第6話 頂のヘラクレス
六月ももうすぐ終わる。
本格的な夏に入ろうとしている
強い日差しを受けながら、ホテルヘラクレスを目指して山道を歩くリーサ。想像以上の森の中をかれこれ一時間ほど歩いており、とっくに限界は過ぎていた。
本当にこの先にホテルがあるのか。そんな不安がずっと頭から離れない。自然を感じたい。都会にいる人間ほど強く思うに違いない。
リーサもそうであった。しかしこれはどうだ。本当にここは人が通る道で合っているのか。ジャングルではないか。アマゾンではないか。
もちろんどちらも行ったことなんてない。だがそれほどの大自然である。
見たことのない植物。昆虫。生物。
最初は感動していたが、次第にそれは恐怖へと変わっていった。
頭皮から顔へと滝の様に流れる汗は、今ではそれが当たり前となり、何も感じなくなっている。
見たことのない植物ゆえに、今それを発見して、これ以上不安な気持ちになりたくなかった。
目の前を
遂に辿り着いた。
謎に包まれた【ホテル・ヘラクレス】。
写真で見た通り、この島に全く合っていない中世ヨーロッパを思わす外観。いったいどういう流れでここに、これが建っているのだ。
色々通り越して怖い。
リーサの顔は一瞬くしゃっと崩れ、涙が出そうになった。
「ここがホテルヘラクレスかぁ! カッコいい!」
テンションが上がったイザナギはスピードを上げて飛び回る。
アホが一人紛れている。リーサは頭を抱えた。
辿り着くまでの道中も騒がしかった。リーサの不安や恐怖とは反対に、イザナギはこの大自然を楽しんでいた。まるで子供のように。
山道を歩くことに必死で、いちいちそれを相手にしなかったが、内心ではイラついていた。
何よりイザナギは地面を歩くことはしないので、浮遊してあちこち飛び回る姿に殺意を覚えていた。
ホテルを見上げると、頂上には何やら像が象徴的に立っている。
あれはギリシャ神話で最大の英雄。
ヘラクレス像だ。
毛皮を頭からまとい、両端の皮を胸前で結んでいる。
だけ。
ほぼ全裸ではないか。
そして右手には棍棒を持ち、
何をそんな恰好で自信満々で遠くを見つめているのか。
凛としている場合か。
ヘラクレス像につっこみを入れたあと、リーサは改めてホテルを見る。
ホテルの外観は、全体的に石材を使用し、パルテノン神殿のような円柱がいくつも建っている。どれも写真でしか見たことは無いが、フランス・パリにある【エトワール凱旋門】や、【マドレーヌ寺院】、【サント・ジュヌヴィエーヴ聖堂】がイメージに近い。
外観だけで相当な費用がかけられていることは想像出来た。
ただやはり。
西表島には全く合っていない。
はちゃめちゃにズレている。
リーサはそんなことをあれこれ考えたが、とにかく暑くて疲弊していた。
もうそんなことはどうだっていい。早く休みたい。ベッドで横になりたい。冷たいトロピカルなジュースを飲みたい。
最後の力を振り絞り、リーサはホテルへと入って行く。
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