こいつらが1年の上位3人、か。確かに強そうだな。頼りにしてるぜ?」
「「ありがとうございます!」」
見た目で損してる人だな。ちょい悪兄貴みたいだ。
「さて、行くかぁ……って、もう行っていいんですよね?」
「ええ、どうぞ。行ってらっしゃい」
「わかりました! よし! んじゃ、3人とも。後ろの荷台に乗りな!」
そう言われ、荷台に乗った。
「よし、それじゃ行くぞ! ……森の方は特に注意しておけよ」
そして走り出した。
アヌースが馬車を引くので、さすがに幌はついている。
なるほど。確かに槍や棍は無理そうだな。
森の方に注意しておけって話だったな。
覗き見るための隙間が作られているから、ここから見ればいいんだろう。
ちょうどいい場所にあって、姿勢が楽だ。
それと、ゴブリンなどの害獣……害魔物? は魔力探知で発見できることがわかった。
つまり、常に魔力探知を発動させておけば問題はない。
ただ、この幌が僅かに魔力を帯びているため、結局隙間から覗かないとならない。
「──着いたぞ」
馬車で3時間。ようやく目的の村に着いたらしい。
「よし、まずは飯にするか。そこに木箱が4つあるだろ? それが支給される弁当だ。1人1個な」
「わかりました。モフールさん、どうぞ」
「おう、ありがとよ!」
「はい、ライン、ターバ」
「ありがと、スゥ」
「ありがと!」
一番近くにいたスゥが配ってくれている。
「食ったら、洗って乾かすからな。その間に荷物を馬車に詰めるぞ」
空になった弁当箱を、『
土で汚れないように、下には木の板を敷いている。
乾かそうと思えば、『
まあ、時間の目安には……ならないか。
村の農産物を積み、あとは領都へ帰るだけとなった。
「よし、これで全部だな!」
「見た感じ……そうですね」
「よし! さて、何か必要なものはありますか?」
と、モフールさんが村人に聞いた。
意外にも丁寧な口調だ。公私混同しないのか。
にしてもこの仕事はてっきり、運送業だと思ってたが……。便利屋か?
「そうですね……」
「魔物による被害とか、必要な物とか。必要な物は、行商担当に伝えて量を増やすこともできますよ? 明日明後日にここに来るはずですが」
「いえ、今のところ大丈夫ですね」
「わかりました。では、また来ます。よし、帰るぞ」
「「はい!」」
こうしてオレたちは、行きより狭くなった馬車に乗り、帰路についた。
時刻は午後4時。
武器をスゥに任せ、領都の中に入ってキーランさんのでっかい倉庫に作物を下ろし、門の外に出た。
「それじゃ、お疲れさん! 今日は魔物が出てくることもなく、盗賊に会うこともなくてよかったな。魔物に関しては、害になる魔物は発見次第……仕留めろよ? それじゃあな。また月曜に」
「「お疲れ様でした!」」
その後スゥと合流し、冒険者学校行きの便が都合よくあったので、それに乗って帰った。
ちなみに、弁当箱は馬車に積んだままだ。
あのままにしておいていいらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます