第23話 その陰キャ、妹を作る

「じ、迅殿ぉ!? 一体何者ですかその美少女はぁ!! そして何で抱き着かれているのですかぁ!?」

「お、落ち着け隼太! こ、コイツは……」


 ま、マズイどうする……! 害は無いと言った手前、知りません無関係ですは通らない! 何と誤魔化さないと……!


 そうして僕の脳みそは、かつてない勢いで回転。その末に、咄嗟に出た言葉は。


「ぼ、僕の妹なんだよ!」


 何とも単純なものであった。


「い、妹……!? じ、迅殿にこんな可愛らしい妹がいたてござるか……!?」


 僕の回答に隼太は仰け反りながら、一歩後ずさる。


 よし、後は九十九コイツが乗ってくれれば……!


「あぁ! な? そうだよな九十九!」

「……」


 僕の言葉に九十九は顔を上げ、目を合わせる。


 頼むぞ九十九!! なんだかんだお前とは結構長い時間を過ごしてきた!! 僕が言って欲しい言葉、分かるよな? な?


 そんな思いを込め、ウインクをする。


「……」


 頼む、九十九ぉ!!


「ん〜? どしたの『そーちょー』」


 オバカァァァァァァァァァァァァァ!!??


 長く過ごした時間とは、こんなにも儚いものだったのか。

 そう思わずにはいられない。


「え、『総長』? 迅殿、この方は何を言っているでござるか?」


 アカァン!? 隼太が疑問を感じているぅ!! 立て直し、立て直しを図らなければ……!


「おいおい九十九。その呼び方はやめてくれっていつも言ってるだろ? 僕のことはちゃんと『お兄ちゃん』と言えと……」

「九十九、ンなこと言われてない」


 コ、イツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!


 仕方ない……こうなったら。


「あ、隼太! あそこに血湧き肉躍る決闘者デュエリストたちがぁ!!」

「何ですとぉ!? どこ、どこでござるかぁ!?」


 よし、今だ。


 隼太が僕たちから視界を外した瞬間、僕は九十九を抱え、隼太に声が届かない距離まで一瞬で移動した。

 だが一瞬で移動したといっても隼太が僕たちの方は目線を戻すのは時間の問題だ。


 だから端的に、告げる。


「おい九十九、話を合わせろ。今日から僕とお前は兄と妹だ」

「そーちょー、何言ってる?」


 くっ! やっぱりコイツは物分かりが悪い!! 龍子アイツと一緒で野性と本能で生きてる種別タイプだ!!


 しかし、泣き言を言っていても時間を浪費するのみ。

 今必要なのは、瞬時に九十九コイツに言うことを聞かせる言葉……それを捻り出すこと。


 そうして発された言葉は……。


「僕のために、頼む。僕と家族になってくれ!」



「迅殿! どこにもいないではござらぬかぁ! ってアレ?」


 数秒後、隼太はこちらを振り返り、首を傾げる。


「何で汗をかいているでござるか?」

「え? いやぁなぁに。この数秒でちょっとライザップをだな……」

「唐突すぎではござらんか!? というかライザップしなければいけないのはどちらかといえば拙者でござる!」

「まぁまぁ、人には色々あるんだよ。それじゃ、改めて紹介する。僕の妹の唯ヶ原九十九だ」

「そーちょ……じゃない。お兄ちゃんの妹、九十九です。よろしく」


 九十九はペコリと頭を下げた。


「お、おぉ……!! なんと……!!」


 隼太はプルプルと身体を震わせる。


「じ、迅殿……」

「な、なんだ……?」


 隼太、いつになく真剣な声の調子トーンだ。まさか、露見バレたのか……?


