第10話  身体強化

 そして…………



 4年と4ヶ月後。

 オレは村の学校を卒業した。


 この日は、冒険者学校に願書を出した。

 この時期になると、村や都市を願書を集める用の人がやってくる。その人に渡せばよかったから、かなり楽だった。

 家に郵便屋さんが来るようなもんだからな。いや、ポストか?


 あとは、素手、棍、ナイフ、弓を使った戦い方を繰り返し行い、腕を落とさないようにしなければならない。

 やはりイメージの問題なのか、矢の代わりに水晶で矢を作ると、普通に作るよりも矢に近い形になった。

 魔力のロスもだいぶ減った。エネルギー変換効率が上がってきているのだろう。


 合格はほぼ確実だろうって言われた。

 ちなみに、本当の定員は60人ではなく、その倍の120人。

 オレの緊張感を高めるために嘘を吐いたらしい。受験なんて、初めてだから余計緊張してた。

 嘘だとわかって、少し和らいだから結果オーライかな。


 冒険者学校には、いろんな種族が入学してくるらしい。


 あと学校内では、身分は関係ないそうだ。

 貴族もいるが、威張り散らされたらたまらない。威張る奴はいるそうだけど、学校内では実力が全て。

 なんとかなりそうだ。少しでも優位に立てるよう、修行は怠らないようにしようと思う。


「冒険者は、対魔物の兵士。けど、他にも役割はある。個人の素質や成績によって仕事が決まる。私たちは、冒険者・警察部門に配属されてる。他には、消防部門、救急部門とかあるな。アミリスは非常の救急部門でもある。回復術士だからな。それで言うと、近衛騎士団は『軍』なんて呼ばれたりもする」


 ハイハイ。

 あの三大車両ね。警察官、救急隊員、消防隊員。これらを統合したのが冒険者か。で、近衛騎士団は自衛隊かな。

 いいね! 上手くできてる。


「よし、ここまでにしようか」

「ハイハイ。ありがとございました」

「うん。また頼むよ。ラインと手合わせしていると、こちらの修行にもなる。出て行ってしまうと少しばかり寂しいな」

「そりゃドーモ。じゃ、さいなら」

「あぁ、また明日」


 いつもと同じ、軽いやりとりを交わし、家に帰る。


 戦闘中の武器の持ち替えもだいぶスムーズになってきたかな。

 ただ、やっぱりロスはロスだ。一つの武器で戦うようにしないとな。

 魔法で補えるようにするか。


 ちなみに魔法といえば。

 ここ数年の修行のおかげか、日本語詠唱でも、英語詠唱でも威力は変わらなくなった。

 詠唱も、なくても問題なくなった。「英語だから」ではなく、やはり「無意識下のイメージ」によるものだったようだ。


 ……にしても、いろんな種族がいる冒険者学校かぁ。

 頭の中で、ほとんど全員が違う種族であるにも関わらず、楽しそうに話をしている風景が思い浮かんだ。その中には、もちろん、自分もいた。

 ぼっちではない、決して。

 前世でもぼっちではなかったし、結構話す方だったはずだ。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

 大量のカクトツに追いかけまわされる夢だった。






 冒険者学校、職員室

 夜という時間帯も相まって、少々薄暗い室内。


「ふむ、今年も例年通りだな」

「そうですね、校長。倍率は…………去年と変わらずですね」

「2.2倍。2人に1人が合格できるかどうか、の計算ですね」

「広いようで、狭い。狭いようで、広い門。これなら例年通りの合格基準を採用してもいいだろう」

「ですね。この中で、何人が卒業までに覚醒できるでしょうかね」

「例年ならば、3人、もしくは4人ですよね」

「甘いぞ。例年という言葉に縛られ過ぎてはならぬ。意思あるものの成長は不確定なのだぞ?」

「し、失礼しました。少々、縛られ過ぎていたようです」

「よい、今治ったではないか。さて、試験まで残り2ヶ月を切っている。良い問題内容を作るぞ」

「「はい!」」


 毎年、この一声を合図に、試験内容を考えている。今年はどんな問題が出来るのか。

 一体、何人の受験生が苦しむことになるのか。






 翌日、朝

 今日は狩りに行くか!

 ……そう思っていた。




 そして、昼

 なんでこうなってるんだ?

 朝は、狩りに行こうと考えてたんだよな?

 カクトツ2、3体狩ってくればいいよな、とか弓使ってみるか、とか考えてたんだよな。


 ──なのに、だ。

 なんで冒険者パーティーとの実戦での修行になってんの? 

