似たもの同士なオトモダチのキミを幸せにしたい

赤茄子橄

前編

「気持ちよかったぁ〜」


「そだなぁ〜。ありがと〜」


「あー、そういえばさ〜」


「ん〜?」


「彼氏できそ〜」


「おー、まじでー?よかったな〜」


「うんー、まぁまだわからないけどね〜」



俺のベッドの上で裸で仰向けになって、わずかに荒立った息を整えながらつぶやくこいつは、十六夜織いざよいしき

俺と同じ大学で学部3年になる女友達。


と言っても、彼女と俺の学部は同じではない。

俺は心理学部、しきは経済学部。


そんな俺達が出会ったのは、織が、もともと俺の同じ学部の友達の高校時代からの友達で、大学1年の春頃、昼に食堂で一緒になったことがきっかけだった。



まぁそれは置いておくとして、しきげんによると、どうやらまた・・新しい男といい雰囲気らしい。


今度はある程度続くのか。

いずれにしても、織にとってこれは良いことだ。

俺と違って・・・・・誠実な相手だったら良いんだけどな。



「それで?今はその人とどんな状況なんだ?」


ベッドの横に投げ捨てられたピンクのショーツとブラ、それと箱ティッシュを手渡しながら問いかける。


なにも心から知りたいと思ってるわけではない。


けど、織が話を振ってきたということは何かしら聞いてほしいことがあるんじゃないだろうか。

それなら聞いてあげようじゃないか、なんてちょっと上から目線の思考を経由して、質問を投げかけてみた。


まぁこのやり取りも、初めてってわけじゃない。どころか、すでにしたことのあるやり取りだから、頭を使って考えたと言うより、ほぼ脊髄で返してるって方が近い。



「そうねぇ。あ、この間デート行ったとき手を繋がれたかな〜」


「ふーん、いいじゃん。じゃあ次のデート辺りでいろいろ繋がっちゃう感じか〜」


「突然のセクハラ辞めてよ。謝って」


「いや今更だろ、何言ってんだ。織こそ変な濡れ衣着せるんじゃねぇよ、謝ってくれ」


「確かにそうね。ごめんなさい......ってなるわけないでしょ」



織はまだ濡れたままの自分の股間をティッシュで拭いてからショーツを履いて、ブラを前側でホックを付けてからぐいっと一周させて着る。

俺は割とこの動作が好きで、いつもじっと見ている。


若干おぼこさの残る丸っこい輪郭と、150cm台前半と大きいわけではない身長ではあるが、Dの称号を保有する一部と、ダウナーさを醸し出す切れ長の目からは、しっかりとした色気が醸し出されていて、素晴らしい目の保養と言わざるを得ない。


