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 目覚めたとき、彼女はいなかった。

 目元がぱりぱりしている。どうやら、泣いていたらしい。彼女の胸元で。彼女に抱かれて。泣いていたのか。

 目を潤す涙を流したことはあるけど、泣いたことなんて、なかった。目は武器で、涙はそのための潤滑剤。そういうものだった。

 彼女は、もう、いない。

 存在していたのかさえ、分からない。情報もない。

 でも。

 彼女のぬくもりを、暖かさを、思い出せる。ここにはもう既に存在しない、彼女のことを。


「ありがとう」


 彼女が、消える前に。言うべきだった。

 心の消耗は、消えない。自分の心なのだから、それは分かる。それでも、彼女のことを忘れたくなかった。疲弊した心の、その、いちばんの奥のところに。彼女がいる。よく、分からないけど。やさしくしてくれている、気が、する。

 彼女のことは、忘れてしまっても。この暖かさとやさしさは。たぶん消えない。


「ありがとう」


 もう、ここにはいない彼女。

 一言。伝えたかった。やさしくしてくれて、ありがとう。それだけを。

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