俺の思い出、僕の中の君
枕返し
第1話 あの日の景色
変わっていないな、ここは。
18年過ごした故郷を歩きながらそんなことを思う。
久しぶりの帰省。久しぶりに会う家族。
人は年老いて、景色は古ぼけていることを理解できるのに、それでもここは変わっていないと感じてしまう。
それは俺の思い出の中の風景がボヤけてきているからなのだろうかと思う。
もうここは俺にとって、思い出の中の場所に、なっているんだろうか。
「意外と、・・・キツイなぁっ。」
周りには誰もいない中、誰に聞かせるでもなく小さく呟きながら長い階段を上る。
自分はこの場所に馴染まなくなっている。
それは悲しいことだけど、むしろそうなんだと思いたい。
そうでないと俺はいつまでも昔に縛られ続けることになってしまう。
そう実感しながらも昔を懐かしく思い、こうして思い出の場所に向かっているというのは我ながらどういう心情なんだろう。
・・・きっと、今の場所が居場所になっていないんだろうな。
息を切らしながら、怠くなった足で長い階段を上り切った。
「昔は・・・普通に・・こんなじゃ・・・。・・・ふーーー。」
息を整えながら視線を上げる。
「うっ・・・、あぁはぁ。」
少し眩暈に襲われ、その場にしゃがみ込んでしまった。
ほんの数秒、目をつぶり蹲り回復を待つ。
運動不足だろうな、情けない。
平衡感覚が戻るのを待ってゆっくり立ち上がる。
そこは小高い山の中腹にある神社。
木に囲まれていて昼間でも薄暗い寂れた神社。
家の近所にあるからよく遊びに来ていたが、今の子供はこんなところで遊ぶことはないだろう。
当時も自分たち以外の人を見たことがないので、もしかしたらもうずっと誰も来ていないのかもしれない。
そもそも初詣に来たこともないので、住民にとってどういう扱いなのかがよくわからない神社だ。
周囲全体が体感温度が下がるほど深い木々に覆われ物静かな境内を進んでいく。
境内と言っても特に整備されているわけではなく、ボコボコになった石畳がある程度。
景色があの頃と全く変わっていない。
それは、俺の見え方も。
俺も成長して背が伸びたのに、そんなものはこの木々からしたらちっぽけなものなんだろう。
まるでタイムスリップでもしてあの頃に帰ったようだ。
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