いまだ法蔵菩薩は悟っていない
木島別弥(旧:へげぞぞ)
第1話
「ぼくの名前を呼んだ者はみな、来世、極楽浄土に生まれ変わるようにしてあげるんだ」
法蔵菩薩はそういったと伝えられる。
そして、いざよは、彼の名前を知らなかった。いざよは暴漢に襲われていた。逃げる。捕まったら、強姦されて殺されてしまう。いざよは暴漢からひたすら逃げつづけた。
「彼女、捕まったら殺されるね」
「ああ、殺されるな」
二人の美しい男女が話していた。
「殺されれば、彼女は転生するだろう。彼女は来世、畜生界や餓鬼界、地獄界に生まれるだろうか」
「生まれるかもしれないな」
「どれ、我々で彼女を助けてやるのも善行というものではないかな」
「うむ。助ける気がないわけではない」
そして、二人の美しい男女がいざよと暴漢の間に、神足通で瞬時に移動した。彼らは、今まで、天眼通と天耳通でいざよの様子を探っていたのだ。
驚くいざよ。誰が、やってきたのだ。見たこともないほど美しい男女がいる。男女は、黄金と珊瑚と瑠璃を飾りに身に付けている。
暴漢が、現れた男女のあまりの荘厳さに気圧されていた。暴漢たちには、二人の男女が手を出していい相手なのかどうかが計り知れない。
いざよは驚いて声も出ない。
そんないざよに二人の男女は話しかけた。
「やあ、この暴漢から逃げられるように、きみの家まで神足通で送ってあげるよ」
「うん。神足通で送ってあげる」
助けてくれるのか。あたしの味方か。いざよは思った。
「た、助けて」
「うん、助けてあげる」
「助けてあげる」
いざよは藁にもすがる思いだった。このままでは殺されてしまう。
そして、いざよは、二人の男女の神足通によって、自宅にまで送ってもらったのだった。
「ここなら、安心だろう」
「そうだ、安心だろう」
「はい、ありがとうございます」
いざよは助けられて、感謝のことばを述べた。
「それで、あたしを助けてくれたあなたたちはどこの何というお方ですか?」
いざよが尋ねると、二人は威風堂々として答えた。
「我々は、ある修行僧の力によって、極楽浄土に生まれ変わったものだ。少しばかり、善行をなしただけだから、気にしたまえるな」
「極楽浄土に生まれた者は、みな、神足通と天眼通と天耳通をもっているのだ。だから、こんなことはいとも容易いことなのだ。気にしたもうな」
「極楽浄土のお方はみんなそんなお美しいのでしょうか」
「いや、我々にはこれが当たり前なので、美しいという概念がわからないのだ」
「そうだ。美しいという概念はわからない」
これほど美しくなれるのなら、いざよは、是非、自分も来世には極楽浄土に生まれ変わりたいと思った。美しいものに囲まれて、毎日を暮らしたいと思った。
「もし、あなたがこれから困ったことがあったら、ただ、あのお方の名前を呼ぶだけでいい。あの方は必ず助けに来てくれる」
「もし、あなたが来世に極楽浄土に生まれたいと思ったら、あのお方の名前を呼ぶだけでいい。あの方は必ずあなたを導いてくれる」
「あの方の名前とは?」
「法蔵菩薩」
法蔵菩薩。のちの、阿弥陀如来である。
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