ヒーローだって休みたい
アチャレッド
0話「ヒーローだって休みたい」
とある街のとある日常。
この街には他の街とは大きく違う事がある。
「キャアアア!」
甲高い悲鳴が街に響き渡る。
「ぐわはははは!このアストロン様がこの街は頂いたぜ!」
全身がモグラのような怪物が黒い全身タイツの男達を従えて人々の視線を集めていた。
わかりやすい敵にわかりやすい場面。
当然わかりやすいヒーローも存在する。
「そこまでだ!怪人アストロン!」
「その声は!」
元気と印象の良い声が響き、声の方へ怪人の視線が向かった。
「平和戦隊!アースレンジャー!」
赤、青、黄、緑、桃、黒のコスチュームを着た六人のヒーロー、アースレンジャーは綺麗に並びポーズを決める。
アースレンジャーの登場に人々は沸き、怪人は高らかに笑い開戦の火蓋は切って落とされた。
「グワァァァァ!」
怪人は断末魔の叫びと共に人一人分に爆発して戦いは早々に幕を閉じた。
「ありがとう!アースレンジャー!」
「ありがとう!」
人々の感謝の声がこだまする。
歓声の中アースレンジャーはその場をあとにした。
「…………今何時?」
人気の無い場所に出るとふとピンクがブラックに時間を聞いた。
「あ、もう八時過ぎたっすね。」
「嘘だろ!ヤバイっ!今日俺会議あるんだよ!」
時間を聞くとグリーンはすぐさま変身を解きスーツ姿になった。
ボサボサの長い髪をヘアゴムで一纏めにするとグリーンは駅に向けて走り出す。
同じくして他のレンジャーも変身を解き、思い思いの姿に戻った。
ブラックは学ラン。
「うちの中学こっから近いんでパッと行ってきますね。」
ブルーはブレザー。
「俺の高校はこっから一時間以上だ!クソ!流石に出席がヤバい!」
ピンクは私服。
「ヤバいヤバい。今日の一限彼氏と一緒に受けてるやつなのに!」
イエローは高そうな女子制服。
「ヤッバ!うちの高校遅刻は絶対アウトだってのに!」
レッドは私服だった。
「よし!じゃあ俺は一度この辺をパトロールしてくる!」
全員各々の方向へと走り出した。
「「「「「急げ!」」」」」
おおよその同時刻。とあるカフェ。
月野奈々は仕事の疲れを癒やすため友人二人と束の間の休日を楽しんでいた。
「聞いた?街の東の方でまた怪人出たんだって!」
友人の何気ない情報にピクリと反応する。
「それで?その怪人は?どうなったの?」
食い気味で聞く姿に友人は苦笑いで答えた。
「あんたホントヒーロー情報好きだよねー。大丈夫だよ東側だからアースレンジャーが倒したってさ。」
友人の見せてきたスマホの画面にはアースレンジャーが事件を解決したニュースが載っていた。
小さく安堵し背もたれに背を預ける。
「それよりさ。アタシらももうすぐ三十路だしさ。奈々もそろそろ彼氏の一人くらい………。」
ドォォン!
