第18話 束の間の平穏、学園のアイドルの心変わり

『それでねー。最近amazunで注文し過ぎて家の中が段ボールばっかりさー、足の踏み場がないんだよねー。あ! 【純情侍】さんスパチャありがとう! 毎回私の配信でスパチャくれるなんて本当に感謝感謝だよー! でもお金って大切だから程ほどにね?』

「ああぁぁぁぁぁぁ!!! くくるちゃんがぁぁぁぁ!! 僕のことを認知してくれてるぅぅぅぅぅぅ!! 今日はなんていい日なんだァァァァァァ!! 大丈夫だよぉくくるちゃん!! 僕の財布に入ってる金は全部君のモノォ!! 僕は返してるに過ぎないんだからぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然の推しの衝撃発言に、僕はぴょんぴょんと飛び跳ねる。


【終蘇悪怒】を壊滅させてから初めての休日。

 僕はくくるちゃんを推す日常に戻っていた。

 色々と紆余曲折うよきょくせつあったが終わり良ければ全て良し。平穏な日々の有難ありがたみを僕はこれでもかと噛みしめる。


 が、ただ一つ問題があった。それは……。


「なーなーアニキー。暇だからどっか出掛けようぜ~」

「……」


 僕の平穏に龍子非日常が残っていることだ。


「龍子……見て分からないか? 僕は今、くくるちゃんの配信をリアルタイム視聴しているんだ。しかも僕のことを認知しているということが判明した歴史的瞬間の真っ最中。お前と出掛ける暇は微塵も無い」


 飛び跳ね続けながら、僕は言う。


「うぇー……アニキのケチ~」

「我慢しろ。くくるちゃんの配信が終わったらどっか連れてってやるから」

「ホントか!?」

「あぁホントホント」

「やたー!」


 龍子は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 狭い部屋の中で二人が飛び跳ねるという、はたから見ればシュールでしかない光景である。


 下の階の奴から苦情がきたら謝ろう。


 素直にそう思った。



 くくるちゃんの配信を堪能した後、僕は約束通り龍子と外へ遊びに出掛けた。

 内容は飯を食べたり、ゲーセンで遊んだり、公園のブランコに乗ったりと、行き当たりばったりで適当なものだったが、龍子は満足したようだ。

 そして帰り道、ふと僕はあることを思い出し、口を開いた。


「龍子……お前いい加減帰ったらどうだ? 学校とか親も心配してるだろ?」

「はっはっは! 冗談がうめぇなぁアニキは! アタシの親が心配なんてするワケねぇだろ!」

「いや、うん……それはそうなんだけど……」


 龍子の親はとても破天荒で放任主義。どの程度かというと娘が数か月以上家に帰ってこなくてもケロリとしている。


「学校の方もダイジョブだ! アタシの通ってんのはスゲェバカな所だからな! 行かなくても問題ねぇ!」

「……」


 あっけらかんと言い放つ龍子に対し、思わず頭を抱えた。


 はぁ……無理やり家に帰そうと思えばできるけど、そうしたら色々うるせぇだろうしなぁ。しゃーない。しばらくはウチに居候させるか……。


 非常に不本意だが、僕はそう決める。

 そんな中、アパートに到着した。


「ん?」


 すると、僕の部屋の前に人の気配を感じた。宅配かと思ったがアパートの前にトラックは停まっていない。


 一体誰だ?


 僕は足早に自分の部屋へと向かう。到着すると、そこにいたのは一人の少女だった。

 ここ最近で、随分と見知った少女である。


「こ、こんにちわ。唯ヶ原君」

「坂町。どうした?」


 坂町はあの一件以降、学校で僕と会話をすることが無くなった。平穏な日常が送りたいと望んでいる僕の意思を尊重しているのかは知らないが、僕にとっては有難い話だった。

 そんな彼女がどうして僕の部屋の前にいるのか、それは純粋な疑問である。


「う、うん。本当はLINEでもいいかなって思ったんだけど、やっぱり直接お礼を言いたくて……」

「なんだ、そんなことか。それだったら別に校舎裏でも……」

「それじゃあ足りないよ! 唯ヶ原君たちは私と誠二を助けてくれたんだから! だから、これ!」


 そう言って坂町が僕に手渡してきたのは甘い匂いが漂う袋だった。


「有名店のチョコレートです。お口に合うといいんですけど……」

「おぉー! メチャクチャ美味うまそうじゃねぇか!! サンキューな詩織!」


 チョコレートのの匂いに龍子は目を輝かせる


 なるほど、学校じゃこれを直接渡すのは難しい。学園のアイドルである坂町がこんなものを持っていては誰に渡すのかを周囲に勘繰かんぐられてしまうだろう。


 僕は納得した。

 こんなお高いチョコレートをもらう程のことはしていないが、わざわざ僕の家にまでこうして届けてきたモノを突っぱねるのも忍びない。


「わざわざ悪いな。ありがたくもらうよ」


 だから素直に受け取ることにした。

 

「……///」


 うん?


「どうした坂町? 顔赤いぞ? もしかして熱でもあるのか?」

「ふぇ!? い、いいいいいいいや何でも無いよ!?」


 あたふたと何かを誤魔化すように手を振る坂町。

 一体どうしたというのだろうか。


「じゃ、じゃあ私はこれで!! それじゃあね唯ヶ原君、辻堂さん!!」


 僕の疑問を他所に、坂町はそう言って足早にその場を後にした。


「お、おぉ。じゃあな」


 疑問と言っても些細なモノ。

 特段問いただす気にはならなかった僕は、そのまま坂町を見送った。


「むぅ……」

「ん? 龍子何ムスッとしてんだ?」


 そこで、ようやく気付く。

 隣に立つ龍子が訝し気な目をしていたのを。


「いや、何かよぉ……今一瞬、気に食わねぇ匂いがしたんだよなぁ」

「気に食わない匂い?」


 要領を得ない龍子の言葉の意味が、僕には分からなかった。



「ふぅ……」


 帰路につきながら、詩織は安堵するように溜息をく。


 どうしちゃったんだろう、私。

 この前まで唯ヶ原君の前で興奮することはあっても、照れることは無かったのに。

 いつからこんな風に……。


 そこまで考え、詩織が思い浮かべたのは、この前暴走する誠二を迅がさとした光景だった。


 はぁ、あの時の唯ヶ原君カッコ良かったなぁ……って何浸ひたってるの私!?


 よこしまな考えを消すように、詩織はブンブンと首を振る。

 だが現実は無情と言うべきか、無心になろうとすればするほど彼女の頭の中には迅の顔が思い浮かび、胸が締め付けられるような感覚に陥る。


 ……ちょ、ちょっと待って私……。ひょっとして……。


 それが何を示すのか分からないほど、詩織は子供ガキではなかった。


「……~~~///」


 しゃがみ込む詩織。

 そして、彼女は呟いた。


「私……『ガチ恋勢』になっちゃった……!?」


◆◆◆


 第一章まで読んでいただきありがとうございました。

 もしVtuberや不良、熱いバトル、頭のネジが飛んでる主人公とヒロインが好きな方、そしてこの物語が少しでも面白いと思ってくださった方は

 ★評価とフォローをお願いします!

 応援が励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る