第34話  火曜日(午後)


「そうそう、その調子。だいぶできてるよ」

「ほっ!」

「お! できたじゃん!」


 リーインがようやく成功した。

 投げ飛ばすやつではないけど。


「なんか掴めた気がする!」

「じゃ、次はスゥ、やってみて。今の投げられた感覚を思い出しながらやってみて」

「うん、わかった」

「ライ〜〜ン、俺たちにも教えてくれ〜〜〜」

「ちょっと待ってな」


 オレとターバは大人気だった。


 とはいえ、このペアが終わらないと、どうしようもない。

 順番を守るのは基本だ、常識だ。


「や!」


 掛け声と同時に、リーインの体が地面に叩きつけられた。


「おぉ! できたじゃん!」

「ありがとう、ライン!」

「それじゃ2人とも、次やってできたら、先生に見てもらって」

「「わかった」」


 やはり、一度できたらできるもんなんだな。2人とも成功だ。


「よし、じゃあ、先生連れてくるから、少し待っててくれ」


 他の男子2人組に教えている先生のところへ行き、2人のもとへ連れて行った。そして2人とも合格をもらい、オレとターバと同じように、他の人たちに教えて周ることになった。


 ただ、今はもう2時間目の途中のため、半数近くのペアが合格している。

 このクラスは他より優秀らしいからな。


 とはいえ、さっきオレのことを呼んだペアのところに向かわなくては……。




「すまんすまん、で、今はどんな感じだ?」

「あと一歩のところで、どうしても上手くいかないんだ」

「それじゃ、とりあえず見せてくれ」


 あー、はいはい。

 こちらの方は、勢いを利用しきれていないようですね。

 おや、こちらの方も同じようで。


「どうだった?」

「まず、勢いを利用しきれていない。2人ともな。勢いに手を添えるだけでいいんだよ。力の向きを、無理に変えようとしているから、できないんだ」

「「…………?」」

「じゃ、じゃあオレが2人を投げるから、それで体験してみてくれ」


 時間はあと20分か。次の柔軟ってのは、どこでやるんだろうか?

 それより、時間がない。さっさと成功してもらおうか。


「よし、どちらからでもいいから、かかってきて」

「じゃ、俺から行く!」




 2人を投げ飛ばし、投げ飛ばし……。そしてようやくコツを掴んだらしい。


「よし、ラスト5分! 次で成功したら、速攻先生呼んで来るから!」

「よっしゃ、次で決めるぞ!」

「おう!」


 おーー。きれいに決まった! もう一人は少し怪しいけど、問題ないだろう。


「よし、じゃあ呼んでくるから、すぐできるように準備しておいてくれ」

「わかった」

「ありがとな」


 ちょうど暇してた先生を呼び、2人を合格にした。それと同時に、2時間目は終わった。


「それではみなさん、制服に着替えて、3階の柔軟の教室に来てください」


 柔軟の……座学? 関節の可動範囲とか? 必要最低限の避け方とか?






「──はい、では3時間目の授業、柔軟を始めます」


 柔軟の教室は、クラス教室2つ分の広さで、前世のジムに似ていた。

 机は壁際にコの字型に並べられている。教室に入ってきた順に奥から座っていく。オレはターバと──一緒に来たため──隣だ。


「はい、座ってはもらったんですけど、基本、座りませんからね。まあ今日は器具の説明がメインになってくるので、座ってもらってますけど」


 ……となると、注意事項が多いのかな。見た感じ、数は多いけど種類はあまり多くないように見える。

 でも、あのでかいのは2つだけだし、どうするんだろうか? ジムみたいにするのか? やりたい人がやるシステムみたいに。




 一通り説明が終わった。

 と、同時に終了のチャイム。関節の可動域を広げる器具とか、なんやかんやいろいろあった。


 そこでオレは、一つの目標を立てた!

