第29話  クラス内戦闘③

 やれやれ、少し手の内を見せてしまったな。


 魔法発動可能範囲が現時点では、およそ30メートルであること。

 『晶壁しょうへき』の存在と、ある程度の硬さ。 


 ……まあ、どうせいつか見せるんだし……いいか。


「はい、次に行きますよ!」


 こうして──オレの出番が来ないまま──昼飯の時間となった。

 3戦プラス……12戦だから……残り5戦か。


「昼ごはんを取りに行きますので、何人か来てください!」


 クラスの中心になりそうな男子グループが行った。

 さてさて、手を洗いに行こうかな。


「ターバ〜、手洗いに行こ〜」

「おお、りょーかい」




 オレたちが手を洗って戻ってくると同時に、先生たちが弁当を持ってやってきた。


「一番の人から取りに来てください」


 弁当箱は、木製だ。一つ一つに、名前が刻まれている。

 そして中身は……


「おお、肉弁当!」

「これは……なんの肉だ?」

「ブタじゃね?」

「ぶたって何?」


 ヤマルが会話に入ってきた。


「……家畜化されたギープだ」

「ああ!」


 オレからしたら、ブタってのが慣れてるからな。ギープなんて単語、そうそう出てこねぇよ!


「昼休憩は1時間ですので、1時になったらまた始めます! 戦う2人は……39番、ライン・ルルクス対40番、サヤ・ワーグ!」


 うぉい! 昼飯直後かよ!


「まあいいわ、さっさとご飯食べよ! せっかく温かいのに、冷めちまう」

「どこで食べるよ?」

「ん? 観戦してた階段のところでいいんじゃないか?」

「わかった」


 やはりみんな、思い思いの場所で食べるようだ。

 ヌー、ヤマル、クォーサの3人は木陰で。

 中心になりそうなグループは、グラウンドを囲んでいる、石畳の上で。

 まあ、バラバラだ。


 で、先生はと言うと……


「すみません、お邪魔しちゃって」

「いえ、お気になさらず……」


 オレとターバのところにいる。なんでも、生徒と親交を深めるため、だそうだ。


「ところで、入学試験の結果で、このクラスが決まったんですよね? 俺は何位ですか?」

「2位か3位のどちらかですけど、確か2位……」

「おお!」


 へーー。


「なんだよ、ライン、そのどうでもいいと言いたそうな顔は」

「よくわかったな、その通りだ。そんなことより、食べようぜ」

「「いただきま〜す!」」


 ターバとはこんなやり取りをやってるけど、仲がわるいわけではない。

 不思議と、こんなこともできる。……前世にもいたけどな。 


 あいつは、今、どこにいるんだろうな。

 既に死んでいるか、どこかにいるか、まだ産まれていないか……。


 神(仮)の発言、あの時に決めた設定から、転生者は属性特化型だ。

 スゥが転生者である可能性……?