安堵したのも束の間、近くから大きな爆発音が響き渡る。
「オニニニニ!街の人間を醜い鬼に変えてやるオニ!」
全身と語尾で鬼を強調する怪人がガニ股で交通を妨げていた。
「え!ヤバいじゃん!怪人じゃん!」
友人の一人が急いで席を立とうとするともう一人の友人は妙に落ち着いてジュースを飲む。
「ダイジョブっしょ?アースレンジャーは東の方にしかいないけど西側のこっちにはあの娘がいるじゃん?ね?」
友人が目を向けた時には空席がポツンと残っていた。
「あれ?奈々どこいった?」
突然消えた事に驚いているとキラキラした光が怪人の前に降り立ち視線を集めた。
「き、貴様は!」
「悪い事するイケない怪人!私が成敗してくれるわ☆」
キラキラと装飾され輝くドレス。ピンクの可愛らしいステッキがクルクルと回される。
「魔法少女☆ナナナ!参☆上!」
一見痛々しくも少女達の憧れの的、魔法少女ナナナは可愛くポーズを決めて怪人の前に立った。
「オニニニニ!よく来たな!魔法少女ナナナ!今日こそ貴様を倒してやるオニ!」
魔法少女がステッキを振りかざし、開戦の火蓋は切って落とされた。
「オニャアアア!」
人一人分の爆発で霧散して怪人は消滅した。
「この街を貶めるイケない人達はこの魔法少女ナナナが許さないんだから☆」
魔法少女はキレイに決めると空へと飛び立っていった。
少女達の歓声が響き渡り、街は落ち着きを取り戻す。
「あ!どこ行ってたのさ!奈々!」
コソコソとトイレから戻ってきた月野に友人は指をさす。
「いやー…突然トイレ行きたくなっちゃって……。」
少し不思議そうながら友人はすぐに興味を移した。
「それよりさ。また来たね魔法少女ナナナ。」
友人の興味は先程の魔法少女に移ったようだ。
「ね。けどさ。ちょっと痛々しくない?」
「それ。結構長いこと魔法少女やってんのにさ。あの歳で「イケない子☆」とか流石にイタすぎ。そう思わん?奈々。」
友人が話を振り月野は苦笑いで「そうだね。」と答えた。
友人と別れた後月野は真っ直ぐ家に帰った。
「………痛々しいってよ。」
家に入った瞬間ドッと疲れを表して空中に浮かぶ
「………そりゃあ二十九歳で☆つけて話してりゃそうだップ。」
月野は空中に浮かぶ失礼な生物を鷲掴みにして床に叩きつける。
「おびゃあ!」
何かを言い返そうとその生物はすぐさま月野の目線まで浮かび直した。
「テメェ!このシロップ様に何しやがるップ!」
まくし立てるシロップに月野は的確な目潰しをお見舞いする。
「おびゃあ!」
「………あ?だったらさっさと次の魔法少女見つけろってのよ!いつまで私に魔法少女やらしてんだよ!」
月野は凄まじい剣幕でシロップに迫る。
「私来年三十路なんだよ!なに十七年も魔法少女やらしてんだ!」
とてつもない自虐を込めた言葉にシロップはたじろいだ。
「おおう……けどまだ次の魔法少女が見つからんップ……。こっちだってここまで長く魔法少女やってる奴は初めてでビビってるップ……。」
「なぁにが「ップ」だよ!お前も私と一緒に十七年やってんだからいい歳だろうが!」
「な……!こ、こっちだってキャラ守って頑張ってんだよ!」
月野とシロップは全く生産性の無い喧嘩を繰り広げる。
ひと月に一回程こうして疲れとストレスがピークに達して喧嘩をする。
ドン!「うるせぇぞ!隣!」
「わぁ!すみません!」
隣人からの壁ドンで終わるのも最早テンプレと化していた。
気まずそうに月野は部屋のベッドに倒れ込む。
一分程ピクリとも動かず月野は大きくため息をついた。
「グワァァァァ!」
怪人が断末魔と共に散っていく。
「ハァ……ハァ……。」
大きく息を切らして男は時計を見た。
「まだ……間に合うか?」
しかしすぐさま怪人の出現を察知し勢いよく後方に振り向く。
この後の予定と数秒後に出るであろう怪人を頭の中で天秤にかけていると近くで見ていた野次馬の声が耳に入った。
「いやーやっぱ南地区と北地区は
横にいる別の野次馬も反応する。
「ホントだな。あのなんたらレンジャーとか魔法少女だかよりずっと安心だよ。」
