第50話 その陰キャ、肝試しに参加する
レクリエーション大会が終わり、合宿施設での夕食前。
食堂へ向かう途中、夢乃たち陽キャギャル三人組はある事についての会話をしていた。
「も~、そんな怒らないでよましろん。ごめんってぇ~」
全く悪びれる様子無く、亜亥は真白に謝罪する。
「別に、怒ってないし」
「怒ってるじゃ~ん」
明らかに不機嫌そうな真白に、嘆くように亜亥は言う。
真白が不機嫌な理由。それは
亜亥が野球の試合を観たいとのことで、真白はそれに無理やり付き合わされたのだ。
「はぁ〜あ、これはどうやら
「そーみたいだねぇアイ」
そこで、空気が変わる。
一瞬、真白は何やら不穏な空気を感じ取るが、もう遅い。
「ねぇねぇましろ」
りりあが真白の肩に手を添えた。
「何?」
依然不機嫌そうな顔で、真白はりりあを見つめる。
そんな彼女に臆する所かニッコリと笑い、りりあは言った。
「迅たんのこと、好きっしょ?」
「っ!?」
唐突に発せられた彼女の言葉に、真白はバッと動き、彼女から距離を取った。
「あはは、図星だなー?」
「私たちの目は誤魔化せないよ〜?」
その反応を見たりりあと亜亥はニヤニヤとやらしい笑みで、再び真白との距離と詰める。
「な、なななななな何言ってんの二人とも! う、ウチは別にそんなんじゃ……!」
「うぇ〜、じゃあ何で今不機嫌なの〜? 迅たんが出てるゲーム観たかったからじゃないの〜?」
「そ、それは……その……」
亜亥に図星を突かれ、真白は口をすぼませる。それが何よりの証拠となった。
「やっぱりー。思った通りだぜい」
ケラケラと笑い、後方へ回りながら、りりあは真白に抱きついた。
「よっしそれじゃあちとトイレへゴー」
「ゴ〜ゴ〜!」
「ちょ、ちょっと二人共……!? いやぁぁぁぁ!」
真白の叫び虚しく、彼女は連行された。
◇
合宿施設の女子トイレ。
今そこにいるのは亜亥、りりあ、真白の三人だけ。
つまり、密談に最適というわけだ。
「ふっふ〜、怪しいと思ってたんだよねぇ。一ヶ月くらい前からましろんの迅たんに対する態度が明らかにおかしかったからさぁ。
「うっ……」
亜亥の言葉が、グサリと真白の胸を刺す。
「そーそー、今日の合宿でも露骨に迅たんに
「さぁさぁ〜、もう証拠は上がってるんだよ! 観念するんだよましろん!」
ビシッと真白に指を差すりりあと亜亥。
「……」
やがて、彼女は「はぁ」と、観念するように息を吐いた。
「そうよ。ウチは唯ヶ原が好き」
正直に自身の思いを口にする真白。
そこには、一抹の不安があった。
好きな人がいる、恋をしている。それが周囲にどう思われるのか、特に……友人にどう思われるのか分からなかったからだ。
が、直後。
そんなものは杞憂だと、真白は思い知らされる。
「おめでと! ましろん」
「へ……?」
唐突に祝福の言葉を亜亥から投げ掛けられ、真白は目は点になる。
「そだね。おめでとー案件だ」
りりあも、同じようなことを口にする。
「ん、どしたん?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする真白に、亜亥は不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんか……そんな風に言われるとか、全然思ってなかったから」
率直に、脳から生み出された言葉をそのまま出す真白。
そんな彼女に、亜亥たちは言った。
「だってましろんが私たち以外に大事に想う人ができたってことでしょ? ちょーメデタイじゃん!」
「マジそれ! 娘の
「あはは何それ〜、リリ受ける〜!」
「……」
あぁ……。
不安の先にあった安堵。
そこには、幸福感が詰まっていた。
真白は思う。
この二人が友達で、良かった。
「ま、でも唯ヶ原の試合観れなかったのはまだ
プイッと、そっぽを向く真白。
「はいはーい! ましろさん! 『ましろんの気持ちがホントかどうか確かめるためにカマ掛けよ〜』とか言って迅たんの試合観せないように仕向けたのはコイツです!」
「ちょおぉ!? 何言ってんのリリ! リリだって
非常に素早い判断で友を売るりりあに、亜亥は堪らず声を上げる。
「なるほど、二人共悪いってことね」
「「うっ……」」
「東京戻ったら欲しい
「……買わせていただきます」
しゅんとした様子で、亜亥とりりあは言った。
「よろしい。んじゃ、さっさと戻ろう。夜ご飯の時間始まっちゃう」
そう言ってトイレから出ようとする真白だが、
「ちょっと待ったぁましろん!」
「行くのはまだ早いぜい」
一秒前の消沈ぶりは何処へやら。
「何? まだなんかあるの?」
振り返る真白。
そんな彼女を見て、二人は得意げや顔をする。
「ふっふっふ! とゆ〜わけで!」
「あーしらがましろと迅たんをラブな
ドヤ顔でよく分からない
「キューピットって、アンタら……」
真白は明らかに期待していない様子だった。
「侮ってもらっちゃ困るよましろん!」
「そのとーり! 既に作戦は考えてるんだなぁコレが!」
ふふんと鼻を鳴らす二人。
「たいじょぶかなぁ……?」
そんな彼女たちに対し、真白はただたた心配そうな表情を作るのであった。
◇
夕食を食べ終わった。
特に語ることは無いが、強いて言うならば、僕と隼太を見てくる奴らがいたことだろうか。
まぁ何はともあれ、夕食の時間は平和だったと言っていいだろう。
そうして次のイベントのため、僕は外へ出た。
「それじゃあここからは夜の一大イベント! 『肝試し』だぁぁぁ!!」
高い
『FOOOOOO!』
どうやら他の奴らも、旅行の空気というのに当てられているようで、随分と
「ルールは簡単! 三つのチェックポイントを通過し、ここに戻ってくるだけだぁ!」
本当に簡単だな。
「ルートは立ててある看板の書かれてる矢印に従え! 地図も渡しとくから迷うことは無いはずだぁ!」
何か喋り方面白いなコイツ。
「さぁそれではお待ちかねぇ! 先ずはペア決めだぁ!! 班内でくじを引きぃ、二人一組のペアを作れぇい!! ちな、班の人数が奇数の場合は三人ペアでも可だぁ!!」
班内か。
まぁそれなら安心だな。くじ引きの範囲をクラスとか生徒全員とかにすると組みたく無い奴同士で組む可能性が高い。
その点、この班内でくじ引きするならそこら辺の問題は無くなる。
僕はほっと胸を撫で下ろした。
明らかに僕を目の敵にしている羽柴やその仲間とペアになったらどうしたものかと思っていたからだ。
そうして各班でくじ引きを行った結果、僕のペアは……。
「よ、よろしく……」
夢乃だった。
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