第43話 その陰キャ、次なる修羅場に突入する
「詩織、聞いてよ!」
「アイツらがさぁ!」
須藤と中条は現れた坂町に事情を説明する。
「なるほどね」
一通り話を聞いた坂町は腕を組む。
「事情は分かったよ。けど、やり過ぎ。それにここで責め立てたって何にも変わらないし、意味ないよ」
「「う……」」
そして坂町の正論に、バツが悪そうな声を上げる。
「亮介と蓮もだよ。折角の楽しい合宿なんだから、変なトラブルは起こしちゃダメ」
次いで、坂町は西田と東野を見る。
「……はぁ。ま、そうだな……」
「確かに、この目立ち方は本意じゃない」
そう言って引き下がる二人。そして、
「分かった? 優斗」
気付けば一切の口出しをしていなかった羽柴に、坂町は注意するように告げた。
「……」
無言で坂町を見る羽柴。
数秒後、何故か奴は微笑んだ。
「分かったよ。だからそんなに怒るな詩織。可愛い顔が台無しだぞ?」
「はいはい、ありがと」
そんな羽柴を軽くあしらい、坂町は僕らを見る。
「ごめんね誠二、皆も。私が良く言い聞かせておくから……」
心底申し訳なさそうな表情で、手を合わせる坂町。
「……興醒めだぜ」
「あはは〜。気にしてないからだいじょぶだよぉ」
「りょ! だこらシオリンもそんな顔すんなって。ビジンが台無しだよん」
「全く納得いかないんだけど……まぁ、いいわ」
先ほどの会話に参加していたこちらのグループの面々は、口々にそう言った。
「さ、流石だぜ詩織ちゃん……! スクールカーストのトップだけはある……!!」
「学園のアイドルは伊達じゃねぇ……!
事態の成り行きを見守っていた周囲の者たちは、坂町を称賛する。
す、すごいなコイツ……。
そして、それは僕も同様だった。
あれだけ険悪だった陽キャたちを
しかもそれだけでは無い。どちらにもそこまでの不快感を与えずに、それを成し遂げた。
改めて、僕は坂町の表の部分の凄さを実感する。
いつもは不良の写真を見てハァハァ言ってるだけかと思っていたが、まさか学園生活でこうも頼りになるとは……。
すると、そんな僕の視線に気付いたのか、坂町は周囲に
感謝のLINE、送っとくか。
◇
ひと悶着を乗り越え、僕らは各々のバスに乗る。
「うっ……」
バスに揺られ、隼太は目を瞑りながらも呻いていた。酔い止めを飲んだようだが、それでもキツイものがあるようだ。
まぁ、僕にはどうすることもできない。
隼太の無事を祈って、僕はくくるちゃんのアーカイブを観るとするか。
そうして僕がスマホでYouTubeを開こうとした時、
「ほら、唯ヶ原」
「ん?」
隣に座る夢乃が、僕に菓子を渡してきた。
「これ、ウチのおすすめ」
「……ありがとうございます」
その菓子を受け取ろうと手を伸ばす。すると、
「ちがう」
「え?」
菓子を引っ込めながら言う夢乃。彼女の行動の意図が分からず、僕はキョトンとした。
「えと、それはどういう……」
「口開けて」
「は?」
「口、開けて」
有無を言わさぬ彼女の物言いに、若干の困惑と疑念を抱きつつも、僕は口を開ける。
「あーん」
「むぐ……」
そうして、夢乃は僕の口へと菓子を突っ込んだ。
「どう、美味いでしょ」
「は、はい……」
菓子を咀嚼しながら答える僕に、彼女は満足そうに微笑んだ。
「おい、何で唯ヶ原の奴なんで夢乃さんと仲良さそうなんだよ……?」
「夢乃さんって亜亥ちゃんたち以外とつるまない人だったよな? それがなんで……」
「あーんとか、何て羨ましいことされてんだアイツ……!!」
同じバスに乗る、クラスメイトたちの視線が突き刺さる。
マズいな……夢乃と向き合うと決めたは良いが、これじゃあクラスの奴らからますます反感を買ってしまう……。
くっ、こういう時酔って体調不良になってる隼太が羨ましい。アレなら話し掛けられることも……。
「あはは〜隼たんのほっぺプニプニ〜」
「いやぁ、こりゃ
「うぅ……」
「おい、柿崎の野郎……どーなってんだ?」
「あ、ああああ亜亥ちゃんがあんなオタク野郎にぃ……!?」
「殺意、殺意ぃぃぃ!!」
……。
酔っていてもなお、容赦なく絡まれ、その上クラスメートから殺意の籠った目を向けられる隼太。
僕は即座に隼太が羨ましいなどという
ピロン
……ん?
その時、僕のスマホにLINEの着信が入る。
画面に目をやると、相手は坂町からだった。
さっきの返信か?
バスに乗る直前、坂町に感謝のLINEを送ったことを思い出した僕は、彼女とのトーク画面を開いた。
『いえいえ! お安い御用です!』
やはりさっきの礼に対する返信だ。
だがそれを確認した矢先、
「ねぇ、それ坂町から?」
「っ!?」
僕のスマホの画面を覗き込んだ夢乃が、
「何? 唯ヶ原って坂町と連絡先交換するような仲だったの?」
「い、いやぁ……その……」
不機嫌そうな表情の夢乃。
ま、マズい。何か言い訳を考えないと……って待て。何でそんなこと考えなきゃいけない? 別に何もやましいことはしてないんだ。正直に、肝心な所は
「入学したばっかりの頃、ハンカチを貸してその関係で交換しただけですよ。それでさっきのことお礼言ったらその返信があっただけで……」
「……そういえば、そんなことあったわ」
坂町が教室に来て、僕に迫ったことは僕のクラスの人間なら知っている事実。それは夢乃も例外ではない。
これで納得させられただろう。
内心でそう安堵すると、
ピロン
『それよりも折り入ってお話があるんですが、どこかでこっそり会えませんか?』
「……」
坂町からとんでもなく意味深なメッセージが来た。
これが僕一人しかいない状況ならば何の問題も無い。が……。
「……ねぇ、どういうこと?」
「えと、これはですねぇ……」
夢乃が僕と坂町のトーク画面を見ているこの状況は、問題しかない。
「どう考えても普通の仲って感じじゃないんだけど?」
「い、いやぁ……そのぉ……」
考えろ唯ヶ原迅!! この場を切り抜けれる最善の言い訳をぉ!!
正直に言えば僕のことが
どうする、どうするぅ……!?
脳みそを最高速度で回転させる。
だが、脳みそが結論を導き出すよりも早く、行動に移したのは夢乃だった。
彼女は僕のスマホを奪うと、
『分かった』
そう、坂町に返信した。
「あ、あの……夢乃さん?」
「いく」
「……はい?」
「私も、ついてく」
「つ、ついてく……とは?」
「坂町と、秘密で会うの……私も一緒に行く」
「……」
頬を膨らませ、目に涙を浮かべる夢乃。
何故か僕は、そんな彼女に対し、仏のように穏やかな微笑みを向ける。
そして、
何言うとんだべかこの女ぁぁぁぁぁぁ!!??
内心で叫んだ。
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