第2話 嘘みたいな能力

 学校の帰り道。仲の良い友達と遊んでいた時、友達はふざけていた。駅近くの広々とした公園で二人は全速力で何故か走った。どっちが早くあの街灯にタッチ出来るか。


 スピードはリーサの方が速く、このまま置き去りにしてしまおうと思った瞬間、前方に鉄の鎖が横に伸びているのが見えた。リーサは咄嗟にジャンプして飛び越えてそのまま街灯にタッチした。


 振り返ると、友達はその鎖に引っかかった様子で、地面に倒れていた。近寄ると顔面から血を流し起き上がる力もなかった。慌てたリーサであったが、何をどうして良いか思考が停止し、泣き叫ぶ。直ぐに救急車でも呼べば良かったのだが、リーサはイザナギに助けを求めた。


 イザナギはリーサの上空に姿を現す。


「リーサはどうしたいの?」


 その問いにすぐさま。


「友達を助けたい……!」


 すると脳内に突然流れ始めたユーロビート調のミュージック。その時リーサは頭が混乱していると思っていた。


「さぁ僕と一緒に儀式であるダンスを踊るよ!」


 その言葉の意味になんの疑問も持たず、気が付けば身体が勝手に動いていた。初めて聞く曲に合わせて、リーサはイザナギと一糸乱れる振付でダンスを踊る。二人は完全にリンクし、最後のポーズを決めた瞬間、不思議な光と白い煙に包まれた。


 そして、目の前に現れたのはとても大きな【羅針盤】。


 中央から伸びる一本の矢印の針は、時計の様だった。円の外側には何やら解読出来ない中国の漢字の様な字や、模様が一面を覆っている。


「リーサ。完全に僕とリンクすることが出来たね。これはもっと先の話しになると思っていたけど、随分と早くにこの能力を君に伝える時が来たようだ」

「能力?」

「まず、周りを見てご覧」


 リーサはゆっくりと振り返り、辺りを見回した。最初は先ほどとは変わらぬ情景だと思ったが直ぐに気付く。


「そう。時が止まっているんだよ」

「なにこれ。どうして……」

「伊邪那岐神は、として、この地を創造し、様々な神を生み出した。そして僕の役目は、君を、君の思う正しい方向へとイザナうのさ」

「いったいなんの話しか分からないわ」

「今は分からなくていい。さぁ早く友達を助けよう」

「う、うん!そんなことが本当に出来るならお願い!」


 イザナギは笑みを浮かべて、羅針盤の針を少し巻き戻す。


「それはいったいなに?」

「この針が最初に止まっていたのは、リーサの友達が事故にあった瞬間を指していた。だからそれを、事故が起こる前に戻したんだよ。そして時が流れ始めるとまたそこから時間は進み始める」

「そんなこと、あり得ないわ……!」

「信じられないのは無理もないさ。でも本当さ。だって僕、神だも~ん!」


 笑いながらリーサの周りを飛行するイザナギ。


「真面目に考えてよイザナギ! 友達がこんなに苦しんでいるのよ!」

「大真面目だよリーサ。この力は、君と。僕。二人だけの力。さぁ行くよ!」


 瞬時に羅針盤はその場の空間に吸い込まれ、何事も無かったかの様に時が動き始めた。


「……え?」


 隣には笑っている友達がいる。これからどちらが先にあの街灯にタッチ出来るか勝負しよう。と提案してきた。先ほどと全く同じ会話だった。変な夢でも見ているのかと思ったが、リーサはイザナギを信じた。


「私少し疲れたみたい! だからやめておかない?」


 そう言うと、友達はキョトンとし、少し変なものを見る目でリーサを見た。いつもこういったノリを断ることはしないリーサに違和感を感じるのは無理もないだろう。


「ごめんねノリ悪くて。今日は、いつものファーストフードに行ってお喋りしない?」


 友達はよっぽどリーサが疲れていると思ってくれたのか、素直に応じてくれた。


 不思議なことにその日は何事もなく終わり、それから先も普通に人生が始まったのだ。


 こうした不思議な能力について、まだ全てを理解しているわけではなかった。しかしあの日から今日まで、本当に誰かを救いたいと思った時は、その能力を使った。イザナギからは、能力を自分の為だけに使ってはいけないと言い聞かせられているので、高校一年から二十歳になった今まで、数えるくらいしか使ったことはない。そのせいで日常の大半は、その能力自体忘れているほどだ。


 お湯をマグカップに注ぎ、グルグルとコーンポタージュを回す。よくかき混ぜないと端の方が混ざっていないことに、飲んでから気付くのが嫌だった。


「リーサ。僕の分ももちろんあるよね?」


 神のくせに、人間が食べるものをせがむイザナギに、リーサはイラっとした。

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