第35話  水曜日


 今日の1時間目はトレーニングか。

 4階のトレーニング教室に移動する。場所は、3階の柔軟の教室の真上だ。


「今日のトレーニングの授業、なにすると思う?」

「柔軟、回避とは別に授業があるってことは、それらとは違うこと……。でも、4組のやつに聞いたんだけど、4組も月曜、火曜で柔軟と回避は終わらせるらしい。だから、軽い模擬戦みたいなやつなんじゃないか?」

「あ〜、柔軟と回避の応用みたいな?」

「そうだと思うけどねぇ」


 はっきり言って、わからない。


 4組のやつ、とは、ゴース、ミル、ロイズ、ノヨの4人のことだ。


「ターバは友達からなんか聞いてない?」

「……聞いた」

「で、なんて?」

「え……と……そいつも……4組なんだよな」


 なんやね〜〜ん! 被ってんのかいな。

 まあいいや。更衣室に向かうとしようか。


 体操服は置きっぱなしの人もいるし、数日に一度持って帰る人もいるし、毎日持って帰る人もいる。

 オレは毎日持って帰る人だ。毎日洗濯してる。


 悪天候で洗濯物が乾かなかったらどうするかって? 生活魔術があるじゃないか。


 生活魔術『水滴ドロップ』。範囲内の水を操作する魔法だ。

 その範囲に洗濯物を入れれば、洗濯物の水分を操作できる。


 まあ、あくまで操作・・なわけで。

 水が移動するだけだから、近くにバケツを置いとく必要があるんだけど。

 ベランダの外に出したら……下に人がいたらアウトか。ご近所トラブルは避けるべし!




 え〜と、トレーニング教室は……。


「ここか」


 お邪魔しま〜〜す。はい。なんにもない!

 もうこれは、機材を全部退かした柔軟の教室だな。

 



「はい、ではトレーニングの授業を始めましょうか。トレーニングの授業では、まず最初に体操、次に軽く筋トレです。筋トレは、腕立て伏せ20、腹筋20、背筋20の順番です。長期休暇が終わる度に、5回ずつ増えていきますからね」


 長期休暇が終わる度に5回ずつ増える……。夏休み明けには25回ずつに、冬休み明けには30回ずつ……って具合か。


 まあ、20回ぐらい余裕だろ。

 前世じゃ、腕立て20回と背筋20回は余裕だったが、腹筋が周りより遅かったな。見た目の筋肉は周りよりついてたんだけど。


 腕立ては周りが20回やってるときに25回はできたな。

 背筋は周りと同じか、1、2回多かったか。


 けど腹筋がなぁ。周りが20回やったとき、オレは15回だっからなぁ。

 こっちじゃ、かなり筋肉ついてるから余裕だろうけど……腹筋はやらなかったんだよな。プランクならやったけど。

 あの、体幹トレーニング。




「──19……20!」


 背筋20回終了っと!

 遠距離型の奴らには少し厳しいのかな? 先生の掛け声はそんなに速いというわけではなかったけど。

 オレには関係ないから知らねっと!


 これからちゃんとやっていけば、楽になるさ。

 ……あ、回数増えてくから、楽にはならねぇか。


 でも、近接型の女子は大半が余裕そうだ。特にヤマル。


「はい、では授業に入っていきましょう。トレーニングの授業は、言ってしまえば筋トレです」


 組手とかはなし、と。

 まあ、筋トレは大事だ。


 でも、実戦で使えないと意味はない。ただそこにあるだけの筋肉は、最悪の足枷だ。

 だから、組手をしながら筋肉をつけるのがいいと思うんだよ。戦いで使う筋肉が育つから。


「ちなみに、遠距離型のみなさんも同じことをやりますよ」


 まあ、1年生でやることなんて、基礎の基礎だろうからな。

 遠距離型もできないとおかしいやつなんだろ。


「とりあえず、二人一組になってください」


 二人一組ってのは、昨日のやつでいいんだよな。


「はい。では、片方の人が足を肩幅ぐらいに開いて立ってください。そしてもう一人は、両足を掴んで、足と足の間に顔を入れて寝転がってください。そこからは簡単です。両足を揃えて上げ、それを立っている人が掴み、倒します。このとき、足が地面につかない、ギリギリの位置に来るようにしてください。そして、倒す向きは、正面、右、左と繰り返してください。とりあえず、これを1セットとして、一人10セットやりましょうか」


 ちょっと待て。情報が少し多いな。手本見せてくれや手本をよ。


「……ターバ、わかったか?」

「ん? なんとなく」

「じゃ、ターバが最初やってくれや」

「おお、いいよ。合ってるか知らんけど」


 ほうほう。ほうほう。なるほどなるほど……。


「お、ターバくん、ラインくん。正解です」


 他の奴らはわかっていなかった、と。

 理解できてたのはターバだけか。うんうん。とりあえずさ。みんな、こっちを見るのはやめようか。


 そんな思いが伝わったのか、各自筋トレに戻った。




「よし、次のセットで終わり! 頑張れライン!」

「おう! 余裕だ! 倍はいけるな」


 事実、余裕だった。

 にしても、こんな筋トレ初めてだ。この世界独自の筋トレ方法か?


