第44話 流転の世界

「という事で先ずはイチャイチャしてほしいね。君達に」


「遠野。公開処刑レベルだぞそれ」


「君達が本当にラブラブな感じを見せないと意味が無いのでね。まあ本音を言うとかなりイライラはするけどね。こればかりは仕方が無い」


そりゃそうだろうな。

コイツ数日前まで、勘弁してくれ、的な感じだったしな。

丁度その考えを浮かべながら手を繋いでユナと歩く。

俺は考えながら遠野と俺とユナと冨永と歩く。

すると冨永がクスクスと笑った。


「本当に仲が良いのとラブラブなんですね」


「そうだな。まあ.....それなりには。好きな娘だしな」


「あまり大きく言うと恥ずかしいよ。藤也」


「そりゃ俺の彼女だしな」


「もー」


でもそれはそれで嬉しいよ、と笑顔を浮かべるユナ。

すると冨永が人差し指を唇に添えた。

それから俺達は行き着く。

その場所に、だ。


羽田の婚約者が居る.....場所に。

俺は真剣な顔をする。

遠野を見た。


「じゃあアドバイスもそこそこに。僕は行くから」


「.....ああ。また後でな」


「じゃあ行きましょうか。長門さん。森本さん」


「そうだね」


「うん」


そして俺達は歩き出して門番に近付く。

それから顔パスで中に入る.....マジかよ。

本当に中に入れたぞオイ。


俺は驚きながら襖を開ける。

そこに.....羽田の婚約者さんが笑顔を浮かべて居た。

抹茶?のお茶をたてて作っている。


「.....お待ちしてました」


「.....という事はある一定の事は知っていますよね」


「はい。この計画はほぼほぼ知っています。.....そして.....婚約者としての役目を降りる事もお伝えしなくてはなりません」


「.....は?」


長門さんそして冨永さん、と俺達に向いてくる婚約者さん。

どういう事だ.....ってかマジにどうなってんの。

俺は目を丸くしながら見ていると。


初めからこういう形は私は望んでない事は知っていますね?、と向いてくる。

それは知っているがどうなっているのだ。

そもそも降りられないのでは?


「私は光さんの隣に立つにはふさわしく無い人間です。それだったら両想いの方を隣に立たせるのが当たり前ですよね。私は実はこの事はもう光さんのお父様に進言致しました。了承を得るまで相当に時間が掛かりましたが。それだけ光の事を考えているんだ、と納得して下さいましたよ」


「.....有り得ない。じゃあ俺達がいつの間にか罠に引っ掛かっていると?!」


「.....そうです。因みにこの事は光さんにも話していません」


「そんな事って.....」


まあその。

羽田が相当悩んでいたのにな。

全く意地が悪い話だな.....。

というか何故そんな大規模な事をしてまで?


俺は考えてから羽田の婚約者さんを見る。

羽田の婚約者さんは抹茶を入れてから俺達に差し出して。

そして真剣な顔で見つめてきた。


「光さんにはご迷惑をお掛けしています。心から反省しています。しかしこれは話せませんでした。色々な都合で、です。光さんには幸せになってほしいから」


「.....っていうかその婚約者さんの代わりってのは.....」


「あなた方の目の前にいらっしゃいますよね。ね?冨永さん」


「.....え!?私.....」


「.....え!?」


俺達は驚愕して見る。

すると富永はみるみる真っ赤になっていく。

目をパチクリした俺達。


それからもう一度、羽田の婚約者さんを見る。

羽田の婚約者さんは、光さんは言ってました。貴方が好きです、と。

私は決意したんですよ。隣に立つべきは私じゃないと、と言う。


「皆さんに色々と仕掛けたのは謝ります。.....ですがこの婚約という名目にしたのは羽田家の方です。だから私では有りません。結婚は取り消せない様だったので必死に説得しました。光さんのお父様を。.....それでふさわしい人間は冨永さん貴方だとお伝えしました」


「.....そんな馬鹿な.....」


「冨永さん.....好きなの?光が」


「.....確かに悔しいとは思ってましたが.....その。そんな.....け、結婚って.....」


光さんのお父様は.....ようやっと気が付いた様です。

幸せは勝ち取るものでは無いって。

だからこのギリギリにあなた方に伝える羽目になってしまいました。

大変申し訳ありません、と婚約指輪を外してから。

冨永の手に渡す羽田の婚約者さん。


「.....光さんに宜しくお伝え下さい。今なら.....入れますから。光さんの家に」


「.....本当にいいんですか。私が婚約して」


「貴方だからこそです。.....私は光さんは確かに魅力があるとは思いますが.....ふさわしく無い。愛は貴方が持つべきです」


「羽田の家に行くか。ユナ」


「.....そうだね。確かに!」


これは想定外だった。

俺達が嵌められていたなんて。

額に手を添えながら.....俺達は抹茶を飲んでから踵を返す。

それから電話を掛けると確かに繋がった。

羽田に、だ。

もしもし、と俺は話す。


『えっと.....何故この電話番号を知っているんだい?』


「羽田。今から家に行くから。そこで待ってろ」


『何を言っているんだ。それこそ親父に止められる.....』


「ああ。それは無いから安心しろ。とにかく行くから」


『え?.....え?』


全く理解不能という形で情けない声を出す羽田。

俺は全て説明した。

許可を貰ったので、だ。


羽田の婚約者さんに。

すると羽田は、有り得ない.....、と言っていた。

そらそうだなわな。

俺も信じられんしな.....。


「とにかく。お前が婚約するのは冨永さんになるという事になる」


『.....何で親父はそれを隠して.....いたんだ.....』


「.....仮にもお前を息子として見ているからじゃねーのか」


『君には本当に何時も下らない事で助けられるな。.....本当に.....』


「全くな。本当に下らない」


でもな、と俺は言葉を発する。

そして空を見上げた。

それから笑みを零してから、羽田。良かったじゃねーか。仮にも親父は脳内は死んで無かったんだしな、と言ってみる。

羽田は涙を浮かべて嗚咽を漏らしながら、そうだな、と言う。


「.....冨永に代わるか」


『.....いや。俺の口から伝える。.....好きって事を』


「.....自覚したんだなお前も好きってのは」


『君を見ていて思ったんだ。近くに励ましてくれる人が居るほど恋しくなるってな』


「そうか」


スピーカーにしていたので冨永を見ると。

真っ赤になっていた。

そして唇を噛んで握り締めていた。

約束の指輪を。


『君には助けられてばかりだな』


「.....まあ俺は何もしてないけどな。こっちがまさかの罠に嵌められただけで」


『そうだな。.....まあそうだな』


「だから待ってろ。冨永を連れて行くから」


そして俺は遠野に連絡してから。

そのまま冨永さんと一緒に羽田の家に向かった。

それから.....冨永さんは告白する。

羽田に、だ。

俺達はそれを寄り添って見ていた。

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