第5話
そして、真佐紀たち三人は無神論者になったふりをした。遠い無神論者の里まで旅をして、戦闘自動車とか、戦車とかある無神論者の里についた。
「ここには世界を滅ぼせるだけの兵器がある。だが、それは秘密だ」
と無神論者の里のお偉い人がいっていた。
伊煮の持っている銃より高性能なマシンガンを手に入れた真佐紀たちは無神論者の軍に従って従軍した。
それから、平和教徒と世界を二分する戦いが行われ、四年が立って、無神論者が勝った。平和教徒の勇者ラルクは無残に迫撃砲に撃たれて死んだ。
革命の成功だ。
真佐紀たち四人は意気揚々と世界の首都に乗りこみ、征圧した。無神論者の大勝利だった。平和教徒に神の加護などなかった。悪魔といわれる真佐紀たち無神論者が勝った。
平和教徒は世界中の辺境へ逃げ、無神論者は、交通の要所をすべて抑えた。
「ははははははっ、何が神の軍隊だ。何が正義の軍隊だ。何が真実の軍隊だ。そんなものはてんで嘘っぱちだと知らしめたぞ。平和教徒は神の加護ももたず、神は全知全能ではなく、神は万物の創造主ではなく、神は天地の所有者ではなく、神は寛大でも慈悲深くもない。平和教徒の詠唱集は嘘っぱちだ。あの<多神教徒と無神論者は殺せ>という文章を書き伝えたことを末代まで罰せられるがいい。おっと、ちょっと無神論ぽくない言い方だったかな」
そして、平和教徒の世界政府議事堂の指導者の宣誓書のサインを破り捨てた伊煮は、三人を見ていった。
「ねえ。無神論者になった方がよかったでしょ」
真佐紀はキアゲゴーとポコの顔を見た。
「それがすまないんだが、伊煮」
「そうだあ。この罪深きキアゲゴーをきっとおまえは軽蔑するだろう。先を話してくれ、真佐紀」
「ポコからもお願いします」
「どういうこと?」
伊煮がいぶかしぶる。
「それが、おれたちが棄教したというのは嘘なんだ。ただ、平和教徒を倒すのに協力してもらっただけさ」
「どういうこと」
伊煮はなおも同じことばで質問する。
「だから、おれは今でも多神教徒だし、キアゲゴーは今でも贖罪教徒だし、ポコは今でもオタク教徒なんだ」
伊煮がマシンガンの引き金に指を入れた。
「だましたのね」
「残念ながら、そういうことだ」
「あなたたちの古風な信仰ではこれからの時代は生きていけないでしょ。それはこの革命でよくわかったでしょ。世界の体制も常に脱構築されていくものであり、完全な教義など存在しないわ。無神論者がまちがっているかもしれない。無神論者が将来、まちがった統治の仕方をするかもしれない。それは確かなことよ。でも、残念ながら、多神教徒や贖罪教徒には未来はない。これは断言できるわ」
返すことばもない真佐紀とキアゲゴーだが、ただ一人、ちがう者がいた。
ポコである。
「今、オタク教徒の名を口にしませんでしたね」
伊煮は黙った。
「さては薄々気づいているのでしょう。オタク教徒が無神論者より優れた宗教だということに」
そして、ポコが叫んだ。
「みんな、出てきて。せーの」
わっとオタク教徒の着ぐるみをした人やコスプレをした人やギリ―スーツを着た人が集まった。
「悪いですが、世界の統治はオタク教徒が行います。無神論者の首脳部はオタク教徒がのっとりました。オタクこそが未来の宗教です。ポコは預言者になります」
真佐紀とキアゲゴーは、ただ茫然としていた。
伊煮は、完全に虚をつかれ、上層部を骨抜きにされていたことを知った。無神論者の上層部はオタク文化のエロ要素に屈服し、オタク教徒に寝返っていたのだ。
「みごとだわ、ポコ」
おさまらないのが、真佐紀とギアゲゴーだ。
「おいおいおいおい、ちょっと待てよ。おれたちはオタク教徒に屈するなんてひとこともいってないぞ」
「あなたたちはただの古風なオタクです。何の問題もありません」
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