僕の名前は…

ひよこ(6歳)

第一話、僕は主人公になれない

『真実はときに残酷なものである。』

特別な人間は、どんな状況においても特別で、平凡は人間は、どんなに努力をしても平凡なのである。

今日、見てきた映画の感想だ。


「今日の映画は、星三つぐらいだな。」

映画館のスクリーンから出た後に僕は声で小さく呟いた。

周りにも聞こえそうな声量ではあるが、使い古したトートバッグについた鈴の音が全てをかき消してくれた。

その後、映画館入り口に戻り、映画館で購入したポップコーンやジュースを置く専用だろう円卓の上に、使い古したトートバッグを置く。

そのバッグの中を漁り、中から1冊のノートを一つ取り出した。

取り出されたノートは、今まで映画の感想が書き連ねた所謂『感想ノート』である。

乱雑に入れられたノートは様々な方向に折曲り、外装はボロボロだった。

ただ、なんとなくではあるが、自分はこの外装を凄く気に入っている。

今まで自分がどこで、どんな経験をし、何を得てきたか、それが一つにまとめられている。

まるで、自分が冒険してきた世界の『旅行記』みたいなものだろう。

その大事な『旅行記』に僕は新たな1ページを刻んでいた。


今日見た映画は、よくある入れ替わりのだった。

男女がある時突然入れ替わり、お互いの素性の少しずつ知っていく。

入れ替わりものによくあるトラブル等を解決しながら、そ互い惹かれ合い、お互いに恋をする。

そんなありふれたストーリーだ。

映画のストーリーとしても凄くありふれたものだったが、音の重なりや、映像美によって、2倍、3倍と面白いストーリーに魅せてくれる。

そんな映画だった。


一通り、感想を書き終わりふと周りを見渡して見ると、皆スマホの画面をじっと見つめている。

恐らく、これから見る映画の期待感や、見終わった映画の感想等をSNS書き綴っているのだろう。


僕はスマホを外出の際、一切持ち歩かない。

僕にとって、スマホは、現実を思い出してしまうツールなのだ。

スマホを持てば、仕事に対する進捗の確認の連絡や、取引先との連絡で通知が鳴る。その度に現実に引き戻される。

SNSというものもやってはみた。

ただ、結果はフォロワーは全く増えず、自分が以下に『凡人』であるかを痛感させられただけだった。

その経験から一切私は、スマホを携帯することを辞めたのだ。

今も僕のスマホは家で、誰も見ることの無い通知音を虚しく鳴らしていることだろう。

そう考えながら、僕はスマホの画面をずっと見つめている人達を一瞥して、映画館を後にした。


電車に揺られ30分。僕の最寄り駅に到着をした。

僕の実家はかなり田舎で、電車で30分も揺られなくては、映画館の一つも無い。

本当に、何も無い町なのだ。

駅の正面には街灯はいくつか点滅はしているが、駅から離れれば離れるほど、だんだんと街灯は少なくなっていき、しまいには真っ暗になっていく。

それはまるで、一生帰ることの出来ない、闇の世界への入り口の様だ。

最初はたしかに怖かったが、今となってあすでに慣れている。

闇の世界の住人化の様に、闇の世界へ軽快な歩調で僕は歩きだした。


最寄り駅から家路を行く間、僕は闇の世界を、僕なりの楽しみ方で楽しんでいた。

段々と少なくなっていく街頭の下に照らされている景色の中で、もし自分が映画の監督だったら、向こうの世界にどの様なものを見せるか。

そんな妄想に耽りながら、一人家に向かう。


そして、妄想も終盤に入り、街灯も一切無い、交差点に差し掛かった時である。

僕の左側に強い衝撃を感じ、そのまま右側に倒れてしまった。

そして、頭に強い衝撃を感じた後、僕の意識は途絶えた。


「すみません、大丈夫ですか?」

鈴を震わせたような声に応じるかの様に、僕は顔を超えのする方向へ上げた。

かすかに、右側頭部に痛みは感じているが、特に出血などは感じられない。

一安心だと思っていた矢先、目の前に、再度頭を殴られたようなショックが全身を貫た。


これまで見たこともない光景が眼前に展開され、息を呑んだままその光景を見ているとなる。

目の前に僕がいたのだ。

何度見返しても、僕だったのだ。

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