第11話  身体強化②

「さて、ライン。身体強化、習得したみたいだな。続きをするか? 別に明日でもい──」

「──明日で!」


 即答してやった。 


 なぜって?

 少し慣らさないと、だからな。


 身体強化を発動した状態で動いてないんだし。

 速くなりすぎていて、体をコントロールできなくなっているかもしれない。


 こんなときはやっぱり、山に入ろう。

 木を使ったアクロバット、魔物を相手にした組手(狩り)、坂道ダッシュと、いろいろできる。

 それになにより──


 ──静かだ。


 聞こえるのは鳥の鳴き声、木が揺れる音、生き物が草木をかき分け、移動する音。


 ぐぅぅぅ


 腹の虫が鳴いたな。

 都合よく、オルオの実があった。



オルオの実

 薄紅色をした果実で、中味は白い。

 甘い。

 温暖な地域に生息し、生命力が強い。

 皮は少し硬いが、中身は柔らかい。

 皮を利用した化粧品や、芳香剤もある。

 水分が多め。


 

 いつも思うけど、この食感、茄子みてぇだな。

 表面は硬いんだけどさ。表面、と言うより皮だな。




 さてと、ぼちぼち始めるか。身体強化。


「お! ライン、ここにいたか」

「え〜と……」

「ラーファーだ。近衛騎士って呼んでも構わない。この村に近衛騎士は俺一人だけだからな」

「じゃあ、好きに呼ばせてもらうよ。そう言えば、近衛騎士一人が村に派遣って、左遷に近いんじゃないの?」


 我ながら良くないな、と思う。こんな質問。でも、勝手に口が喋ってた。


「いやいや。近衛騎士団って言っても、数隊に分かれてる。第三隊に所属する近衛騎士が、全員派遣された。第三隊は、唯一の遊撃部隊。隊よりも、個人で動かされることが多いんだ。その分、一人一人が強い」


 チームで動くのが苦手な人たちを纏めた隊なんだな、多分。

 個人で強すぎる力を持つが故……か。

 自分で言えるほど、自身があるんだろうな。


「ラインも、このまま順調にいけば第三隊に配属されるかもな」

「なんで? 俺は冒険者になりたいんだけど?」

「冒険者か、近衛騎士か。それを決めるのは学校の先生だ。決定権はない」


 はぁぁあ?

 ふざけてやがるぜ。


「どちらに配属されるか。それを決めるのは、卒業までに、覚醒したかどうか、だ」

 

 ……は?

 覚醒?

 また聞いたことない単語が出てきたよ。


「……覚醒?」

「身体強化を習得しただろ? 覚醒者は、あれを使ったときに、身体能力の上昇に補正がかかるんだ」

「じゃ、隠せばいいや」

「身体強化を使えないと、冒険者にすらなれないぞ? それに、隠すと言っても、覚醒者が身体強化を使うと、紋様が浮き出るし、何より、上昇幅が大き過ぎる。諦めろ。第三隊の隊長は良い人だから、面白い人だから、な?」


 ……詰んだ。

 そうだ、覚醒しなけりゃいいんだ。

 そうだそうだ。うん。ってか、紋様って……。厨ニ設定の世界かよ〜。


 いや、まあ、近衛騎士になるのが嫌っていうわけじゃないのよ。

 ただ、縛られ過ぎてるから嫌なんだよ。

 なんかこう、ビシーッ、ってしてるイメージだから。


 それよりも、冒険者として気ままに過ごしたい。

 自由にな、うん。


 近衛騎士の方が給料はいいらしいけど、冒険者も一般の仕事と同じくらい貰えるらしいし。

 農家も、案外儲かるんだよな。




 この村で収穫された作物のうち、7割が販売されている。


 そんなんで国民全員の腹を満たせるのか?


 否。 


 日本より食料自給率は高い。

 でも、100ではない。


 それはなぜか。


 シンプルに、土地がないのだ。


 なら、どうやって腹を満たしているのか。

 

