第6話 我、自身を知れ
人型スライムの体に無数の火矢と水晶の弾が突き刺さる。
軽く20は超えているだろう。なのに、まだ倒れない。
オレは水晶の弾を大型の矢に変え、攻撃を仕掛けてることにした。
なんで倒れないのか。
考えられる可能性としてはこれらだ。
・核がそもそも存在してない。
・とてつもなく速く核を動かしている。
・核は別の場所にあり、遠隔操作している。核に見えるのはただの石ころ。
最初の考えは、おそらくないだろうな。この世界でも、スライムは核が要だ。伝説に謳われたスライムでも、核があったという話だ。
二番目は、ありえないこともないが、これだけの数でほとんど時間差なしで全身を攻撃しているんだ。
それこそ伝説級だろう。
伝説級であれば、既にオレたちは死んでいるはずだ。それに何より、当たった感じがなかったんだよな。
よって、一番ありえるのは三番目だろう。でも、どこに核があるんだ? 核は、スライムの体の中にないと崩れてしまう。
他のスライムの体に別のスライムの核を入れるとどうなるか、という実験があった。
その場合、体の奪い合いが行われるらしい。奪い合うといっても、核の持つエネルギー量の違いとかで争うとかなんとか……って先生が言ってたな。
余談の話だったから、あんまり詳しく覚えてないな。あの先生、伝説大好きだからな。
オレも好きだけど、ラインは好きじゃなかったらしい。
ともかく、操るにしても体が繋がっている必要があると仮定すれば……。
・森の中から細い糸をで繋げて操っている。
・地面の中にいて、操っている。
一番目は、魔物に襲われてしまえば元も子もないだろうから確率はゼロに近い。
二番目は、酸で土を溶かしているとすれば、ありえない話ではない。
……試してみるか。
大型の矢を3本生成し、人型スライムの足元向けて飛ばしてみた。
──これが大当たりだった。
地面深くに食い込んだ矢は、見事地中の核を破壊したらしい。
その証拠に、人型スライムの動きが一瞬止まり、少し震えると力尽きたように崩れ落ちた。あとには、人型スライムの体液だけが残った。
「終わっ……た? 終わったのか?」
その声に続いて、村人たちに歓声が巻き起こった。
「終わった、終わったんだ!」
「良かった!」
「あんな化物を、倒したんだ!」
一方、冒険者たちはというと、
「信じられん。白金級の化物だぞ。それを、犠牲を出さずに倒すとは」
「あの子、魔力に目覚めてますね」
「あぁ、それはあれを見たらわかるんだが。あんなのは見たことないな、田舎者の私たちでも」
「そんなレベルじゃないわ。確かに、田舎者の私たちは見たことがない。でも、あの魔力量は、魔力に目覚めたばかりにしては異常よ。フォーレンよりもあるわ」
「な!? 嘘だろ?」
オレは、目覚めたのと同時に身体能力全般が急上昇していた。当然、五感もだ。
おかげで少し離れたところにいる人の声を聞くことができるようになった。
なになに? どうやら、オレの強さに驚いているようだ。
オレもだ。
そもそもさ、何? この使いやすさ。魔法詠唱とかなしにつかえるんですけど!? 生活魔術でさえ詠唱いるのに。
もう一つ、調べねばならぬことがある。
そう、「不可知の書」だ。
記憶が目覚めるのと同時に宿ったんだろうと推測はできる。
不可知ってのが気になるな。英語にするとunknownだよな?
念じれば出てくるでしょう!
よし、そうと決まれば早速……。
──お!
出てきた出てきた。
白色に金のアクセントが入った表紙をしていて、大きさはだいたいライトノベルぐらいで、暑さは辞典ぐらいあるな。早速開いて見よう。
……あれ?
何か書いてある。1ページ目にしか書いてなかった。あとは白紙だ。
ライン ♂ 10
スキル 不可知の書
職 なし
魔法 水晶
……これ、さっきまで心の中にあったのと同じだ。少し雑な感じが否めない。
あ、心の中にあったのがない! なるほど、心の中ににあっても見れるのか。こうして外に出しても、誰も気づいていないようだ。不可知って名前なだけあるわ。
でも逆に言えば、これに絵や文字を書いても誰も──オレ以外の誰も──見ることができないってことだよな。
ラノベだったらさ、超有能チートスキルが手に入るところじゃん。まあいいわ、あれ、所詮は物語だし。そう人生が上手く行くわけないよね。
ちなみに、絵には色をつけることもできた。ホントに便利。これからは検証結果とかを随時メモに記入していこうと思う。
でも、ステータスはないのか。ラノベみたいにはならないか……。
でも確かに、現実で強さが数値で出されたらなんか変かも……。さして不便でもないからいいかな。
冒険者はランクがつけられているようだし、強さの基準がこの世界にないわけじゃない。
さてさて、待ちに待った魔法、『水晶』の検証といきましょう!