凝視していると、最初の頃は「バカッ、あっち向いてて」とか言われたけど、俺がしつこく眺めてたらそのうち言われなくなった。


ちゃんと避妊はしているので、白い液体を拭き取ってるわけではない。

織は最近特に濡れやすいので、下着を汚さないために配慮して拭いているだけ。



「ははは、んー、すまんすまん。それで?ヤりそうな雰囲気あるの?」


「まぁ............彼からはシたそうな空気は、感じる気がするわね」


「ま、無理にするようなもんでもないしな」


どうやら相手は健全な男らしい。普通の大学生の男女なら、何もおかしくはない。

ただ、織の声色からはあまり乗り気ではない雰囲気を感じる。



「そうだよ、付き合ったからってシなきゃいけないってわけじゃないじゃんね」


「そうだな。でもやっぱ愛情の確認にはなるんじゃね?」


「............私はしばらくはしたくないかな〜」


「俺とは付き合ってなくても寝るのに?」


織には悪いけど、相手の男性がちょっと可哀相になる発言に、織をからかってみる。



「し、しきは特別じゃん」




しきこと十六夜織いざよいしきが「しき」と呼ぶ相手は当然俺。


名前を望月識もちづきしきと言う。


ややこしいよな。

十六夜の方が、糸編の織。織物の織。

俺、望月の方が、言偏の識。知識の識だ。


どちらも「しき」と発音することから、周りのみんなからしたら呼び分けられないからか、共通の友達は少なくともどっちかのことを苗字で呼ぶ。

だけど、俺たちはお互いを区別する必要がないから、どちらも「識/織(しき)」と呼び合っている。


名前だけじゃなく、誕生日も同じ12月25日と、まったくの赤の他人にしては強烈な類似点を持っていたことも、俺たちの気が合った理由だったのかもしれない。




それにしても、特別。いい響きだな。

確かに俺にとっても、織は特別、スペシャルだ。


言いたいことはわかる。



「ふーん?まぁいいか。ちな、どこで出会った人?」


いつまでもセクハラじみた、いや、完全にセクハラな質問ばかりするのも良くないと思い、別の角度から尋ねてみる。


「この間の合コン。サークルの子に誘われて行ったとこで連絡先聞かれて、それからよ」


なるほど。

そういえばこの前、そんなの行ったって言ってたな。



「あぁ、あの別のスポーツサークルと合同でやったって言ってたやつな」


「そうそう、それそれ」






織が所属するスポーツサークルは、特別なイベントのタイミングを除いて、週に1回、市の体育館だったりグラウンドを借りて集まって、適当な運動をするサークルだ。

バスケやバレー、バドミントンが多いらしいけど、フットサルとか、ときには缶けりみたいな遊びをすることもあるマルチなサークルらしい。


運動強度はそこまで強くないものの、みんなある程度全力で楽しむ姿勢を持った仲良しサークルらしい。

サークルメンバーは比較的健全で真面目なやつが多くて、飲み会の頻度はそこまで高くなく、ヤリサーとかではないんだとか。


確か、この間聞いたときに、その合コンは俺達の大学の別のスポーツサークルのメンバーとセッティングされたものらしい。

この規模のサークルなら、複数のサークルを掛け持っていることは全く珍しくない。


そんな掛け持ちのメンバーが幹事を担当して、それぞれのサークルの男女同士をマッチングさせる合コンという場。


最近ではマッチングアプリや出会い系が進化してきていて、オンライン上で真剣な出会いを得ることも現実的になってきてはいるものの、個人的にはまだまだ知り合い経由で出会う安心感には勝らないと思う。

だって、多くの場合は、少なくとも幹事が合コンに連れてきてもいいと思ったやつだけが選抜されてくるわけだから、当たりの確率は相対的に上がるもんだ。


もちろん、漫画なんかでよくある数合わせもないわけではないけど、現実には意外と少ない。


俺自身、前に幹事をやったときも感じたことだけど、ちゃんとした合コンのセッティングにはそれなりに気を遣う。


自分1人が幹事になって全員を自分の知り合いで固めた合コンなら、失敗したら友達を失う可能性まである。

他の幹事と共同で集める場合では、自分側で呼ぶ友達にも相手側が呼ぶ人たちにも満足してもらいたいと真剣に考えてみると、その後の関係も視野に入れて慎重に人選することになる。


