第21話 大切な世界と守りたい世界と

「初めまして。私がユナとユウの父親の英(すぐる)と言います」


「.....初めまして。俺は長門藤也と言います。宜しくお願いします」


「.....それにしても珍しいね。ユナが男の子を連れて来るなんてね。どういう心境の変化かな?」


「お父さんに会わせたかったの。長門くんの事に関しては絶対に」


そうか、と言いながら英さんは咳き込む。

眉を顰めて俺はその姿を見る。

その姿はかなり痩せている。

それから頬が削げている感じだ。

完全な病人である姿をしていて俺は真剣な顔になった。


英さんは、大変申し訳無い、と言いながらも.....咳を止めようとするがなかなか咳は止まらない。

その背中を優しく撫でる森本。

そんな姿はまるで夫婦の様だった。


「.....大変だな」


「大変だけれどお父さんだから。.....愛しているお父さんだから」


「.....そうか.....」


俺は頷きながら森本を見る。

そして咳が治まった時に改めて英さんが俺を見てきた。

すまなかった、と言いながら頭を下げる。


私は末期の癌でね、と言いながら。

その言葉に、はい。伺っております、と答える。

それにビックリする英さん。


「.....ユナから聞いたのか。.....本当に仲が良いね君達は」


「.....うん。.....長門くんが良い人だから」


「.....そうか」


英さんはそんな感じで言いながらニコニコしている2人を見つつ。

ユナ。ユウ。すまないが外にちょっと出てくれるか、と言った。

俺と2人きりで話したい、と話す。


目をパチクリする俺。

だがそれを納得した様に、うん。お父さん、と直ぐに玄関から表に出て行った。

俺は目を丸くしたまま英さんを見る。


「さて。.....長門藤也くん。.....前からずっと話をしたいと思っていたんだ。君と」


「え?それって.....何の話ですか?」


「ユナを友人なのかわからない関係だけど。その関係を大切にしてやってくれないか。.....私は.....長くは持たないから」


「.....!」


「.....余命3ヶ月と言われていてね。.....ステージ4の癌で.....私の将来は本当に安泰してないんだ」


俺にそんな大きな事を任せられても困ります。

と俺は答えながら困惑する。

大丈夫。君ならユナに優しく出来る。

彼女は良い子だから、と言いながら笑みを浮かべた。


「.....あんな格好をしているけど.....彼女は根っからの良い子なんだ」


「.....ですね。それは今まで接した中でよく分かります」


「そうか。有難う。.....ユナもユウも良い子だから.....良い子だから将来が心配なんだ」


「.....」


「良い子すぎるから.....私が居なくなった時が.....」


嗚咽を漏らし始める英さん。

それから口元に手を添えながら涙を流した。

大粒の涙を、である。


俺はその姿を見ながら.....目を閉じて開いた。

正直俺はそんな性格じゃ無いです、と言いながら。

すると英さんが顔を上げた。


「俺は.....独りぼっちが好きなので.....だから性格も歪んでいます」


「.....そうか」


「.....でも可能な限り配慮はします」


「有難う。.....君は.....優しいね」


「俺はただ単に全て.....片しているだけです。片っ端から」


そうなんだね。

君はそんな性格には見えない。

と言いながら英さんは俺をまっすぐに見てくる。

そして手元のちゃぶ台に乗っているお茶を飲んだ。

俺はそれを確認してから、俺は仏じゃ無いですよ、とも言う。


「俺は.....」


「大切なものは君の心だ。.....だから君は.....多分自分を守る様な事をしているんだなと思ったよ。僕は」


「.....そうですね。.....前.....友人に裏切られた.....と言うかお話を聞くのが上手ですね」


「.....私は社会心理士だ。だから話を聞くのは上手なんだ。一応だけど」


「そうなんですね」


でも今は引退したからその職業では無いけどね。

と言いながら英さんは真っ直ぐに俺を見つめてくる。

するとこんな事を言い始めた。

君はユナが好きかな、と、である。

俺は赤面しながら、い。いや、と回答する。


「.....そうか。.....君がユナを好きになってくれたら嬉しいかもしれない。君は.....どうやら彼女にとってはヒーローの様だからね」


「.....俺はヒーローじゃ無いです。.....でもそう感謝されるのは有難いって思っています。森本さんに.....です」


「ユナは沢山の友達を私の為に作ってくれたんだ。.....でもその代わりに大切な人がまだ出来てないんだ。私の為とは言っているけど.....彼女なりの幸せを見つけてほしいんだ」


「娘さん思いですね。英さん」


「将来が本当に.....本当に不安だからね」


言いながら俺は見てくる英さん。

苦笑気味に、である。

俺はその姿に真剣な顔で見つめる。

それから、任せて下さい。とは言いません。でも俺は森本と仲を取り持ちたいです、と言いながら英さんを見た。


「.....有難う。.....本当に感謝しているよ」


「.....はい」


「残念ながらユナは聞いていたみたいだ。.....な?ユナ」


言いながら玄関ドアを見ると。

隙間が空いている。

俺はビックリしながら見つめる。

ユナは赤くなってモジモジしていた。


「2人だけで.....って.....思った.....けど.....」


「全く。.....2人きりで話したいと言ったのにな」


「森本.....お前聞いていたのかよ」


「.....う、うん」


真っ赤になりながら髪の毛を弄りながら俺を見る。

そして赤くなる森本。

恥じらいながら居るとユウちゃんが、お姉ちゃん。言いたい事は言わないと、と言葉を発した。

ん?言いたい事って何だ。


「.....私は.....お父さん。長門くんが好きです」


「.....知ってる。.....全く相変わらず隠すのが下手くそだな。ユナ」


「もー.....」


「でもそのお陰で応援したいと思った。.....お前をな」


「お姉ちゃん。頑張って♪」


何だか大変な事になっている気がするが。

俺は顔を引き攣らせながらそう考えつつ.....苦笑した。

どうしたものかな。

だけど今の状態が.....何となく。

心地良い感じに思えた。

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