第28話 その陰キャ、ギャルとデート(?)する
ーー夜
「……」
風呂から上がり、髪と肌をいつもより手を抜いて手入れした夢乃真白は自室のベッドにうつ伏せでダイブする。
「はぁぁぁぁ……」
深いため息を吐きながら、彼女の頭にあるのは唯ヶ原迅のことだった。
うぅぅぅバカバカ、ウチのバカ!! もっと素直にいけし!! でも昨日あんな素っ気ない感じだったのにいきなり態度変わったら変だと思われるだろうしぃ……!!
足をバタバタしながら、真白は猛省する。
夢乃真白。
彼女と関わりが無い者は、その容姿や雰囲気から彼女のことを男遊びをしているギャルだと思っている。
しかしその実、彼女はとてつもなく
男と手を繋いだことは勿論、彼氏がいたことも無い。
だが彼女自身、特段それについてどうも思っていなかった。
恋というものが何なのか分からず、男子と付き合っている友達を見ても別に羨ましく思うこともなかった。
「……」
メイド喫茶での出来事を思い出し、真白の頬が朱色に染まる。
咄嗟に自分を抱え、守ってくれた迅の腕の感触と体温は、彼女の心に確かに刻まれた。
少し長めの前髪と眼鏡、その奥にあった凛々しさと猛々しさが共存した顔つきに、胸がときめいた。
――夢乃真白は紛れも無く、一切の疑う余地も無く、唯ヶ原迅に恋をした。
初めての感情に戸惑いながら、真白は枕を抱きかかえ、横向きになる。
「で、でもまさかアイツがお礼にウチとデートしたいっていうのは意外だったな……。い、意外と脈アリ? なのかな……?」
照れたように呟く真白。
その表情は何処までも恋する乙女だった。
◇
ーー真白がベッドにダイブした同時刻。
「で、何か言い訳はあるか?」
『……』
正座した龍子と九十九を見下ろし、僕は問い掛ける。
夢乃と屋上で別れた後、隼太からLINEで連絡があった。
内容は僕の妹とその友人が来ている、というもの。
妹とその友人がコイツらであることを一瞬で結びつけた僕は誰にも気付かれないように隼太の元へと急行した。
そしたら隼太がボロボロになっていたり、咢宮と知らない野郎が倒れているという思わず気の遠くなるような光景を目がそこにあった。
頭がどうにかなりそうなのを
「ご、ごめんアニキ……」
「ごめん、なさい」
言い訳すること無く、龍子と九十九は素直に土下座を
「はぁ……ったく」
額に手を当て、溜息を吐く。
「まぁ何とか誤魔化せたし、隼太と咢宮を助けたってことに免じて、今回は許してやる」
「ほ、ホントか!?」
「あ、ありがとう。そーちょー」
「今回だけだ。もし次勝手なことしたら、お前らを湘南に強制送還させる。いいな?」
「ウス!」
「うん。分かった」
元気よく返事をする龍子とコクリと頷く九十九。
対比的な二人の反応を見ながら、コイツらが本当に分かったのかどうか、僕は半信半疑だった。
◇
なんやかんやあり、週末。いよいよ夢乃に礼をしてもらう日が到来した。
LINEで送った集合場所は秋葉原駅の前、時間は午前十時。
一応十分前に到着し、彼女を待っていた。すると、
「お待たせ。早いじゃん」
集合時間の五分前に、夢乃は現れる。
「いえ、僕もさっき来たばかりですよ夢乃さん」
そう事実を告げながら、僕は彼女を見た。
当然だが、夢乃は制服では無く私服を着ていた。これまで同じ学校の女子とは制服でしか会ったことが無かったため、中々に新鮮な感覚である。
「そ、そう。まぁいいや。それよりも……どう?」
「……どう? といいますと……?」
「ふ、服。変じゃ……無い?」
夢乃は僕の反応を伺うように、身体を少し左右に揺らした。
「変、ではないと思いますけど……」
僕は服装のことに関しては全くの素人だ。
しかしそんな僕の目から見ても、夢乃の
