水晶使いの成長
第7話 大きな変化
あれから2週間。
村の暮らし──主に食生活──が大きく変化した。
変化したこと。それは──肉だ。
あの人型スライムが通って――掘り進んで――きたであろう道の地下に、犠牲となったであろう冒険者たちの装備品があったのだ。
スライムは、これで地面が崩れるのを防いでいたのだと思う。
装備品はあくまで落とし物だし、冒険者の遺品は特別な場合──装備が相当な価値があるものだったりするとき──以外、拾った者の自由だそうだ。
いつ死んでもおかしくないからだろうな。
村人は、装備を手に入れた。
オレは攻撃魔法を使えるようになった。
この2つの変化が肉につながったのだ。
…………そう、狩りだ。
村人は装備をつけることでより強い魔物を狩れるようになり、肉のバリエーションが増えた。
そしてオレは、修行と称して山に一人で行って魔獣と戦っている。
はっきり言って、いい修行となっている。
魔力の扱い、回避方法、自然の知識、これらが全て(独学だが)学べる。
倒した魔物は、村に持ち帰って解体。解体用のナイフをプレゼントされた。
豚っぽいやつに熊みたいなやつ、鶏みたいなやつと、魔物は豊富だ。
魔物を狩り、山菜を採って村に帰る。
魔物は一度に一匹が限界だが、村の男どもが交代制で毎日山に入っているから、毎日毎食、オレたちは肉を食べることができる。
オレのお気に入りは、鹿のような魔物だ。
冒険者たちの話によると、パワーが強力で、不意打ちで突進されると、安い装備では骨を何本か折るらしい。
特に角が強力で、突進が加わると、装備無しだと風穴が開くこともあるそう。
また、冬は、茶色かった毛が白一色に変わり、雪の日は特に見つけにくいらしい。
だが突進さえ避けてしまえば、横から攻撃をしかければいいだけの話。この条件を満たせば、そこらの腕の立つ村人でも、頑張れば倒せる。
つまり、戦いの相手としても食料としても優れているということだ。
さて、学校も終わったし、狩りに行こうかな。
今はさして何かを収穫するわけでもなく、畑の手入れをするだけ。
だから、こうして毎日狩りに行ける。農繁期には、さすがに忙しいため、狩りには行けないが、しょうがない。
え? 一人で大丈夫なのかって?
オレには攻守併用の水晶の魔法があるんだ。余裕だ。
鹿のような魔物──カクトツとか言ったかな──の突進を受けても、傷一つ付かなかったんだ。
それに、水晶の矢で攻撃したらかなり深く入ったし。
殴ってみたが、効果は薄かった。カクトツはあれで毛皮がもふもふしているからな。
気持ちよかったな。冬までにあれを着用できるようにしたいな、寒いから。
それに、五感が他人より優れているっぽいから、何かが近づいてきたら音ですぐにわかる。気配も感じることができるし。なんで、なのかはよくわからん。
前世の記憶が戻ると同時に良くなった気がするのは確かだ。
この謎もいつか解き明かしたいな。答えがわからないのは、どうも性に合わないし、落ち着かない。
こう、モヤモヤするんだよなぁ。前世でもそうだったんだよなぁ、オレは。
これがオレがオレである所以、「我思う、故に、我あり」だったかな。この言葉が好きだった。
余談だが、「汝、自身を知れ」ってのもかっこいい。理解してくれたのは数えるほどしかいなかったけどな。
……お! 見つけた。
そいつは、直線距離でおよそ30メートル先の地点にいた。
木が重なって見えにくかったが、気配で見つけることができた。
むこうはオレに気づいてないようだから、サクッと殺っちまいますかな。
「……『
最近わかったことだが、作るものが小さいほど、生成までの時間は速くなる。そして、技名をつけると少し速くなる(気がする)。
魔法はイメージが大事だ……って何かの本で読んだから、そういうことなんだろう。前世で読んだ本だけどな。
技名はかなり悩んだ。長すぎると、詠唱時間が長くなるからだ。
おまけに水晶だ。英語にすると、クリスタル。長いわ!