まぁ、割とどうでもいいヨッ友相手くらいなら、そこそこ適当にセッティングするだけだから、比較的マシだったけど。

ただ、そういう合コンは実りが少なくなりがちだから、わざわざ面倒を買って出てまで幹事をしようとは、あんまり思えない。


俺はどちらかといえば、いま・・みたいに、講義もバイトもない時間は部屋でヤることヤって、だらだら過ごしていたいタイプの人間だし。




「なんか爽やかそうで見た目も悪くない人だったんだけど、これまで彼女できたことないって言っててさ。なんか裏あるんじゃないかな〜ってちょっと不安もある」


そんなやつ大学にごまんといるわな。

そういうタイプは、だいたいシンプルにいい出会いがなかった童貞くんか、性格とか他の部分に群を抜いて悪いところがあるか、どっちかだっていうのが俺の偏見。


心当たりとしては......。



「そいつ学部は?」


「理学部数学科」


「あ〜」



まぁ、十中八九、これまで出会いのなかった普通の童貞くんだろうな。ただのド偏見だけど。

いやそれに、童貞だからといって悪いとかあるわけないし、逆に良いやつだって保証もなんもないけど。



「なんにしても、うまくいくと良いな〜」


「......そだねぇ〜。..................それでさぁ............」



何かを言いよどむ織。

言われなくても何を言いたいかはわかる。


こいつとの付き合いはたった3年弱だけど、初めて会った頃からなんかフィーリングも合うし、考えてることも何故か何となくわかる。

名前と誕生日が一緒だからとか?関係ないか。



「あぁ、わかってるわかってる、こうやって夜中遊びに来んの無理って話だろ?ちゃんとそいつを見極めて、良いやつなら逃がすなよ〜」


「..................うん..................」



言いたかったことは絶対間違ってないだろうに、しきには珍しく煮え切らない返事が返ってくる。



「どうかしたのか?」


「い、いやぁ、私がこの家に来なくなったら、しきが寂しがっちゃうかもなぁって思ってね......」



チラチラとこちらの様子を伺うような動きをする織。


あぁなんだ、俺の心配をしてくれてたのか。


気を遣ってくれるのはありがたいけど、その心配はない。



「いやいや、全然気にすんな。ちょうど俺の方もイイ感じになってきてるところだからな。そろそろ仕留めに行こうかと迷ってたところだったから、お互い様って感じだよ。織に言われなきゃ、そのうち俺から言ってたよ」


俺の方もちょっと前に合コンで合った女性と何度かデートを重ねていて、それなりに良い雰囲気になってきているところなんだ。



「次は来週末にデート予定なんだけどな。そこらで告白でもして、運が良ければ付き合い出すかも」


「そっ、そうなんだ。よ、よかったねぇ。いい人そうなの?」


「うーん、多分?キレイ系の見た目してるわりに、ふわふわしてるとことかはギャップで可愛いと思う」


「そっか。じゃあ、識の方こそ、ちゃんとその人のこと見極めて、いい人なら今度こそ逃さないようにしなくちゃね!」


「わかってるって」



そのあたりで適当にやりとりを切った。


行為の最中に織の腹の虫が鳴いてたから、きっと腹が減ってるんだろう。


暑いし、今晩は手抜きでそうめんにした。

しばらく会わなくなるだろうけど、まぁ最後の晩餐ってわけでもないし、別にいいよな。




それから俺たちはいつもと変わらず、黙々とそうめんを食べた。

俺も、下着姿でずるずるという音を奏でながらそうめんを啜る織をおかずに、主食そうめんを食った。







「............じゃあ私、そろそろ帰るね〜」



飯を食ってある程度ゆっくりした後、そう言って立ち上がり、玄関に向かう織。



「おー。そんじゃ、まぁまたそのうち飲みにでも行こうぜ」


「うん......そうだね。それじゃあ、何かあったら・・・・・・、また連絡するよ〜」



バタンッ。







織は今日のように、うちでだらけているのが日常だけど、俺たちは付き合ってるわけじゃない。


お互いに彼氏彼女がいない間だけ、織が俺の家に入り浸るだけの関係。

まぁ当然今となっては身体の関係はあるけど、恋愛関係はない。


だから今回のように、お互いにイイ相手が見つかりそうになったら、ちゃんとしっかりと距離を置いて、互いに配慮するようにしている。

以前にも、織は大学1年の8月末辺りから12月ごろまで入り浸ってたけど、俺に彼女ができて入り浸りを解消したことがあった。


織にはちょっと申し訳ないな〜とか思ってもいたけど、織は日頃から俺に彼女ができることを応援するようなことを言ってきていたし、織自身も次の月には新しい彼氏を作っていたので、それほど気にしていないんだと思う。



織は、大学で出会った気の置けない友達。

それがたまたま異性だっただけ。


悪く言えばセフレだけど、なにもヤりたいから一緒にいるってわけじゃない。

普通に遊びに行ったりするのも楽しいし、一緒の空間にいるだけでもわりと落ち着くから、俺たちの関係はあくまで健全(?)なオトモダチ。


え?それがセフレじゃないかって?細かいことはいいじゃないか。


何で付き合わないのか......。

その理由をお互いに口に出して話し合ったことはない。

というか、その話題だけは・・・意図的に避けている、ということが俺たち2人の暗黙の了解。


でも俺の気持ちとしては、付き合うと言葉にしてしまって、万が一にでもわかれることになったら。

二度と織と友達に戻れないような事態に陥ったら。


そう思うと、勇気が出なかった、というのが素直な気持ちだと思う。


情けないけど、過去のいくつもの失恋が俺を臆病にさせる部分はあるのかもしれない。

............織以外なら、普通に恋愛できるんだけどな......。




ともかく、俺たちは互いに彼氏彼女を作ることを否定しないし、そもそも付き合っていないと認識してるから、これからうちに入り浸らなくなるというのも、そこまで悲壮感の生まれる事実ではない。





