第30話 クラス内戦闘➃
オレの後に4戦あって、それでようやく予選は終わった。
さっき聞き耳を立てたら(聴覚強化を発動したら聞こえただけだ)、あの、ターバが瞬殺した相手が区長の次男坊だとわかった。
ゴース情報の、「大臣の息子」とやらは、1つ上の学年にいるらしい。
話が逸れた。
あのグループの話を聞いた限り、仲は良さそうだし、身分差もないらしい。
なんの心配もなくなった。
予選突破したのは、喋ったことのあるやつらで上げると、ターバとヤマルだけ。
ヌーとクォーサは残念ながら負けた。
オレはシード枠を獲得した。最後の方は、1人余るからな。
ん……?
1回戦目は……ターバ対ヤマルか。ターバが勝つんじゃないか?
というより、ターバ
あいつも十分チートだよな。オレみたいな転生者がいなけりゃ、今世はあいつの天下かもな。
「はい、予選は無事、終わりました! みなさん、素晴らしい戦いでしたね! もちろん、定期的に開催するのでね。次勝てばいいんです」
負けるつもりはこれっぽちもないけどな。
「さてさて、次はボードを見てください」
さっきから……というより、最初からあったやつね。
全員の名前が書かれており、戦った順番に書かれている。
あれだ、トーナメント表だ。で、オレの名前は端に移されてる。
シード枠だからね。ごめんねぇぇええ?
あれ、ターバとヤマルの試合、もう終わってる。いつの間に……。
そう思って呟いた。
「いつの間に試合終わらしたんだよ、ターバよ」
「──ん? 瞬殺しただけ」
うぉわ!? おったんかい! んで瞬殺かい!
「瞬殺って……」
「左手の剣で槍を弾いて、右手の剣を喉元に突きつけた。ヤマルが走ってきたから、俺も走ってった」
「なるほど。互いに走ることで、互いの距離が一気に縮まったってことね……」
まあ、いいか。本来なら、相手が瞬殺されてどう思うかについて議論したいところ。
……なんだけど、オレも瞬殺するって決めたから。もちろん、水晶は使わずに。ただでさえ、得意な棍を使ってないってのに、
楽しみだぁ。…………オレ、性格悪ぃなぁ。
と、思っていたんだけど……。意外と、受け入れられてる。
いや、まだサヤ・ワーグしか負かしてないんだけど。それでも……。
オレが瞬殺した時とターバが瞬殺した時で、反応に差が感じられる。
オレが瞬殺することを、当たり前だと思われてるのか……?
いや、評価としては、良いのよ。
ただ……もうちょっと驚いてほしかったかなぁ。
まあ、変えるかって言われたら、変えないけど?
今まで通り、瞬殺していきますけど?
さすがにやばくなったら水晶は使うけど。
「ターバ、さっきの戦い、見てなかったからなるべく細かく教えて」
「ラインとやった時と同じ感じで」
「なるほどな」
片手で相手を牽制し、片手で攻撃。
体勢が崩れたら、一気に攻撃を仕掛ける……か。
この連続攻撃が痛いんだよなぁ。ヒット数はかなりあるだろうな。
それに加えて、流れるような動きのため、止まらない。
体力が限界を迎える、ミスをする、相手が流れを崩してくる。
これらが起こらない限り、ターバの連撃は止まらない。
ちなみにオレは水晶で流れを崩している。これが通用するのも今のうち、か……。
「──まあ、ヤマルが決め手に欠けているのも勝因だった」
「ふむ……。そこら辺はヤマルに言っ……」
「──聞こえてるよ?」
聴覚強化を発動させてなかったとはいえ、気付かなかった。
いつも唐突に来るな、ヤマルは……。気配を消すのが得意なのか?
「で、決め手に欠けるって?」
「ああ、ヤマルのは、ただ攻撃を繰り返しているだけだろ?」
「なんとなく、理解した! どこかで、流れを変える必要……それも、強い技が必要ってことね」
「そういうこと」
ヤマルのは、弱攻撃の繰り返しだ。
某乱闘ゲームに置いて、弱攻撃ボタンの連打で勝つには、相手に、かなりのダメージを溜めないと無理だった。
簡単に相手を倒すには、決定的な強攻撃をどこかで入れる必要があった。
弱攻撃の連打で隙を作り出し、そこに強攻撃を叩き込む。
これが鉄板だ。
まあ、強攻撃の連打って手もあったけど、隙が生まれやすいからなぁ。
オレは強攻撃の範囲攻撃をよく使ってたけど、それは今は置いといて。
「例えば、連続で突きをしてみるとか、あと、一般的だが、薙ぐとか」
「連続の突き……乱れ突きみたいな?」
「それだそれだ、乱れ突き! あれ、ライン上手にできたはずだろ?」
「微妙だな。だいぶ感覚でやってるから……」
「──それでもいいから! 教えて!」
「……はい……」
即席で棍を作り出し、教えることにした。
維持魔力量を少しでも抑えるために、なるべく真っ直ぐな木の棒を探し、それを芯にして水晶で覆った。
生成に使った魔力✕約0.05=維持魔力量
いや、0.02とかか? 感覚だから、よくわからんが。少数第一位が0なのは、確かだ。
ヤマルに軽く教えてみたがが、オレの記憶と持ち方が若干違う。
オレの記憶だと、突きは、右利きの場合、左手を軽く握って円を作り、右手で槍を出したり引いたりする。
オレの記憶が漫画によるものだということを思い出し、このことは忘れる。
今は素手だから滑りが悪いけど、オレは手の平を水晶で覆っているから、滑りはそこそこ良い。
「そうそう、そんな感じだ」
「わかった! なんとなく」
なんとなくでもいい。
にしても、習得が速いなぁ。
オレ、喋っただけなんだけど。
今からやろう……手本を見せようとしてたんだけど……。
「ちょっと、木に向かって練習してくるね」
「はいよ」
「いってらっしぇい」
嬉々として走って行く……。
意外と負けたことを悔しがってはいないようだ。一安心一安心。
こうやって話している間にも、試合はどんどん終わっていった。
消化試合ばかりだった。
スゥ・フォナイ、ターバ・カイシ、ライン・ルルクス! この3人が優勝候補です!
