第7話 報われた恋
数日後。
(電話かけてみようかな)
まいは春人から連絡が来ないことに痺れを切らしていた。
プルルルルル。
(出ないかぁ)
(とにかく話さないと)
まいは春人の家に行ってみる事にする。
ピンポーン
(いないか)
まいが諦めて帰ろうとした時。
「まいちゃん?」
春人が出てきたのだ。
「ちょっと話したい」
「俺もちょうど思ってたとこ」
「上がっていい?」
「うん」
2人は家で話すことにした。
「何から話せばいいかな」
まいは少し考えて話し始めた。
「私さ、振り返ってみると自分勝手だった」
「そんなことないよ」
「春人の優しさにあぐらかいてたんだと思う」
「うん」
「実はライブ行った日偶然街で幼馴染と会ったんだ」
「うん」
「少し話をしたんだけど、昔から好きだったって告白された」
「えっ」
「正直言うと、私も初恋だったの」
「それは初めて聞いた」
少し動揺する春人。
「今は春人と付き合ってるって言ったけど、待ってるからって言われて」
「まいちゃんはどう思ったの」
まいは言葉を選ぶ。
「‥‥少し時間がほしい」
「うん、俺も今のまいちゃんとは続けれる自信ないよ」
「ごめん」
「実はライブの帰りまいちゃんとその人がいるの見かけたんだ」
「知ってたの?」
「言ってくれると思ってたんだけど、言わなかったからすごくショックだった」
「ごめん」
「だからこの前公園で見た時終わったって思った」
「そうだよね」
まいは申し訳なさそうに顔を下に向ける。
「まいちゃんのそんな顔見たくないから今日は帰って」
「わかった」
まいはそう言うと黙って家を出る。
外は暗くなっていた。
まいは帰ると疲れたのかすぐ眠りにつく。
翌朝珍しく寝坊をしてしまう。
「あんたが朝寝坊なんて珍しいわね」
母が朝食を用意しながら言った。
「考え事が多くてキャパオーバーだよ」
「あんたも色々あるのね、そういえば健君しばらくこっちにいるみたいね」
「そうみたい」
「そうみたいって会ってないの?」
「帰ってきた日に会った」
「こっちで就職する予定らしいわよ」
「知ってる」
「ついこの前まで子供だったのに時間が経つのは早いわね」
「そうだね」
「失ったものは戻ってこないからね」
「なに言ってんの?」
「後悔しないようにしなさいね」
母には全部お見通しのようだった。
「わかってるよ」
まいは呟いた。
春人と会えない日々が過ぎて行った。
健とは何度か会ったが、お互い話せずにいた。
(随分遅くなっちゃったなぁ)
大学から帰るのが遅くなったまい。
マンションに帰ると健が外で待っていた。
「ちょっといい?」
「少しだけなら」
「俺、明日戻るから」
「そう」
「この前はごめん、まいの気持ち無視して」
「私も反省してる」
「まいは悪くないよ」
「悪いよ、私、春人がいるのに健とキスした」
「それは俺が勝手に」
「ドキドキするの」
「えっ」
「健といるとドキドキするの」
「それは俺も同じだよ」
「でも当たり前だよね、ずっと好きだったんだもん」
「俺のとこに来てくれるってこと?」
「春人の側にいたい、悲しませたくないって思う」
「まいは優しいからな」
「優しさじゃないよ、愛だよ」
「えっ」
「ドキドキするだけが全てじゃないんだって今なら思える」
「俺には分からないよ」
「だから健とは付き合えない」
「本当にそれでいいの?」
「私が一緒にいたいのは春人だよ」
「わかった、でも忘れないでほしい、俺はずっと想ってるから」
「嬉しいけど、もう放っておいて」
「そんなすぐに割り切れないよ」
「健も私も初恋に縛られてるだけだよ、いい加減自由になろうよ」
「そんな事言うなよ」
「これ以上話す事ないから、明日気をつけて帰ってね」
「待ってくれよ」
「次会う時はただの友達だよ」
そう言ってまいは駅の方に走った。
外はどしゃ降りになっていた。
ピンポーン。
春人が出てくる。
「どうしたの?びしょ濡れじゃん」
「会いたかった」
春人を強く抱きしめた。
「まいちゃん?とりあえず入ろ」
春人は状況が読めなかった。
まいの手を引き部屋に入る。
「とりあえず、風邪ひいたら大変だからシャワーしておいで」
「うん」
シャワーを終え春人の服を借りるまい。
「なんかあった?」
「けじめつけてきたよ」
「なんの事?」
「幼馴染にきっぱり付き合えないって断ってきた」
「そうなんだ」
春人は浮かない顔をしている。
「嬉しくないの?」
「嬉しいけど、まいちゃん優しいから、もしかして俺の事悲しませないようにって」
「それは違う」
「あの人背も高いし、かっこよかったし、優しそうで、まいちゃんの事よく知ってて、俺なんかが勝てるとこ一つもないのに」
「比べる必要なんかないよ、比べられないくらい春人が好きだよ」
「まいちゃん」
