加筆版 イギリスの今と翔の成長
porksoup (ポークスープ)
第一章 新しい生活
2013年11月。紺のフリースと白いスニーカーを着た8歳の北村翔は23歳の国語教師、水原直子と一緒に空港の椅子に座り、ロンドン行きの飛行機を待ちながら2週間前のことを思い出していた。
翔の両親、篤と純子は銀座の高級腕時計の会社で800万を稼ぎ社長夫婦になるため働き、6歳だった息子をマンションに残し会社の寮に移ってしまった。翔は『一文無しになればいい』とペンで書いたメモを残し家を出た。
学校でも同級生と話さず、図書室で児童書や小説を読みながら一人で過ごすことが多い翔に、直子は職員室で「北村君。私がロンドンに留学してた時に知り合った夫婦がいるんだけど、二人と一緒に暮らしてみない?」と聞いた。
「ロンドン?」「うん。ジャックとマリアン・クラークっていう名前で、茶色い屋根に金色の時計が描かれた看板がかかった家だよ。私も空港に行って、あなたが飛行機に乗るまでいる」直子は満面の笑みを見せる。翔は「行きます」と答え、直子と空港に向かった。
ロンドン行きの飛行機に乗る翔に「北村君、気を付けて。元気で過ごしてね」と直子が言った。「ありがとうございます、水原先生」と答え、翔は座った座席から彼女に手を振った。
『当機はまもなく、ロンドンに到着します』背中まである金髪で20代の女性スタッフのアナウンスに、翔は外を見る。ロンドンの街並みが見えてきていた。
黒いリュックサックを持って飛行機を降り、クラーク家を探す。茶色い屋根に金色の時計が描かれた看板が玄関ドアにかけられ、溶けかけた雪が階段前に積もっている。
ベルを鳴らすと短い金髪と緑色の目を持つ32歳の男性と肩まである茶髪に青い目の30歳の女性が、「翔!待っていた」「会えて嬉しい!入って」と声をかけてくれた。
「ジャックさん、マリアンさん。北村翔です」「翔。俺はジャック・クラークだ。このクラーク家で妻マリアン、メスの黒猫レモンと過ごしている。俺とマリアンがお前の養父母になり、一緒に暮らしたいと考えているんだ」ジャックは祖父が作った暖炉の火を見ながら、翔に嬉しそうな笑みを見せる。壁にも銀色の時計がかけられ、カチカチと音を立てている。
翔は「よろしくお願いします」と答え、ひざの上に乗ってきたレモンをなでながら二人に頭を下げた。(翔の名字が『北村』から『クラーク』に変わった)。
夕食を終えてシャワーを浴びた翔はジャックが渡したベージュの寝間着に着替えて2階の自室へと入り、ベッドに座って日本から持って来た児童書を読む。メスの黒猫レモンが翔に向かって「ニャー」と鳴き、足を伸ばしながらベッドに乗る。
「レモン、俺は日本から来た翔だ。よろしく」「ニャニャニャニャ」翔は児童書を棚に入れ、レモンの頭をなでながら寝た。
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