ドエライ王国での冒険

第1話 ドエライ王国奮闘記

□■□■□■□■□■


 一軒の居酒屋で一人飲みをしているデスゲイズという名の男がいた。


□■□■□■□■□■


「これがドラゴンなべか…しかし不味そうなにおいだぜ…本当に食えるのかよ…」俺様は鍋をスプーンでかき混ぜながらつぶやいた。

 

 ドエライ王国首都デーレーの居酒屋で出された料理・ドラゴン鍋。値段のわりに不味そうな香りと珍妙な見た目。


「45デーレー(1デーレー=100円とお考えください)もするのになんだよこりゃ…誰か味見しねーかな…」

 俺様がひたすらぼやきながら酒をチビリと口に含んだその時

 

 カランカラン♪


 居酒屋の入口の鐘が鳴り、女の客が入ってきた。


「らっしゃーい!」

 居酒屋の従業員が叫ぶ。


 俺様はその客の顔をながめて"ニヤリ"と微笑ほほえんで言った。


「よーうアムリタ。今日は縁起が悪くて最悪な日だぜ。まさかお前に会うとはなあ」

 俺様は居酒屋に入ってきた赤毛の少女を見やりながら低い声で言った。


「入ってすぐの顔はなんとなく予見していたよデスゲイズ。今日の私の運勢占いは凶だったからね」

 アムリタは鼻でふっと笑いながら俺様に言い返してきた。


 デスゲイズはアムリタにゲスな笑いを浮かべたまま席をすすめ、このを食えと指さして命令した。


「なんだよこれ…! 変なにおいのだな。私は食べないよデスゲイズ」

 アムリタはすすめられた席も辞退しながら鼻でふっと笑った。


「キサマ、俺様が用意してやった突き出しの料理が食えないとはどういう了見だ? 一食分早く食べられるんだぞ?」


 俺様はアムリタに『はやく食えほうれ食え』とつぶやきながら更にをすすめた。

 

 だがアムリタは俺様をやんわりと無視しながら離れた席に腰かけた。


 デスゲイズは『一生呪ってやる』というテーマの歌をぼそぼそ歌いながらアムリタをにらんでいた。


 しばらくして来客があり従業員が『らっしゃーい!』と勢いよく声をかける。


 その客は店内を見渡したあとアムリタのもとへ近づき、隣の席に座る。アムリタは少しほほを紅潮させ隣の席の男性に楽しそうに話しかける。


「今日は楽しく過ごせたらいいねアムリタ」

 男がアムリタに優しく声をかけて彼女を見つめた。


「ソーマ……えっと、照れくさいなそんなに見つめられたら、私は」

 アムリタは顔を真っ赤に染めて彼に告げた。


 俺様は『音が聴こえるんデスくん・補聴器魔術用具』をはめて二人の会話をニヤニヤして聞いていた。

 

 ソーマと呼ばれた男がアムリタに"ふっ"と微笑んだ次の瞬間!!


 バリ―――――ン!!!


 居酒屋の扉を叩き割りながら黒い鱗をしたトカゲ男が店内に複数乱入してきた!


 俺様はとばっちりが来ない様に、魔法の障壁バリアを張りながら様子をうかがった。

 アムリタとソーマは反射的に武器に手をかけてブラックリザード団の方を注視する。

 他の客たちは悲鳴をあげながら壁に張り付いたり逃げ場所を探していた。


 ブラックリザード団は店員に詰め寄り、よどんだ声で『金を出せ!』と怒鳴った。


 アムリタが魔法の詠唱に入り、敵意を向けられたブラックリザード団が魔法に気づいてアムリタに詰め寄るが、間にソーマが割って入る。

 デスゲイズは高みの見物に入り、微動だにしない。


数多あまたなる敵意を持ちし魔物にひと時の安らぎを与えん―――睡眠の雲!!」


 アムリタの魔法・睡眠の雲が放たれ、ブラックリザード団数匹が眠りに落ちる。まだ起きているブラックリザードマンが槍を抜き放ちアムリタめがけて突き刺す。

 しかしソーマが槍の軌道きどうを読み、槍をきれいに剣で払う。


 俺様はソーマに『なかなかやるではないか』と少しだけ感心していた。


 残りの眠っていないブラックリザード団は店内でカウンターや椅子を壊し大暴れをしながらアムリタとソーマ、ついでにデスゲイズに槍で攻撃をしかける。


「数多なる敵意をもちし…キャンセルっ、いくぞ!」アムリタが剣を抜き放ちブラックリザード団に切りかかる。

 黒い鱗は極めて硬く、アムリタの剣撃を強固に受け止めた。


「くっ硬いっ! ソーマ! お願いっ!」

「わかった! くらえ我が剣技を! 神魔双炎斬しんまそうえんざん!」


 ソーマの剣から放たれた二つの波紋が炎になりブラックリザードマンを包み込む! 

 しかし、この剣撃も黒い鱗が堅くはばむ。


「くっ、ダメか!」

「デスゲイズ! なんとかならないか!?」

 アムリタが俺様に叫ぶ。


 俺様は自身が張り巡らせたバリアで身を守り遊んでいたが、アムリタから緊急要請きんきゅうようせいがあったため答えてやった。


「ほっほう!? 俺様にたすけを求めるとはいい度胸だ。アムリタよ……ザルカス市の私有地を全て俺様に泣いて差し出すならばたすけてやらんでもない」

「なんで泣いて差し出さなきゃならないんだよ! まったく…!」


 アムリタは近くにあった他の客の料理をわしづかみ、料理でブラックリザード団の気を引きながら外へ駆け出した。

 ソーマも同じように気を引いて外へ駆けて行った。

 ブラックリザード団はアムリタとソーマを追いながら店を出て行った。

 

 そしてデスゲイズはドラゴン鍋が不味まずそうだと店長に苦言くげんを言いながら浮かれ気分で外へ駆けだした。

 もちろんアムリタやソーマとは反対方向へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る