まいを真っ直ぐ見る春人。
「もう傷つけたりしないから」
「まいちゃんにもう会えないと思ってた」
「春人の事失いたくないから」
「ありがとう」
春人はまいを抱き寄せる。
「大好き」
春人にキスをするまい。
「もう終電過ぎてるよ」
春人は思い出したように言う。
「泊まったらダメかな」
「いいに決まってるじゃん」
嬉しそうな春人。
「ここに泊まるの初めてだね」
「そうだね」
「ベットいこ?」
まいがそう言うと2人は布団に入る。
「俺今すっごい幸せ」
「私もだよ」
「触ってみて」
春人はまいの手を自分の胸に当てた。
「鼓動が早いね」
「今めっちゃ興奮してる」
春人が少し恥ずかしそうに言う。
「私も触ってみて」
まいも春人の手を握り自分の胸に当てた。
「‥‥すごい早い」
春人は照れながら言う。
「キスして」
まいは顔を近づけて言った。
「俺も一応男だよ?」
「わかってるよ」
「心臓が飛び出そう」
春人はそう言いながらキスをした。
「んっ」
まいの声が漏れてくる。
「まいちゃん、いいの?」
「私も心臓飛び出そう」
春人は照れながらもまいのシャツのボタンを一つずつ外していく。
「なんか夢みたい」
ボタンを全部外し終わるも直視できずにいる春人。
それを見たまいは春人にくっついて言う。
「こっち見て」
「ほんとにいいの?」
「くっついてたら見えないから大丈夫」
まいは春人を見上げる。
「その顔はずるいよ」
そう言うと激しいキスをした。
その夜二人は初めて結ばれ、そのまま朝まで眠った。
「んー」
伸びをしながら春人は起きる。
横ではまいがまだ寝ている。
「可愛い‥‥」
春人は一層まいが愛おしくなった。
しばらくしてまいも目を覚ます。
「おはよ」
「よく寝れた?」
「うん」
まいは昨夜の事を思い出して照れていた。
「実はまいちゃんに話があって」
「なに?」
「一緒に暮らさない?」
「急にどうしたの?」
「ずっと考えてたんだけど、最近色々あって一緒にいたい気持ちが強くなった」
「それは私もだけど」
「それと、来年デビューが決まった」
「えっ本当?すごいじゃん!おめでとう!」
「ずっと忙しかったのはそのせいだったんだ」
「そうとも知らず私は」
「本当はサプライズで言おうと思ってたけどね、言うタイミング逃しちゃったから」
「ほんとごめん!」
「いいんだけど、これからまいちゃんの家行っておばさんに話してもいい?」
「もちろん!」
2人は準備しまいの家へと向かう。
マンションの前まで来ると、健が帰るところに偶然出くわす。
「泊まったんだ」
健が辛そうに言う。
「これから帰るの?」
「うん」
「気をつけてね」
「うん」
健は春人に近づいて言った。
「泣かせたらまいもらうからな」
「分かってますよ」
春人は冷たく言った。
「早く行こ」
まいは春人の手を引っ張って行く。
「何泣いてんだろ」
健は歩いてる途中涙が止まらなかった。
「おじゃまします」
「あらいらっしゃい、久しぶりね!」
「ご無沙汰してます」
「今日はどうしたの?」
「実は相談があって」
春人が真剣な顔で言う。
まいと暮らしたい事、高校卒業したらデビューが決まってる事を話す。
全部黙って聞いていた母。
「そう、まいももう子供じゃないし私が決める事でもないわ」
「いいって事?」
まいが聞く。
「まいと結婚したいの?」
「すぐではないですけど、もちろん考えています」
「そうなの?」
まいは驚いている。
「結婚するならまいちゃん以外考えられないからね!」
春人は笑って答えた。
「春人君、いい子だし、イケメンだし、まいでいいの?」
「何言ってんのお母さん?」
「まいちゃんじゃなきゃダメなんです!俺の初恋ですから!」
まいは初耳だった。
「それ初めて聞いた」
「なんか俺だけ初恋実らせちゃった感じ?」
「ふーん、一悶着あってここに落ち着いたか」
母が話に入ってくる。
「それはそうと、ご両親には言ったの?」
「うち両親いないんです、小さい頃に亡くなって」
「まぁ、そうだったの」
まいは付き合い始めた頃に聞いていた。
「今の家は叔父が借りてくれてるんです、でも高校卒業したら引っ越そうと思って」
「そのタイミングで同棲したいって事ね」
「はい」
「この子家事だけは得意だからよかったわね春人君!」
母は少し嬉しそうに言った。
「ありがとうございます!」
「ありがとうお母さん」
数ヶ月後無事引越しも終わる。
まだ物も少ない部屋で2人はまいの手料理を食べている。
「今日から新しい生活が始まるね」
嬉しそうな春人。
「そうだね!」
まいも嬉しそうに笑った。
初恋とは_let go @cakucaku
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