第38話 ライブの余韻、蠢く雑音
「ってぇ……」
夜風に当てられ、レイナは目を覚ます。
「レイナ」
「う、あ……総代……」
自身の近くで、何処か彼女を心配そうに見つめる琥珀。
それを見たレイナは全てを察した。
故に、気まずそうに顔を逸らす。
「すみません……私、何もできなくて……役に立たなくて……!!」
目に涙を溜め、何処までも深く、レイナは懺悔する。
「気にしてない。相手が強かった。私も負けた。だから一緒」
「一緒なんかじゃ、無いですよ……」
自嘲するように、レイナは地面の芝生を見る。
「あんな惨めにやられて、私は……副総代に相応しく無いです……。総代の隣にいる資格も、無い……」
ポツリポツリと、レイナから放たれていく言葉。
琥珀は、彼女との距離が広がっていくのを感じた。
イヤ、だ。
ふと、琥珀は思う。
それは徐々に大きくなり、そして……。
「ダメ……!!」
声となって、レイナの元に届いた。
「そ、総代……?」
「ダ、ダメ。レイナ……私から、離れちゃ……ダメ」
他人のことに対してはズバズバ言える琥珀だが、こと自分のことに関しては、思うように口が回らない。
しかし彼女は、拙いが確かに、思いを紡ぐ。
『大事なのは、魂だ』
龍子に教わったことを、愚直に実践する。
「でも、私は……」
「関係、無い……!」
琥珀はレイナの手を掴む。
「私は、レイナと……【紅蓮十字軍】のみんなと……喧嘩の強さとか、不良の格とか……そんなの抜きで……」
『魂から出た言葉を、ちゃんと伝えろ』
「友だちとして、みんなと一緒にいたい……!!」
「っ……」
その時、レイナの中で、何かがパリンと割れた音がした。
「不良になったのも、友だちを作りたかったら……!! 不良の頂点に立つとか、そんなこと……何にも考えてなかった……!!」
絶えず、琥珀は言葉を続ける。
「総、代……」
レイナは、初めて目撃した。涙を流す、主の姿を。
彼女たちの関係がどうなっていくのか、まだ分からない。
だがともかく、琥珀が新たな一歩を踏み出したのは、確かだった。
その後、騒ぎを聞きつけた警察が代々木公園に到着。
彼らが発見したのは、緑の芝の上に倒れている数百人の不良たちだった。
こうして、この日の抗争は『渋谷の乱』と呼ばれ、不良たちの歴史に刻まれた。
◇
――五月末
僕が『大惨事学園』に入学し、早くも二か月が経過した。
二か月も経てば新入生は学校生活にも慣れ、気の合う友人たちと楽しい高校生ライフを送るらしい。
そんな中、僕は何をしているかと言えば……。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
昼休みの屋上で座禅を組み、息を吐き、精神統一をしていた。
そんな僕に、大きめの弁当を食べている隼太が目を向ける。
「迅殿。一体どうしたでござるか? ……と言いたい所でござるが、聞くまでもないでござるね」
「はは、分かってもらえて嬉しいよ。二日前のくくるちゃんのライブの余韻がまだ抜けなくてな。こうして精神統一をしないと
若干の
二日前のライブを全て脳に焼き付けている僕は、
冒頭、いきなりくくるちゃんの1stシングル『くくる☆頑張る!』から始まりその後は様々な有名曲のカバー、最後は2ndシングル『ぐっもーにん異世界』で締めるという完ぺきな
くくるちゃんのMCも言うまでも無く最高だった。最後のくくるちゃんのくくっ子への感謝の言葉は、涙無しでは聞くことができなかった。
「あぁ……良かった。本当に良かった……」
語彙力を失った僕は、ただただ良かったと呟く「良かったbot」と化していた。
「くぅ……拙者もライブ中継で観ていたでござるが、あの熱量は現地で体感したいと切に思ったでござるよ。やはり次回は拙者も現地当選を狙うでござる!」
「じゃあ次は一緒に現地だな隼太!」
「うむ!! 是非一緒に推しの勇姿を生で目に焼き付けるでござる迅殿!!」
決意するように言った隼太と僕は熱い握手を交わす。
「あ、そういえば大事は無かったでござるか?」
「ん、何がだ?」
「いや、くくるちゃんのライブ会場の外に刃物を持った不審者が現れたというのをネットニュースで読んだでござるよ。幸い犯人は逮捕され、ライブも無事に行われたから良かったでござるが……」
「……」
隼太に言われ、僕は思い出す。
くくるちゃんのライブが良すぎて前後の記憶が色々と吹っ飛んでいた。
考えてみりゃあ、アレってライブ中止になる可能性があったワケで……ん? そうなると結構ヤバい状況だった?
今更ながら、事の重大さに気付く。
一気に冷や汗が流れた。
不審者を倒してくれた奴には
僕は心の中で合掌した。
が、直後。
脳の奥底に沈められていた記憶が更に呼び起こされる。それは渋谷公会堂での坂町の言葉だった。
いや、待て……。そういや坂町がソイツが不良みたいなこと言ってたな。
しかもどっかのチームの隊長をやってたとかどうとか……。
一体誰だったんだ……?
僕は頭を捻る。
だが、それは一瞬だった。
「ま、細かいことはいっか!!」
ンなこと考えても意味無ぇ。
とにかくソイツのおかげでライブは中止にならなかったし、僕はライブを楽しんだ!
それで話は終わりだ!
僕は圧倒的自己完結で、何処までも推しのライブの余韻に浸った。
◇
東京内 某カラオケ店
その一室に奇天烈な男二人、女二人が座っていた。
「みんなお
「三ヶ月ぶりくらいかな?」
「四じゃね?」
「てかここDAMじゃなくてJOYサウンドじゃーん。あり得ないんだけどー」
奇天烈、というのは主に彼らの顔面がその理由を占めている。
四の男女は洩れなく、ピエロの仮面を着けていた。
「まさかたった二ヶ月で東京を支配してた三チームが崩壊するとはね。全部【
ドリンクバーのグラスを揺らす男の名は【
彼は【笑顔】と呼ぶ少女を見ながら肩をすくませる。
「うん! これで東京がキレイになったし、よーやく私好みの盤面にできるよ〜」
足を伸ばしながら、【笑顔】は言う。
「にしてもマジで【紅蓮十字軍】と【永劫輪廻】が共倒れするとはなぁ。一体どーやったんだぁ?」
次いで、グラスを持っていたのとは別の男、【
「別に〜? 特別なことは何もやってないよ。抗争の日があの日になるように仕向けただけ〜。【永劫輪廻】の幹部をちょーっと
「はは、
「んふ〜。それはまた秘密♪」
「ちぇっ、ンだよ。
拗ねたように、男はソファに深く腰掛けた。
「まぁまぁ、情報をひけらかすのは
手を合わせ、首をくねくねと動かす【笑顔】。
「ま、楽しけりゃあ何でもいいかぁ! ガハハハ!!」
「ははははは!!」
「ふふはははは」
そして何の脈絡もなく、その場にいたピエロ面たちは笑い出す。
何とも
「そうそう! 楽しく可笑しく面白く! それが私たちぃ、
【
そう言いながら、【笑顔】はある人物に対し、思いに
ふふふーん。これからますます、面白くなるよ。どこまでも愉快で、どこまでも刺激的な舞台を用意してみせる! だから、楽しみにしてね。
ーー迅たん♪
◆◆◆
第二章まで読んでいただきありがとうございました。
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