 しかも、森の中の開けた場所で。オレがいつも血抜きを待つ間に暇を潰す、お気に入りの場所だ。


「冒険者学校は、戦闘の学校だ。村の学校とは違う。魔物や薬草に関する勉強、肉体や魔力に関する勉強以外は、実技重視だ。受験には、戦闘での評価が大きくなる。実戦では、平等な勝負など、ありえないからな。今のうちに特訓だ!」


 ま、いいか。

 狩りは明日行くから!

 今日行く気満々だったのに、その予定を崩されたから、イライラが止まらない。ぶっ飛ばしてやる!


 審判は近衛騎士か。


「用意はいいな、開始!」


 げ!

 オレ武器ねぇ。


「言っただろ? 圧倒的不利な状況で、私たちにどれだけ戦えるかな?」

「言ってろよ。圧倒的不利な状況でも、壊滅させてやるから」


 そう言葉を交わすと同時に、リーダーが突っ込んで来た。

 速い! 速すぎる!!

 でも、対応できないほどじゃない。


「な!? 防ぐか」

「速かったけどな、対応はできる」

「たった10メートルほどの距離しかないのにか?」

「まあね。で、追撃は来ないの? 実戦なんでしょ?」

「初撃を防いだご褒美に、1ついいことを教えようと思ってな」


 なるほど、打ち合わせていたのか。

 初撃を防いだらご褒美。防げなかったら追撃。


「体に魔力を通すんだ。身体能力が大幅に上昇するぞ。動体視力もな。これの習得は早い。体内の魔力を感じて、操るのがコツだ。10分ほど待とうか」


 体に魔力を通す……。

 体内の魔力を感じて、それを操る。案外簡単かもな。

 これを、全身に……。

 上手くいかない。体の外に溢れ出るな。何度やっても変わらない。やり方が違うのか。

 やり方を変えてみるか。


 なら、血管に流し込むイメージで。指の先まで、髪の先まで。伸びろ。


 できない。

 そう言えば、体内の魔力を感じたとき、耳と鼻には、他より多く魔力が集まっていたように感じた。これを全身に行き渡すことができれば……。

 やばい!

 耳が少し遠くなった気がする。匂いもあまりしなくなった。


 魔力を戻してみると、治った。

 身体能力、動体視力の強化は、これの上位互換か。一部は強化できる。目に流し込んでみるか。


 お!


 え?


 ……魔力が見えてんのか?


 ラミリスさんとフォーレンさんが他の二人よりも濃い色をしている。

 オーラみたいに溢れ出てる。青色……だな。少し薄くなったり濃いくなったりしているが。


「リーダーさん、少し体に魔力を通してみてくれない?」

「ん? あぁ、いいぞ。ほれ。これ、維持魔力かからないから、覚えておいて損はないからな。制限時間はあるけど。連発できるから、実質ないようなものだ」


 リーダーさんが黄緑色になった。

 ラミリスさんや、フォーレンさんと違って、人の形そのままに色が変化した。色は均一になっている。


 集中……。

 集中して……、血管に魔力を通すイメージで。魔力量は、目、耳、鼻と同じくらいに。

 よし、よし、順調だ。


「できてるわ、身体強化が」

「おお、早いな」

「いや、リーダー。もう40分経ってんだけど?」

「え、まじで? まあ、いいけどさ。そっちの方が面白そうだ」

「いやいや、たったの40分で身体強化を習得するライン、なんなんだ。そりゃ、確かに受験では習得必須の条件だけど。いくらなんでも、40分は早すぎる!」

「まあ、確かに私も3日……いや、2日だったかな、習得できたのは。確か、オーカーは……」

「5時間ほどだったかな」

「お前を出し抜いてやろうと、こっそり先に始めたのに先に習得されたんだったな! わっはっは」


 クッソ、雑談始めてやがる。赤髪の人、オーカーって名前だったのか。


「ちょっと、ラーファーが退屈してるわよ」

「ほんとだな。おーい、すまんかったなぁ!」


 近衛騎士の人、ラーファーって名前だったのか。座り込んでら。

 ──それよりも集中だ……。



 感じる。


 血管のようなものの中を、魔力が流れているのを。


 血管のようなものが全身に張り巡らされているのを。


 末端にまで広がっているのを。



 あ、意識を向けなくても、維持されてる。

 消えろ、と思うと消えた。


 もう一度……。

 今度は簡単だ。意識すれば瞬時にできた。


 あっさりと、身体強化を習得してしまった。

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