とはいっても、今回は長かった・・・・・・・からな〜。

さすがにちょっと寂しさはあるかもな。


織が前の彼氏と別れてうちに入り浸りだしたのが、去年、大学2年の4月末頃で、今が3年の9月ってことは、1年半くらいほとんど毎日のように一緒にいたのか。


毎日のように、といっても、本当に毎日というわけじゃない。

泊まっていくことも週に1日くらいだけ。


ただ、俺が居酒屋のバイトにラストまで入ったりしたときも、仕事が終わった2時半ごろに「天ぷら行かね?」とか「カラオケ行かね?」とか連絡入れたら即レス&フッ軽で付き合ってくれるので、俺が車を出して普通に一緒に遊んで夜を明かすことも少なくなかった。



まぁ、そりゃちょっとした日常にもなるわな。


織は一人暮しの俺と違って実家ぐらしだから、でてくるとき若干気まずかったりしないんだろうか。

親御さんどう思ってるんだろうな。


そのあたりも、あまり詮索しないようにしてきたから、出会って3年半も経つのに、未だに詳細は知らない。

前にちょっと話題が出た時は、普通に放任主義のいい両親らしいことを言ってたから、何かを心配する必要はなさそうなんだけどさ。







ま、いつまでも寂しがっててもしょうがないし、俺もさっき話に出てきた彼女候補さんにデートプランを相談しようかな。


俺が所属する、といっても半分幽霊部員みたいなもんだけど、旅行サークルのメンバーにセッティングしてもらった合コンで出会った年上のお姉さんだ。

旅行サークルって言ったら、「それヤリサーだろ!」って偏見で突っ込まれることがあるけど、うちは違う。


野郎ばっかで色気はないけど、車やバイクをだして内輪ノリで気楽に旅行を楽しむ、旅行ガチ勢だ。


俺を含めてメンバーは現在7人だけだけど、全員四輪の普通免許と二輪を大型まで取得していて、うち2人は中型の限定解除をしているのでマイクロバスも動かせる。

だから移動周りで困ることなく、日本中を適当に旅している紳士の集いだ。


そんな紳士なサークルメンバーが集めた合コンだけあって、相手方のお嬢さんたちも、なんというかお嬢さんって感じの人たちが多かった。

俺たち側は3年と4年が入り混じっていたけど、相手方は全員4年のお姉様がた。


割と綺麗所が揃っていた印象を受けた。いや、俺が人様を評価するなんて失礼かもしれないけど。


その中でも、俺の好みに合ったクールな見た目をしているのにしゃべってみるとふわふわした感じのする女性にアタックをかけてみた。

そのときにそれなりに脈がありそうだったので、今なお絶賛攻略中というわけだ。



年上と付き合うのは高校2年のとき以来だ。

当時の彼女は1つ上の部活の先輩で、彼女が大学に進学して2ヶ月弱で、大学の先輩に寝取られた苦い思い出がある。


いわく、年下の俺と比べて、大学生の年上の男の人が大人で魅力的に見えたということらしい。

振られた時はかなり憂鬱になったけど、その2ヶ月後には慰めてくれた部活の同期と付き合い出したおかげで、そこまで引きずることはなく済んだ。


とはいえ、今回も同じ轍を踏むわけにはいかない。

年下であることをデメリットに感じさせないよう振る舞うため、少しだけシミュレーションを済ませてから、デートのプランを相談するメッセージを送る。


送ってすぐに既読がついて、それからまたすぐに「素敵ね!」と返信が返ってくる。

俺はとりあえず一安心して、携帯端末を放り投げてベッドに横になった。




わずかにしきの香りがして、柄にもなく「織は新しい男とどんなデートするんだろうな」なんて考えが頭を過ぎった。

すぐに睡魔に負けてそのまま眠りに落ちた。

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