全体的に黒で統一した服装に、目を引く首元のチョーカーを見ながら、素直にそう思った。
「そ、そう。良かった……アイたちはいつも褒めてくれるけど、男子にちゃんと見せるの……初めてだったから……」
「あ、そうなんですね」
なるほど。僕の反応を気にしていたのはそういうことか。
夢乃の様子の可笑しさに合点がいった僕は、とりあえず話を本筋へと移行することにした。
「じゃあ今日はよろしくお願いします」
「う、うん。それで……どこ行くかはもう決まってるの?」
「勿論です!! 任せて下さい!! 僕がしっかり
「っ! わ、分かった! 任せる!」
「はい!!」
夢乃さんが期待してくれている。
それに精一杯応えなければ。
◇
「それでですねぇ~。これが【ハウンズ】2期生の『
「……」
「これで【ハウンズ】2期生は全員紹介しました。次はいよいよ僕の推しである『小鳥遊くくる』ちゃんがいる3期生ですが……」
「ちょっと待って!?」
「ん? どうしました?」
場所はアニメイトのvtuberコーナー。
vtuber、というだけあり当然業界最大手と言ってもいい【ハウンズ】所属のvtuberの商品や等身大パネルなどが展示されている。
そんな場所で、唐突に夢乃は叫ぶ。
「な、なんかウチが思い描いたのと違うんだけど……」
「え?」
思い描いていたモノ? 一体何を言っているんだ……?
僕は首を傾げる。
「だ、だからその……。もっとこう、デ……デートっぽいことをさ……」
……。
「へ、デート? 何言ってるんですか?」
唐突に発された、馴染みの無い単語。
僕は思わず聞き返してしまった。
「……ん?」
そんな僕の返答に、夢乃は固まる。
「えと……今日って、ウチとのデートだよね?」
「いえ、全然違いますけど」
あまりにも
「……」
ニッコリと笑みを作る夢乃。
次の瞬間、彼女は……。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
店内で大声で叫んだ。
◇
「最ッ悪!! あーもうホントに最悪!! ウチがバカみたいじゃん!! マジで消えたいぃぃぃぃ……!!」
建物から出た夢乃ははしゃがみ込むと、泣きそうな声で顔を覆った。
「えーと……」
どうやら夢乃は、今日の誘い……もといVtuberの布教活動をデートだと勘違いしていたらしい。
何故そんな勘違いをしてしまったのかは全く以って理解できないが、現にこうなっている以上、それを受け入れるしかないと僕は悟る。
「ま、まぁまぁ夢乃さん。落ち着いて下さい。勘違いは誰にでもありますよ」
とりあえず、勘違いをした人全員を慰めることのできる
「うぅぅぅぅぅ!! 今一番言われたくない奴に言われたァ!!」
うん。悪手だったみたいだ。
「マジ恥ずい。ホントに死ねる……」
みるみる内に、夢乃の雰囲気は暗くなり、まるで暗雲が立ち込めているようになる。
どうすればいいんだ……?
彼女を見ながら、思案を巡らせる僕。
そんな時だった。
「ねぇ」
「ん?」
背後から聞こえた声に、振り返る。
そこには灼熱を体現したような真紅の髪の毛を
「君は……?」
一先ず、誰かも分からない少女の名を聞くことにする。
「私、
少女は素直に名を答えた。
「ど、どうしたの……?」
次いで、少女の目的を聞くと、彼女はこう答えた。
「迷子」
「……なるほど」
あまりにも端的な説明に、何とも言えない気持ちになる。
つまり今この場には、何故か今にも投身自殺を図りそうな少女と絶賛迷子中の少女がいるわけだ。
「……ふっ」
いやどないせーっちゅうねん!!
僕は内心で、思わず関西弁でツッコんだ。
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