と、言うことで水晶の「晶」を取ることにした。発音は2文字で済むし、いいと思う。2、3日は考えたな。
早速生成した『晶弾』を、カクトツの眉間狙って撃つ。
少し前まではずっと操っていたんだが、自分を中心に半径20メートルまでしか操れないことがわかった。
それでどうしたか、と言うと、操作に使っていた魔力を全て推進力に変換した。
そうすると、操作はできないが、以前よりも比べものにならないくらい速くなった。
そう、『晶弾』は、前世で言う銃だな。
発砲音がないのが利点だが、魔力を感じることができ、銃ほど速くなく、ある程度動体視力を鍛えれば、ギリギリ避けることはできるようになる。
カクトツのような、
お、またカクトツ発見〜。ラッキー、あいつ美味しいんだよな。一度に2体は、運がいいな。でも、どうやって持って帰ろう……。
見逃すかぁ……。
それでは早速、魔物を仕留めた時の対処法を実戦形式でやっていきましょう。今回のスペシャルゲストは、カクトツさんです。
まず、大きめの丈夫そうな木を探します。
そして、カクトツさんの後ろ足を、持ってきた縄で縛ります。
縄を木に引っ掛け、カクトツさんを吊し上げます。
この時、頭が地面につかないようにすることがポイントとなるため、滑車のように縄を木に引っ掛け、縛っていない方の脚を引っ張ります。
程よい高さに上げることができたら、縛っていない方の縄を他の木に巻きつけます。
そして、解体用のナイフを首に差し込み、血を抜きます。
この時、地面に倒した魔物の頭分ぐらいの大きさの穴を開けておくことを忘れないように。
血の匂いに釣られてきた魔物を倒すのは面倒なので、血の匂いを漂わせないために、水晶で檻を作ります。
「はい、『
この状態で、一時間ほど放置します。この間に、山菜や果物、薪を集め、持ってきた袋に詰めます。
一時間経ったので、『晶檻』を消し、脚と木に巻きつけた縄を解きます。
そして、持ってきた少し短めの縄で、前後の脚を縛ります。
血の溜まった穴に、土を戻し、カクトツさんを担いで、さっさと帰りましょう。
そして、新鮮なうちに村に帰って解体しましょう。
以上、魔物を仕留めた時の対処法でした。
さてさて、さっさと村に帰って解体しよう。
まだ夕方にすらなってないのに、少し腹が減ったな。ちょっと木の実でも食べていこうか。これなんか食べられるやつだ。
上の方によく熟れて淡いピンクになった実がある。オルオの実だ。お土産として少し持って帰るか。
村には客が来ていた。
「ただいま。あれ? あの時の……」
「ラインか、久しぶりだな。今日は少し用があってな。フォーレン、自分の口から言えよ」
後ろに居た、濃い緑のローブを着た男がでてきた。
「ああ、そうするよ。ライン、君の魔力量は俺よりも多いらしい。そこで、だ。君の実力を知りたい。だから、勝負してくれ」
「いいッスよ。こいつの解体を手伝ってくれたら、ですけど」
「俺たちに敬語はいらないよ」
およそ30分後、オレたちは村の広場に向かい合って立っていた。
「じゃあ、始めようか。ルールはシンプル。互いに50メートル離れる。そこから動かずに、魔法の撃ち合いをする」
「もし、怪我をしたらあの人に治してもらうと?」
「そうよ〜。何にしても、怪我をする可能性のある勝負は回復の手段がないとやってはいけないの。審判の役も兼ねてるから、安心して。ちゃんと、平等に判断するから」
「ふ〜ん、なら良いけど」
こうして、唐突に冒険者の魔術師との魔術勝負が始まってしまった。
急遽、少しの間村長たちと話があるそうだから、今のうちに魔力について復習しておくか。
実を言うと、生活魔術はほとんどマスターしてしまった。
だって……本読んで、呪文覚えて、イメージして、呪文唱えてできるんだもの。
本来であれば、魔力を感じることができるまでに壮絶な時間がかかり、それを操るのにさらに時間がかかって、半年は軽く超えてしまうそう。
オレはその過程がないし、イメージも、水晶を操りまくったから、イメージしやすかった。だから呪文を暗記できればクリアなんだ。
しかも、その呪文が短いのなんの。しかも単純だし。前の世界の古典の授業で、和歌を覚えさせられたのより、よっぽど楽だった。
暗記はもともと得意ではあったけど、今のオレには『不可知の書』があるため、鬼に金棒だ。
生活魔術
・火起こし
『火よ、我が魔力を糧にし、起これ』
・水操作
『水よ、我が魔力に応え、動け』
実を言うと、こんだけ。シンプル極まりない。ちなみに、詠唱は慣れたら短縮できる。
火起こし→『
水操作→『
お気づきだろうか?
詠唱が英単語であることに。生活魔術を創り出したのは、三賢者だそう。
俄然、興味が湧いてきたな。
この世界に、英語は伝わっていない。そもそも、こうして話している言葉ですら、日本語なのかわからない。
日本語が、どんなものだったのかわからない。今話している言葉が日本語じゃないのかもわからない。
では、なぜ英語が英語であるとわかるのか。おそらく、英語をカタカナにして読んでいるからだろう。
1文字1文字組み合わせ、単語ができる。
魔術的意味があると思わせば、人は納得するだろう。
「これは……調べてみる価値があるな。転生仲間かもしれないな。ま、そうだとしてもとっくにくたばってんだろうがな」
──この世界に産まれたが、これといった目的もない。
いや、まぁ、あの神とやらの、魔王を倒せという依頼はあるけど、何の強制力もないし、なんか癪だし。
さて、そろそろ魔法対決が始まるな。これに勝てば……。
そうだな。
──冒険者にでもなろうかな。
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