さっき使ったからある程度はわかるんだけど、どこまで細かい作業ができるのか、とか、どれくらいの大きさまで作ることができるのかを調べないと。
驚く人がいるかもしれないけど、無視無視。
検証結果
・大きさは注ぐ魔力量が多ければ多いほど大きくなる。だがその分、維持魔力も増える。
・細かさはかなり細かいところまでできた。消費魔力はないが、どこまでできるかは、集中力しだい。
検証していると、村人たちが集まってきたので等身大の村長を作ってみたのだ。
初老のおっさんがポーズを決めたのは気持ち悪かったが、本物そっくりにできた。
魔力を消費するのがもったいないのですぐに消したがな。
そんなこんなで忙しい一日を送ったオレたちは、ぐっすりと熟睡することができた。
魔力の時間経過による回復だが、数値で出ないから感覚でしかないが、5分で1割ほど回復するように思える。
僧侶のお姉さんと魔術師の人に聞いたが、どちらもそのように言っていた。
割合で固定のようだ。もちろん、個人差は存在するそうだ。魔人族であっても同じことらしい。
……って本に書いてあるとのこと。
領都に行ったときにでも、本を買ってみるのもいいかもしれない。なんでも、その本は三賢者の一人が昔書いたものを発行しているのだそう。
また、魔力の増やし方は、体力の増やし方と同じで、使い続ければいいらしい。
とりあえず、成人するまでの我慢だ。農家の次男であるオレは、成人したら自由だ。
と、いうより、家を継げない。継ごうと思ってないから別にいいんだけど。
なんやかんやでオレがいろいろ検証していると、冒険者たちが領都に帰る日になった。
村の入り口でみんな集まって見送りだ。
「冒険者の皆様、この度は誠にありがとうございました。何か私どもに、できることがあれば、お申し付けください」
「あまりかしこまらなくても大丈夫ですよ、村長。私たちの仲じゃないですか。それに、私たちは時間稼ぎをしただけですし、村の防備についても指示を出しただけのようなものです。お礼は、もう貰っていますし、十分ですよ」
村長とリーダーが握手を交わす。
「いえ、それらがあってこそ、生き残ることができたのです。ありがとうございました」
「そこのラインが仕留めたので私たちは本当に時間稼ぎだけでしたが……」
「それでも、多くの時間を稼いでくれました。村人一同感謝します」
感謝の言葉を受け取り、照れくさそうにしながら冒険者たちは去っていった。
「それにしても、ライン。よくやってくれたな。ありがとう」
「どういたしまして。そういえば、あの冒険者のリーダーの名前、なんていうの?」
「名前は、ないそうだ。孤児だったそうでな。辛い記憶でもあるのだろう。無理やり聞き出したようなものだった」
「聞かないでよかったです」
何人かの村人たちが安堵した顔をしていた。辛い記憶を何度も語らせるなど、誰もしたくない。
オレは……場合によるかな。たまに好奇心に負けて、そんなこと気にせずに聞いてしまうことがある。
「さて、またいつも通りの毎日が始まるな」
「ええ。頑張りましょう」
村人たちの笑い声が、日暮れの中、辺りに響き渡った。
村人たちはいつも通りの生活を送り始めた。作物を作り、学校へ通い、遊び、手伝う。
オレは合間を縫って魔法の練習。大分自由自在に操れるようになった。今日は練習の成果を見せる日だ。
と、言うよりも、村長が酒の肴に、と思ってこんなことになっちまったんだ。
あの糞村長め。大人どもはもう片手に酒を持っている。後が怖いぞ。上さんに怒られても知〜らね。
……父さんもいるし……。
その後、オレはいろいろな物を作っては消し、作っては消しを繰り返した。
おかげで魔力はすっからかんだ。まぁ、3時間以上も続けたんだ。よくもった方だろう。
お礼に、とまわりよりも早く、生活魔術を教えてもらえることになった。
魔力を自覚さえすればいつでもいいのだが、一応大人になる準備として教えるのが決まりらしい。
明日から、村の薬師のおっちゃんの元で教えてもらえる。
ちなみに、宴に参加した男どもは帰って奥さんに怒られていた。我が父も同様に。
あんな酒飲みにはなりたくないな、と心から思った。
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