……なんてな。まあ、あの区長の息子はそこそこ腕の立つ方だったらしいが、ターバが相手じゃあな。
初戦から優勝候補の強豪校と当たるようなもんだ。
そこそこの成績の学校と強豪校。
どちらが勝つ確率が高いかは、言うまでもない。
不確定要素──運もあるが、そこは考えない。あくまで確率だ。
他の例えで言うと……。PvPで、ランク関係なしに対戦するようなものかな? 運ゲーじゃなく、純粋な
あ、スゥ・フォナイ勝ったわ。
……なんで呼び方がまだスゥ・フォナイってフルネームなんだろうか。
いや、まあ、接点がないせいだけど。まあいいか。
フム……、このまま行くと、オレと当たりそうだな。『
……芸がないなぁ。
命中性能にも乏しい。爆発効果のおかげでなんとかなってるけど。
『
水晶の融点は、そんなに低くないからな。
とは言え、魔力由来の水晶で、向こうも同じく魔力由来の火だ。
溶かされる可能性も僅かにある……か。
「ターバ、スゥ・フォナイと当たって、勝てそうか?」
「…………少し厳しいな。火の壁に、範囲の広い魔法があるから」
「魔法は避けれるのか?」
「もっちろんよぉ」
「なら、もう一度問おうか。勝てるか、勝てないか」
「勝てる。ただ、持久戦に持ち込む必要があるし、どちらの体力、魔力が先に尽きるかわからないから、難しいな」
「そうか、ありがとう」
火の壁──『
火ならではの戦い方……。誰かから習ったのか?
いや、維持魔力量はかなり多いはずだ。持久戦に持ち込む時に使うべきだな。
保有する魔力量は、おそらく一般程度。
1試合終わる度に息が少し乱れているのを確認済みだ。勝算は十分過ぎるほどある。
純粋な火力面で見ると、『
『晶壁』ですら、一部が溶けてたんだから。
水晶の密度をできる限り高めたと思ったんだけどなぁ。
相手の攻撃は『
念の為『
そしてこちらからは『晶弾』か『晶拳』で攻撃。
『
あ。刀があるんだ……。何か面白い技できないかな? ターバ対策に。
飛ぶ斬撃とかできたらなぁ……。水晶の刃じゃ、綺麗に切れねぇんだよな。
刃こぼれした包丁と同じくらいの切れ味……。隙あらば練習せねば。
にしても、張り合いがなさすぎる……。
現在残っているメンツは左からターバ、女剣士が2人、スゥ、オレ。
女剣士の使用武器は左から大剣、レイピア。
大剣は重量で押し切る武器。
レイピアは、刺突武器。
ただ、レイピアを使う方の女剣士は、魔法の込められた短杖を装備している。
一度も使っていないため、中身が何かわからない状況だ。
スゥが負けてしまう可能性もある……か。
まあ、オレ。シード枠だからスゥと戦うには、スゥが次の相手とターバを倒すしかない。
まあ、ターバには勝てないだろうな。
ターバは速いから攻撃は当たらないだろうし。
「はい、そろそろ終わりが見えてきました! 何人か、もう鉄級の冒険者といい勝負をできそうな人もいますね。さて、準々決勝です!」
時刻は3時30分。オレとターバが対戦相手を悉く瞬殺してきたおかげだな!
「ターバ、わかってるな?」
「おう! 瞬殺……でしょ?」
「フフフ……。行って、力を見せつけてくるがよい」
「なんだよ、その話し方」
「いやなに、緊張をほぐしてやろうと……」
「緊張する必要あるか?」
「ねぇな」
そして、ターバは宣言通り、瞬殺に成功した。
流れとしては、振り下ろされた大剣を左手で軌道を逸らし、右手の剣を喉元に突きつけた。それだけ。
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