 トゥータッチジャンプ(たぶんこんな名前だった)をできるようになる! だ。

 それができるようになれそうな器具があった。2つしかないけど。


 鉄棒みたいな器具で、水平に吊るされた棒の部分を両手で掴む。そうしたら、左右に足を掛ける穴がある。

 それぞれに足を入れ、少しずつ高い位置の穴に足を通していく、というものだ。

 だいぶ強引な気はするが、股関節の可動域を広げることができる。


 次からは体操服を着てやるらしいが……ほとんどの授業は体操服なんだよな。

 まあいいけど。

 回避も体操服を着てくるように言われた。あと、トレーニングも。




 さてさて、着替えてお次は昼ごはんですか。

 当番制で、その日の当番が、クラスの分の弁当を取りに行く。 

 とは言え、校舎の入り口に弁当箱を積んだ台車が置かれており、それを運んでくるだけだ。

 帰りは、また台車に空の弁当箱を積み、元あった場所に戻す。それだけだ。


 小中学校の重い荷物運びをやらなくていいのは喜ばしいことだ。

 食器とかお盆とかご飯とか、馬鹿みたいに重かったからな。おまけに1人で運ぶんだし。

 今の筋肉量じゃ、余裕だろうけどサ。




 制服に着替え、教室でターバと談笑していると、弁当がやってくる。

 席の移動は自由だが、他クラスには行けない。

 他クラスに行き来したら、席がない憐れな存在がどこかでひっそりと誕生してしまうからな。


 結果として、オレはターバと食べることとなる。




 そして食後。

 空の弁当箱を蓋をして荷台の上に重ね、ターバと──たまにヤマル、ヌー、クォーサも来る──談笑したり、カードゲームで遊んだりするのだが、今日はスゥに呼ばれていた。


「スゥさんや、なんの御用で?」

「いや、ただ、魔法のことで……」

「あ〜、技の共有がしたいってこと?」

「! そうそう」


 だろうと思った。

 属性特化型は、発想次第で無数に魔法を編み出せる。


「とりあえず、オレの魔法から言おうか」

「うん。お願い」

「攻撃用が、『晶弾』、『晶棘しょうきょく』、『晶拳』、『晶弓』などの武器創造系。まあ、他にもその場の思いつきでやったりするけど」


 他にも何個かあったかな。よく使うのがこれら。


 武器創造系は、剣などの斬撃武器は上手く作れない。刃の部分がどうしてもネックだ。時間が空いたときに練習はしてるけど。


「他には?」

「防御用では、『晶盾しょうじゅん』、『晶壁』、『晶柱しょうちゅう』、『晶装』……これは防具創造系だな」

「へ〜〜。え、全部自分で考えたの?」

「ああ、そうだな」

「見たい! 見せて!」

「じゃあ、さっき言った順番で」




 一通り見せた。

 とは言え、オレは全ての情報を晒したわけではない。

 その最たる例が、プログラミングだ。これはオレの切り札ともなり得る技術だ。


「火の魔法はいろいろ開発されてるから、思いつかないんだよね」

「それを言ったらオレの水晶だって、特別に聞こえるけど、実際は土属性とほとんど同じものだし。まあ、少し違うから自分で作って名付けてってやってるけど。ちなみにスゥのは、どこで習った?」

「私は火の魔法がいろいろ記されてる本で。だから、属性特化じゃなくても使えるやつ。でも、ラインのおかげで種類が増やせそう!」

「例えば?」

「武器創造系と防具創造系」

「あれは? 『火槍フレイムジャベリン』」

「あれはああいう魔法だから。ところで、ラインは『火球ファイアーボール』に相当する魔法はないの?」

「……ないな」


 そういや、作ってないな。大きさは『晶弾』と『晶拳』の間ら辺か?

 威力は覚醒者の『火球ファイアーボール』が『晶拳』と同じくらい。『晶弾』だと、耐えきれないだろうな。


「スゥの魔法の威力はどの程度あるんだ?」

「『火壁ファイアーウォール』を介しての魔法だったら、中級レベルかな? もし、中級の人と戦うことになったら、魔力量の差ですぐに負けるけど。ラインは?」

「『晶拳』で中級の『火球ファイアーボール』4つ分と互角かな。1発程度なら難なく突破できる」


 フォーレンさんの『火球ファイアーボール』は中級レベル。それを4発で『晶拳』がやられたからな。


火球ファイアーボール』✕4=『晶拳』


 こんな式が立てられる。


「スゥのは、どれくらいの威力がある? 『火壁ファイアーウォール』なしだとしたら」

「う〜〜ん、普通の『火球ファイアーボール』よりは威力は高いけど、覚醒者のには負けるなぁ」

「なるほど」




 そして、4、5時間目になった。

 3階の歴史教室に移動した。クラスの教室となんら変わらない。移動する意味を問いたいところだ。


 今日は、2時間かけて大雑把に3年間で習うことを説明されただけだった。

 三賢者の範囲は1年でやるらしい。それも、ほぼほぼ1年かけて。




 その後、暮会──SHR──を終わり、部屋に帰り、ゴースたちと晩御飯を食べ、10時頃に就寝した。


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