第3話 格闘技大会

 いくつもの島を渡り、グレイザークはヒュナーン首都ボレガロの格闘技大会に間に合った。

 受け付けで選手登録を済ませ、自由時間の間に飼い猫に餌を買い与えた。


「フッ よく食べるねこたちだ……よく噛んで食べるんだぞ」

 

 彼が餌を食べている飼い猫の頭をでていると「あら! グレイザークじゃない!」聞き覚えのある声がした。


「おまえかよ! フッ ルーシャ。まさかお前も大会に出るのか?」


「わたしは出ないわよ。二人目を授かっているからね。だからよろいを装備していないでしょ?」


「フッ そうか。おまえと戦えないとは少し残念だが仕方があるまい」


 ルーシャがおんぶしている子供がぐずっている。


「この子はデスゲイズのせがれか?」

 グレイザークがルーシャにたずねると、子供をあやしながら「そうよ。もう2歳になるのよ。早いわよねえ〜」と答えた。


「あなたはまだ結婚とか…彼女とかいないの?」


「フッ 想い人ならばいないことはない」


「もしかしてアムリタじゃない? 競争率高いわよ〜。他のを狙ったほうがいいわよ」


「確かにアムリタさんと仲良くさせてもらっている。上手く行けばそういった事があると思うが…フッ 今のところはない」


 ルーシャは手をひらひらさせながら「まー、がんばってよね。応援してるわ。ついでに大会もがんばってね」とグレイザークに言った。


「ぶふっ! ついでにか。ま、まあ適度にがんばろう。猛者はチャンピオン国王ジュバンだけだろうし」


 ルーシャと会話を楽しんでいると時間があっと言う間に過ぎ、ドン、ドン、ドンと火薬がはじける音が聞こえてきた。


「予選開始の時間がきたようだ。ではな、ルーシャ」


「ケガしないようにね〜」


 ルーシャが手を振って見送る。


 予選会場にて「えー。今から予選を開始いたします。こちらにありますクジを引いていただきまして、同じ色のクジの相手と戦っていただきます」


「南無三…!」


 グレイザークがクジを引くと青色だった。


「オレは青色だ。青色のクジを他に誰が引いたんだ?」


 すると一人の老婆が手を上げ、青色のクジを見せる。


「フッ 老婆レディが相手か。予選一回戦は楽勝だな」


 二人はクジを審判員に見せ予選一回戦が開始される。


「えー。両者前に! …グレイザーク選手。そしてアタミ選手。試合開始!」


 アタミは怪しげな構えを取り、そこからグレイザークに飛び寄り、指先で点穴てんけつを突こうとする!

 次々と繰り出される点穴のラッシュに会場からどよめきが上がる。


「なかなかの腕前…しかし、フッ 見切った!」


 グレイザークはアタミの右腕側に『スッ』と移動しアタミの背後に回り、背中にしがみつき豪快に投げ飛ばす!

 アタミは空中をクルクル回転して無事に着地するがそこから身体がねじれながらび、舞台に倒れ失神しっしんした!


「これぞグレイザーク流格闘術…!」


 審判員が旗を上げ「勝者、グレイザーク選手!」


 グレイザークは勝利したあとアタミに気を入れて抱き起こす。


「なかなか強かったデス。アタミさん」


「いやあ。アンタには負けたよ」


 歓声が上がる。


 なんの歓声かと思いグレイザークが目をやると、歌を詠んでいる老人が2メートルはあろうかという巨漢を指先で『チョチョイ』と転がしているところであった。


「なんだアイツは…老婆に老人。今回の大会はなのか……?」


 グレイザークはつぶやきながら一人で笑っていた。

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