 農民たちは、自分たちで作ったものを食べている。

 買うこともあるが、それはさておき。

 それは、輸入だ。


 少し南に、エルフの国がある。

 エルフと言えば、森。森妖精と書いて、エルフ。……のはずだった。


 エルフの国は、農業大国だ。食料自給率は1000を超えてる。

 少ない人手で広い土地を管理しているからだ。

 前世でのアメリカに当たる国だ。

 機械ではなく、魔法で管理している。しかも、採れる作物は高品質な物が多いそう。


 話が逸れた。

 つまり、だ。

 農民は、ちゃんと物に見合った金が貰えている。

 儲けた金で、農具を買ったり、街で遊んだり。数日に限り、畑を自動で管理できるアイテムもある。


 他にも、本来の重量より軽く感じる農具とか。

 わかりやすく言うなら、鉄製のクワだが、重さは木製と変わらない、みたいなものだ。

 ただ、実際の重さは変わらない。あくまで、感じる重さの話。


 もちろん、全て魔法具という訳ではない。

 切れ味のいいナイフとか、包丁とかな。




「……い、おーい、ライン?」

「……ん? あぁ」

「さっきから何考えてたんだ?」

「ちょっとね」

「なんだ? 近衛騎士も悪くない、とでも思ったか?」

「ま、成り行きに任せようと思っただけ」

「それがいい」


 近衛騎士は、満足そうに頷いた。


「で、何をしに来たの?」

「ラインの修行を見に、な」


 近衛騎士が、覚醒した強さを見せてくれるとのことで、見せてもらうことにした。


「やり方は、身体強化と同じ。覚醒の仕方は、まだ誰にもわかっていない。一定以上の強さを身に着けたらできるってのが、有力な説だ。いくぞ」


 オレは常時発動している、視力強化、聴覚強化、嗅覚強化のうち、視力強化をもう一段階強化した。


 ここに来る途中で感覚はつかめた。


 魔力を通していない、普通の状態。

 そして、魔力を通した強化状態。

 より多くの魔力を通した強化状態。強化2とでもいうかな。


 二段階目の強化をして、効果が増えたのは目だけだった。

 と、言うより、目しかニ段階目に行けなかった。


「ハッ!!」


 掛け声と同時に、近衛騎士のオーラとも言うべきものが強くなった。


 見た目は変わらないのに、何倍にも大きくなった気がする。

 前世で読んだ本で、こんなふうに表現されててもよくわからなかったけど、今ならわかる。

 これかぁ。


「ちなみに、覚醒しても魔力は消費しない。ただ魔力を通しているだけだからな。状態の維持に集中する必要も、ない」


 身体強化と同じなのね。


「そして、魔法の威力も上昇する。身体強化でも上昇はするが、より強くなる。数を絞れば、覚醒者でなくても初級を中級にすることはできるがな。ちなみに、初級とか中級とかの基準はちゃんとあるんだぞ。冒険者組合に申請しないとできないけど。」


 へー。

 フォーレンさん、ああ見えて意外とすげぇんだな。


「ライン、よく見てみろ。俺の顔に、何か見えないか?」

「……傷跡」

「紋様、な。覚醒者が身体強化を使うと、これが出てくる。模様は、人によって違うがな。ただ、顔に出るのはみんな同じだ」


 それから、いろんなことを教えてもらった。


 まず、冒険者学校卒業までに覚醒すれは、近衛騎士団に配属される。

 冒険者として働いているうちに覚醒すれば、魔鉱クラスに昇格。   


 紋様と言っても……線だ。

 近衛騎士の場合、口を斜めに切ったような線だ。かっこよくないなぁ。


 身体強化で強化されるのは基本全て。

 だから、上昇したスピードに驚くことはまずない。ほんとになかった。


 あと、魔力を見ることができる、これ。『魔力眼』というらしい。

 だが、みんな魔力探知と呼ぶ。


 学校で習ったり習わなかったり。

 先生の気分と、時間次第で、かつ、魔術の道を行く者に教えられるそう。

 もちろん、オレみたいに自力で習得できる人もいるらしい。


 他には、冒険者学校の楽しい行事とか、面倒くさい行事とか。定期テストもあるらしい。


「俺が言いたかったことはこんぐらいだ。今年からの受験者は、ほとんどが身体強化を習得していると思った方がいい。覚醒したやつも混じっているかもしれない。気をつけろよ。気を抜くな」

「ありがとう」

「ああ。じゃあな。暗くなる前に戻ってこいよ」


 初めて話した。

 覚醒、か。


「ふっ……!」


 とりあえず、この状態を維持しておこうか。

 お、手鏡。なるほど。覚醒したかどうかの判断は、紋様でしかできないのか。

 仮面を被れば……いや、余計怪しまれるか。ま、近衛騎士団も雰囲気的に嫌なだけなんだけどさ。

 冒険者はやっぱり自由でないと。


 さて、まだまだ時間はあるんだ。

 身体強化を常時発動しながら、トレーニングするか。




 ちなみに、寝ると身体強化は切れていた。

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