 ──ない。

 攻撃に意外性がなかった。まあ、ほぼほぼ勘だけどな。


「ラインくん、どうかしたんですか?」

「ん……いや、何も。ただ、どうやって倒そうかな、と」

「今思いついているのは?」

「まず、水晶は使わない」

「自信満々ですねぇ!」

「で、刀を使うかどうか、どちらを選んだとして、どう戦うか、何秒かけるか」


 まあ、実は自分の中で答えは出てるんだけどな。刀は使わず、時間はかけない。

 戦法は受け……カウンター。


「美味しいですね、これ」

「そうっスね」


 ホカホカのご飯、その上に敷き詰められたブタ肉、そこにタレをかけられていた。時間が経っていたせいか、タレがご飯に染み込み、より一層旨味が引き立っている。

 そして、ご飯とブタ肉の間には、千切り野菜。


 早い話、豚丼だ。千切り野菜はキャベツ、人参など。

 結論。とても美味しい。


「今日中に終わりますかね?」

「あ、やっぱり今日中に終わらすつもりだったんですか」

「なら、時間をかけずに終わらそうかな」

「いや、でもそれは……自尊心に傷がつきそうな……」

「そんなんで傷つく方が悪いんですよ!」


 ……誰かごめんなさい。

 傷つく方が悪いのは、まあ、事実そう思ってる。結局は、個人の心の問題だ。

 ってことで、オレは知〜らね! 自分で解決してくだせぇ。


「やはり、この方法でいくか!」

「どんな方法?」

「……見たらわかるよ」

「楽しみにしてますからね、ラインくん」


 ハードル上がった? 1ミリぐらい。

 対して変わらない。まあ、クラス一番になれたら、いいかな。なれそうだけど。



「「ごちそうさまでした!」」

「先生、持っていきますよ」

「ありがとうございます、ターバくん!」

「ほれ、ラインのも持ってくから」

「お、ありがとな」


 ターバきゅん優しい〜〜。


「さて、少し体を動かして……」

「──ラインくん、少しいいですか?」

「……? なんですか?」


 いつになく真面目な顔だ。オレは何もやっていないから、何か、あったんだろう。


「ラインくん、君の強さは、はっきり言って異常です」

「つまり?」

「覚醒……してませんか?」


 ああ、なるほど。オレだけ覚醒してるんじゃないかって疑ってるってことか。


「残念ながら、してませんよ。脳内でいろんな動きをシミュレーションしてるんで、それが原因じゃないですか?」

「しみゅれ……?」

「妄想してるんですよ。いくつか型を決めておけば、実際にその状況になったとき、楽になりますからね」


 シミュレーションぐらい伝えとけよ、誰かよ! 

 いきなり謎の単語を、当たり前のように使うオレ。どんな目で見られるかわかったもんじゃない。

 これからは考えて喋らないとなぁ。


「なるほど、既に我流を身に着けているんですか」

「──いや、違います」


 我流ではない、断じて。

 その域まで達してないし、妄想だし……。異常な強さって言われてもな……。

 理論より感覚派だから、わかんないなぁ。


「……なんとなく理解できました」


 お、これで理解できちゃうの? さっすが〜〜!


「ただいま」

「おかえり、ターバ」

「ライン、食後の運動しよ〜」

「腹いっぱいだから、もう少し後でな」

「まだ20分しか経ってないんですから焦らなくても大丈夫ですよ」


 そうそう。食後すぐの運動なんか、不健康だ。リバースしちまうぜ?


「10分ぐらいでいいだろ?」

「ああ、いいよ」


 こうやってな。ボーッと、してるのも、悪くない……。

 この、硬い、石でできた階段に背中を押し付ける。背骨があたるが特に痛くはない。


 そして、青く輝く空を見上げ、太陽を見て眩しさのあまり、目を瞑る。

 右手には刀。転んでいる場所が悪いおかげで、眠くはならない。




 そして──


「ライン、10分経ったぞ」


 ──静寂が音を立てて崩れ落ちた。


「はいよ」


 聴覚強化を発動させずとも、話し声が聞こえてくる。

 最初はなから静寂ではなかったのか。オレが、音として認識していなかったのか。

 まあ、なんでもいい。自分の世界に入ってたんだろう。


 体を動かすと言っても、軽く組手をするだけ。

 もちろん、武器は使わない。


 だって、次、オレの番だし。武器なんか使ってみろ。

 本気になるぞ。

 ヘトヘトになるまで戦って、それで負けましたでは話にならん。




 そして、時間になった。


「39番、ライン・ルルクス対40番、サヤ・ワーグ!」


 対戦前の握手をして、離れる。


「お手柔らかにね、ライン?」

「痛い思いはさせない。安心してくれ」


 精神的には痛いかもしれんがな。

 瞬殺ではなく、一撃で終わらす。受けの姿勢で行く。


「開始!」


 サヤ・ワーグが、短剣を抜き、構える。


 短剣とナイフの違いはわかりにくい。大きさはほとんど同じである。


 だが、ナイフは切ることしかできない。本来、生活用品として生み出された代物だからだ。

 短剣は、言わば、短い片手剣だ。それを知ったオレは、ナイフではなく、短剣を使おうと決意した。


 サヤ・ワーグの構えは、上半身を前のめりにし、膝を曲げている。攻めの型だ。オレは納刀したままの姿勢。構えていないわけではなく、居合斬りの構えだ。

 間合い・・・に入ってくれば……一撃だ。


 勢いよく駆けて来る。

 短剣は右手に持っている。順手だ。

 そして引き絞っている。突きだろう。

 いや……居合斬りを受け止めるつもりか? 無理だろうけど。


 そろそろ間合いに入って来る。短剣を更に強く引き絞り、突き出そうとしている。

 

 引き絞り過ぎだな。

 

 オレが居合斬りの構えをしているため、その間合いに入っていないことが、安全だと思っているようだ。残念。


 オレは前へ、僅かに体を移動させ、抜刀した。

 もちろん刀の先端は、首に当たるかどうかの位置で止めてある。


 もちろん、短剣はオレには当たらない。

 腕を精一杯伸ばしても届かないだろう。

 投げたら当たるかもしれないが、サヤの右手から目は逸らさない。


「終わり、だな」

「そうね、降参……」

「勝者、ライン・ルルクス!」


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