第45話 その陰キャ、山を登る
「だ、大丈夫だ!! 近くに不良がいたとしても、関わらなきゃいい話だ! それにそもそも、今回の合宿で接触する心配なんて無いだろ!!」
堪らず、僕はそう叫ぶ。
「ど、どうですかね……」
が、坂町は異を唱えるように、目を背けた。
「な、何だよ……?」
「だ、だって唯ヶ原君。入学してから二件も不良絡みの騒動に関わってるじゃないですか。だから……」
「それはどっちもちゃんとした理由があっただろ! こ、今回は不良と関わる理由も義理も無い、大丈夫だよ……」
言葉尻が弱弱しくなっているのが、自分でも分かる。
「だといいんですけど……」
「と、とりあえずお前の言いたいことは分かった。一応頭には入れとく。忠告ありがとな」
「は、はい」
そうして、僕と坂町の密談は終了した。
◇
「……」
迅と別れた後も、坂町の思いは晴れぬままだった。
やっぱり、何処か変だ。
去年まで利用してた合宿施設が使えなったこと。
その代わりの施設がある山の峠で不良がダウンヒルバトルをしていること。
あまりにも偶然が過ぎるような……そんな気がする。
この前の一件だってそうだ。
【
いくら唯ヶ原君が元【羅天煌】の総長だとしても、今は正体を隠して生活しているし、立て続けにこんなことが起きるなんて……。
そうして思考を続ける中で、坂町はある疑念を抱く。
これじゃあまるで、
誰かが、
◇
オリエンテーション合宿一日目、『山登り』。
それぞれのグループごとに、合宿施設のある山頂を目指し山を登る。
宿泊用の荷物は先にバスで施設の方に運ぶため、僕たちは手ぶらで登ればいいのかと言えば、そうではない。
水分補給のための水は勿論、昼の
一応それぞれの負担を考え、材料の入ったバックはグループのメンバーで交代交代持つことになってはいるが、多分最終的に体力や力のある奴が持ち続ける
こうして、それぞれのグループの山登りが始まった。
――『山登り』開始から十分経過
「うぇ~ダル~い」
「萎える~。タクシー無いのー?」
「はぁぁ……。マジサイアク。何でこんなことしなきゃいけないの……?」
黛たち陽キャギャル三人組は口々にそう漏らしながら、山道を歩く。
「ねぇ誠くん疲れたー。おんぶしてぇ」
「バカ言ってんじゃねぇよエミ。まだ歩き始めて十分くらいしか経ってねぇだろうが。しかも俺今リュック
「ぶー、ケチ」
並んで歩く咢宮に、沢渡は頬を膨らませる。
僕たちのグループは早々に材料の入ったリュックを咢宮が背負うことになった。
最初は前の持久走で羽柴に勝ったからという理由で僕と咢宮が交代で背負うという案があったのだが、咢宮本人から
「可笑しいで、ござるよぉ……この、
そして隼太は、ゼェゼェと息を切らしながら、この山登りに苦言を呈していた。
「バス酔いの後にぃ、この肉体労働……!! 教師たちは拙者を殺す気でござるかぁ……!?」
「ま、まぁまぁ。落ち着け隼太。下手に荒ぶると余計疲れるぞ」
「む……ぐうの音も出ない正論でござるな……。けどこれは文句も言いたくなるでござる……明らかに時代錯誤でござるよ! 迅殿だって辛いでござろう?」
「え!? あ、あぁ。勿論! 死ぬほど辛いぞ!」
嘘である。
実のところを言えば、全く以て辛くない。
さらに言えば、何故これで辛くなるのか、理解ができない。
疲れた演技継続中の僕は、はははと乾いた笑いを浮かべる。
「そうでござるよなぁ……やはりこういった行事は陰の者には厳しいでござるよぉ……」
大きく溜息を吐き、俯きながら、隼太は歩く。
「オタクかどうかなんてカンケーないっしょ隼たん。こんなもん誰だって死にたくなるってのー」
そこに口を挟んだのは来栖だった。
「そーそー。私らだって運動部じゃないし、似たようなモンだってぇ。だーかーらー……」
チラリと、亜亥の視線がこちらへ向く。
「迅たん肩かして〜」
「え?」
そして僕の左肩に体を預けてくる。
「ちょ、ちょっと黛さん。いきなり何ですか?」
「え〜、だって疲れたんだもん。それに迅たんなんか余裕そうじゃ〜ん」
……コイツ、やっぱり鋭いな。
一瞬そう思ったが、黛の直感が鋭いのは分かっていた事実のため、動揺することなく対応する。
「僕だって疲れてますよ。黛さんに肩貸す余力なんて残って無いですって。隼太……は無理だから咢宮くんに頼んでくださいよ」
と、僕がそう言った瞬間、沢渡から視線……否、死線が飛んできた。
「は? アンタ何バカなこと言ってんの? 誠くんに私以外の女が体預けたら殺すから」
すいませんでした。
有無を言わさぬ沢渡の物言いに、僕は思わず内心で謝った。
「おーおー、一人だけサポーターとはズルいぞぉアイ。あーしにも迅たんを使わせろい」
「来栖さん、背中に体重かけないで下さい」
「いいじゃーん。一人も二人も変わんないっしょ? ほれほれ頑張れ
悪ノリするように笑う来栖。陽キャギャル二人の猛攻に、僕はどうしたものかと思案を巡らせる。
「二人ともいい加減にして。唯ヶ原が嫌がってんじゃん」
と、そこで介入してきたのは夢乃。
彼女は至極不機嫌そうに、黛たちを見る。
「ゆ、夢乃さん……」
意外にも助け舟を出してくれた彼女に、僕は感激する。
「うぇ〜。じゃあましろんも迅たんに体預けてみなよ〜。なんかすっごい安心感あるの〜」
「分かるわー。迅たんトコすっげぇ安心する。ここにいればとりあえずダイジョブ、的な?」
が、黛たちは口々にそんな言葉を漏らす。
全くもってめげる様子が見えない。
「ましろんも来てみなよ〜。くっ付けば分かるってぇ」
それどころか、黛は手招きして誘う。
ま、あんなことを言った手前、夢乃が来るワケがない。
……そう思ったのたが、
「へー、んじゃちょっと試しに」
「え?」
あっさりと手のひらを返し彼女に、僕の目は点になる。
「どうどう?」
「んー、
「でしょ〜?」
「あ、あのー。夢乃さん?」
空いていた僕の右肩に体重を乗せる夢乃に、恐る恐る問い掛けた。
「なに?」
「い、いやぁあの……さっき僕が嫌がってるとか言ってたのは……」
「忘れた」
なるほど、忘れたならしょうがないね!
僕は心で涙を流した。
「てかくっつき過ぎて暑いんだけど。二人共離れて」
「え~、ましろんごうま~ん」
「迅たんはあーしら全員のきょーゆう財産っしょー」
そう言って、陽キャギャル三人の密着はより強くなる。
暑いし、動きづらいし最悪だ。
「迅殿ぉ……羨まし、ではなくけしからんでござるぅ……」
そんな僕に、隼太の方から妬みと疲労が入り混じった声が飛んできた。
「にしてもよぉ。何か重くねぇかこれ?」
そうして僕たちが騒ぐ中、野外炊飯で使う材料が入ったリュックを背負う咢宮が、口を開く。
「グループの人数分の材料入ってるからじゃない?」
至極真っ当な意見を、沢渡が述べる。
「あー、じゃあこんなモンなのか」
納得する咢宮、そこでリュックに入っている材料の話題は終わった。
だが、僕たちはすぐに思い知ることになる。
リュックの重さ、その正体に。
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