 策をろうしたが、絶体絶命。

 そう思った時、


「この方に、頼み事をしてもらうことはできるでござろうか?」

「た、頼み事……?」

「はい」


 そうして隼太は、僕に耳打ちをした。


「……『お兄ちゃん』、と呼んでもらいたいでござる」

「……」


 ――……。


「何を言っているんだお前は……?」


 僕は素直に思った。


「実は拙者、元来妹キャラに『お兄ちゃん』と呼んでもらうことが夢でござる」

「そ、そうなのか……」

「後生でござる。迅殿」

 

 真剣な眼差しで、隼太は僕を見る。

 

「いや、それくらい自分で頼めばいいだろ」

「何を言っているでござるか……! 自分で頼んだら気持ち悪がられるのが必定ひつじょうでござろう……!」

「僕に頼んでも結局同じだと思うんだけど……」

「そこを、そこを何とかぁ……!! 後生でござる!! 友を助けると思って……!!」


 隼太は両手を合わせ、必死で僕に頼み込んでくる。


 ……まぁいい。

 ともかく隼太は九十九が僕の妹であると信じてくれたようだ。

 ならば後のことはどうでもいい。隼太の望みを叶えてやるとしよう。

 

「分かったよ」

「圧倒的感謝でござる、迅殿ォ!」


 隼太の感謝の言葉を聞きながら、僕は九十九に耳打ちした。

 そして彼女はコクリと頷くと、隼太に目を向ける。そしてただ一言、


「隼太、お兄ちゃん?」

「……がはぁ……!?」

「隼太ぁ!?」


 僕は吐血しその場に倒れた隼太を揺する。


「おい、しっかりしろ! どうしたんだ……!!」

「じ、迅殿……。拙者、もう……この世に、悔いは……無いで、ござ……る」

「隼太ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 秋葉原の街中で、僕の叫びが轟いた。



 約一時間後、意識が戻った隼太を見送り、僕は九十九と共に自宅のアパートに向かっていた。


「なぁ九十九。一応聞いとくがお前、通行人からメシ奪ったりとかしてねぇだろうな?」

「奪ってない」

「そうか。ならいい」

「もらってるだけ」

「それを奪ってるって言うんだよ!?」


 くそ!! 噂になってる『化け猫』ってやっぱりコイツかよ!!

 

「いいか九十九。今後は通行人から飯を奪っちゃダメだ」

「でも、お腹すく。九十九、金無い」

「はぁ……僕が作ってやるから」

「本当?」

「あぁ、本当だ……」


 くくるちゃんのグッズ代とスパチャ代、その他諸々に加えて九十九コイツの食費も追加かぁ……。

 あぁ……バイトのシフト増やさないとなぁ……。


 憂鬱な気持ちになりながら、アパートに到着した。

 慣れた足取りで階段をのぼり、扉の前に立つ。

 

 ガチャリ。


 そしていつも通り、カギを穴に差し込み扉を開けた。


「ただいまー」

「お帰りアニキィ! ……あ?」


 最早見慣れた光景となった龍子の出迎え、いつもならば満面の笑みで迎えてくれるのだが、今日は違った。

 その理由は、誰の目にも明らかである。


「何でてめぇがいんだよ。クソ猫」

「こっちの台詞セリフ。何でいる、バカ龍」

 

 龍子と九十九は互いに睨み合う。

 この二人は元来仲が悪い。【羅天煌】の頃は毎日のように喧嘩ケンカをしていた。


「出てって。ここは今日から九十九とお兄ちゃんの家。お前の場所は無い。ごーほーむ」

「あぁん!? 何言ってんだてめぇ!! てめぇが湘南に帰りやがれゴラァ!! てかなんだお兄ちゃんって!! 私のアニキ呼びと被るだろうが今すぐ止めろぉ!!」

「無理、これはお兄ちゃん命令」

「はぁぁぁぁぁ!?」


 ギャーギャーと言い合う一触即発な二人を見て、溜息をこぼす僕。


「とりあえず、勝負しよう。勝った方がお兄ちゃんと一緒に住む」

「おぉ上等だゴラぁ!! そのはなぱしヘシ折って、泣かせてやるよぉ!」


 ヒートアップを続ける二人。仕方が無い……。


 ――実力行使をするしか、なさそうだ。


『……っ!?』

 

 そうして僕が圧を放った直後、龍子と九十九が硬直する。


「お前ら、落ち着こうな♪」

『……はい、ごめんなさい』


 先程まで険悪な様子の二人は、口を揃えてそう言った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る