男は頬につたる汗を拭い走り出した。
その数秒後走り出した方向で悲鳴と怒号が鳴り響く。
男は駆けつけてすぐさま叫んだ。
「会話もできん怪物め!このスーパー仮面が成敗してくれるわ!」
その男、スーパー仮面は怪物に向って走り出し、開戦の火蓋は切って落とされた。
「アンギャアアア!」
人一人分の爆発で怪物は消えていく。
歓声の中スーパー仮面が息を切らしているとまたもや悲鳴が聞こえた。
今度は反対側の北地区だ。
「ハァ……クソっ!」
スーパー仮面は北地区へ向かって走り出した。
時刻が夕刻に差し掛かりスーパー仮面は家に入った。
「ハァ……………結局面接遅刻してクビか……。」
あの後二件ほど怪物が出現し、駆けつけることになった。
スーパー仮面、本郷智和は四畳半の部屋にポツンと置かれたテレビに電源をつける。
「………の怪人を、東地区でアースレンジャーが倒したとの事です。また、西地区では魔法少女ナナナが現れ怪人を……。」
本郷は変身用ベルトを唯一物がない床に置く。
「いーなぁ……仲間。」
本郷は大きくため息をついた。
ヒーローも当然人間である以上生活がある。
アースレンジャーにも生活があり悩みがある。
アースレッド。本名、赤井聡。二十三歳。ヒーロー専業(ニート)。常に元気があり明るい性格で市民からの評判もアツく、悩みが無いのが悩みなヒーローの鑑。
アースブルー。本名、青山界人。十七歳。高校生(公立校)。クールで頭が良く結果一番損するタイプ。目下最大の悩みは他のレンジャーが役目を果たしてくれないこと。
アースイエロー。本名、黄瀬碧。十八歳。高校生(お嬢様学校)。基本的に明るい性格だが周りの目を特に気にしていてなるべく知的で大人っぽく見られたい。現在友達と遊ぶ時間がないのと進路の事で頭を悩ませている。
アースピンク。本名、桃原香菜。二十歳。大学生。誰とでも仲良くなれる性格で優しく友達も多い(彼氏持ち)。しかし度重なる秘密のヒーロー活動のせいで優しい彼氏から浮気を疑われているのが悩み。
アースグリーン。本名、緑川明夫。三十五歳。会社員。年下の面倒見もよく業績も優秀で会社からの人望も厚いが遅刻が多いため微妙な立場にいる。最近戦う度に腰を痛めるのが悩み。
アースブラック。本名、黒澤潤。十五歳。中学生。クールで顔も良くレンジャーで最もモテるが実はくだらない話が結構好き。最年少で気を使われるのは別に構わないが気を使いすぎてブルーが禿げないかが心配。
そしてアースレンジャーに悩みがあるように魔法少女にも生活があり悩みがある。
魔法少女ナナナ。本名、月野奈々。二十九歳。OL。普段は明るく誰とでも話ができて上司のくだらない話にもニコニコできる優秀な日本人。次の魔法少女が一向に決まらないまま気づけば魔法少女歴十七年のベテランとなっていた。数年前から☆をつけて話すのとミニスカの派手なドレスが非常にキツイ。
シロップ。妖精。魔法少女の相棒歴十七年のベテラン妖精。次世代の魔法少女が見つからずいつまで経っても魔法界に帰れない。最近声を高く出して語尾に「ップ」をつけるのが非常にキツイ。
そしてスーパー仮面にも生活があり悩みがあった。
スーパー仮面。本名、本郷智和。フリーター。怪物や怪人の出現がわかる為ヒーローの中で最も広い地区を守っているがそのせいか仕事は幾度と無くクビになり定職につけない。なぜ一人で戦っている自分が南と北の二地区を守っているのかは未だに疑問だが無骨で心優しい性格のため気づいたら戦っている。敵が殆ど会話もできない怪物の為、最早誰でもいいから話を聞いてほしいと思っている。
ヒーローだって人間なのだから生活がある。
戦隊ヒーローも魔法少女も仮面のヒーローも生活があり悩みがある。
疲れるし年も取る。
これはそんなヒーロー達の生活の話。
ヒーロー達のため息が別々の場所で重なる。
「「「ハァ……休みたい。」」」
明日も彼らは戦う運命にあるのだった。
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