 この方法だと合法的に他人のパンツ見れるな。

 きっと、どこかの変態が生み出したに違いない。




 それから数分後。

 ほとんどのペアが規定のセット数を終わらせ、休んでいた。


 全員が最後までやり終えないと、次に進まないらしい。

 あと少しかな? これでまだ1セット目です、とか言われたらさすがに次に進むだろうけど。

 ……あ、終わったらしい。




 少し休憩時間があり、ようやく次の段階に進みそうだ。もう1時間目の3分の1が過ぎた。






 ふ〜〜。やっと午前の授業が終わった。


 2時間目の最後30分で、手押し車のリレーをしたのは楽しかったなぁ。

 オレ、優勝。  

 前世でも、手押し車はメチャメチャ得意だったからな。感覚なんとなく残ってるからな。

 その感覚と、今世の筋肉。この2つが組み合わさり、クラス最高速度の手押し車が完成したのだった。

 まあ、手押し車がいくら速くても何かあるわけではない。


 柔軟の授業では、開脚は150度までいけた。重力のサポートがあって、だけどな。

 片足を地面に着け、もう片方を上げる場合、最高で110度だった。


 なあ……。ターバは何度までいったと思う?


 ……なんと、あの器具を使った状態で180度近く、片足上げでおよそ140度。

 ちなみに、ヤマルもそんぐらいだった。いや、オレも柔らかい方だったんだけどさ。




 今日の弁当は……おむすび弁当か。美味しくいただきましょう。

 おむすびでっか!! おかず少ね!!


 と、思ったけど、食べてみるとその感想は適当ではないとわかった。

 なぜなら、おむすびの中に具材がたくさん入っていたからだ。

 きゅうりや唐揚げマヨまであった。おかずには、卵焼きとかいろいろ。






 次は武術学習か。

 3階の武術学習教室に移動し、指定された席に着いた。


「この授業は、やることはいたって単純です。明日、武術基礎がありますよね? そして、魔術学習もあります。そしてその次の日には、魔術基礎があります。つまり……わかりますね?」


 なるほどな。

 理論で学び、実践する。そうすることで、より一層理解できる。体でも、頭でも理解するということか。

 まあ、体で理解と言っても、結局頭が瞬時に命令を下しているだけなんだけど。

 条件反射に似てるものか。




 この授業では教科書がある。

 いろいろな武器防具の構え方、簡単な使い方が載せられている。

 もちろん、素手での状態のものもあれば、かなり特殊な武器の使い方まで、幅広く載っている。

 攻撃方法だけではなく、防御方法まで。


 ただ、細かく分類されてはいない。

 例えば、ひとえに剣と言っても、両手剣、片手剣、両刃剣、片刃剣、重さに長さなど、細かい違いがある。

 両手剣と片手剣は別々だが、そこからは別れていない。だが、その理由はすぐにわかった。


「……2番目以降の動作が記されていないな」


 通常、攻撃は一撃だけで終わることはない。

 一撃目は寧ろ、避けられる可能性が高いから。

 そのため、一撃目は大抵、ニ撃目に繋がりやすいものとなる。ターバが模範的だな。


 この教科書に書かれているのは基本の動作だからいいんだけど。

 連撃ができても、斬れなきゃ意味ないしな。

 ここに書かれていることを組み合わせて連撃を編み出す。


「はい、今日は基本中の基本、武器を持っていない状態での戦い方を学びます。夏休みに入るまではこの単元です」


 う〜ん。魔術師にとって、どう意味があるのか、少し考えた。

 考えた結果、2つの答えを導き出した。


 近接型の相手と戦うとき、相手がどう動くか予想を立てる、という点。

 あれはフェイントだな、とか。


 それと、防御方法もやるらしいし、ダメージの軽減を図る、という点。 




 魔術学習、魔術基礎では、立場が逆転するな。

 オレはどっちもできるから関係ない。



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