第2話 憧れの同級生は痛い子だった

「魔王を退治すれば、みんなの願いを一つ叶えてあげよう。だから、魔王を退治するんだ」

 おれが宣言すると、

「そんなこといって、あたしの願いなんて叶うはずない」

 と瑞希は珍しく落胆したようだった。

「ちなみに、瑞希の願いって何?」

 おれが聞くと、

「あたし、実は、一万二千年前に桜の木の下で彼氏と約束したの。全人類を皆殺しにしようって。それから、あたしは一万二千年の間、輪廻をくり返し、人類を殺してきた。あたしの正体は殺戮の天使なのよ」

 ぶおっ。

 意味がわからなかった。

 まず、瑞希に彼氏っていたっけ? 確かいないはず。ということは、桜の木の下で約束したというのは、瑞希の妄想。

 で、全人類を皆殺しにしようと約束しただって?

 一万二千年の間、輪廻してきただって?

 どういうことかわからない。

「瑞希、真面目にいってる? おれは全知全能で、本当にどんな願いごとでも叶えられるんだよ」

「だから、地上の人類を皆殺しにするのがあたしの願い」

 へええ。

 意外だ。

 というか、衝撃だ。そんな反社会的なことを考えていたなんて。おれは、社会の規則なんておかまいなしの自由人だけど、瑞希ちゃんには常識人であってほしかった。

 はあ。なんか、やる気が九割なくなったなあ。


「で、士郎の願いは何なんだ」

 この質問に、士郎は真剣に答えた。

「ぼくの願いは、全人類、いや、全知的生命体がより効率の良い労働付加価値の蓄積を行うことであり、それがもし、本当に叶うのなら、真面目に魔王を退治してもいい」

 わけがわからなかった。

 意味がわからない。

 労働付加価値って何だ?

 しかも、全知的生命体の労働付加価値って何だ?

 見たことも考えたこともないぞ。

 知らん。

 次。


「もみじの願いは何なんだい?」

 もみじは、うつむいていた。

 もし、願い事が本当に叶うとしたら、それは自分の魂の核にある本音を暴露することであり、それをするには勇気がいる。本音を暴露して、もし、批難されたら、かよわい中学生の心など、ぽっきり折れてしまいかねない。

 そういう意味で、ぼくはとても重い難題をもみじに課したことになる。

 突然、異世界に連れてこられて、魔王退治に誘われたのだから、これがかなりの異常事態だとはもみじも気付いているのだろう。だから、もみじは本気にならざるを得ない。もみじは、生まれて初めて、自分の心の奥底に隠してきた本音を暴露しようとしているのである。それはあまりにも、危険の大きい決断だった。

 神さまに選ばれない方がもみじは幸せだったのかもしれない。

 何でも一つ願いが叶うってことは、そんなに幸せなことではない。

 もみじは、うつむいたまま、ぼそっと呟いた。

「わたしは、自殺したい」

「はあ?」

 これには、おれは驚いた。まさか、たった一つ叶う願い事で、そんなことを願うやつがいるとは思わなかった。

「わたしは、中学生で自殺して死にたい。もう生きていたくない。お願いだから、魔王を退治したら、わたしを殺して」

 これが、おれの三人の仲間の願いだった。


 魔王には、おれがいれば絶対に勝つし、だから、三人の願いは絶対に叶えることになる。それがこんな願いで、おれ、どうしたらいいの?

 三人とも、意味がわからない。

 頭がおかしいんじゃないだろうか。

 それとも、これが悩める思春期の本当の姿なのだろうか。


「とにかく、魔王退治に行くぞ、それえ」

 おれは三人を急かして、魔王城に向かわせた。


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