護衛の騎士とお付きの侍女は王子のヤンデレ化を阻止したい

新高

阻止するのが至上の命題




「監禁したい」


 うららかな日差しの中、優雅にお茶を楽しんでいたそんな一時に、突然不穏な単語が飛び出した。

 発生元はこの国の第二王子であるフレドリックからで、その対象は彼の向かい側でティーカップを手にしたまま固まっている婚約者、オリアーナ伯爵令嬢である。

 ああまた始まった、と王子の専属護衛であるグレンと、オリアーナ付きの侍女のジュリアはグ、と気を引き締めた。




 フレドリックは元からこうだったわけではない。むしろこれまでの彼は公明正大、弱きを助け強きを挫き、誰からも好かれる好青年でありそして貴き血筋の生まれ。第二王子と言えば、物語の中ではなにかと悪役サイドで描かれる事も多いが、彼は幼い時から兄であるアーヴィングを慕い、誰よりも兄の為に働くのだと学問も武術も熱心に取り組んだ。その努力は見事に実を結び、王太子である兄を支える柱の一つとなっている。


 そうやってひたすら兄のため、ひいては国のため民のため、と生きてきたフレドリックはおよそ自分の欲と言う物を持たなかった。初めの頃こそ美徳と周囲は元より彼の両親も褒め称えていたけれど、あまりにも己に対して無欲すぎる生き様に段々とその認識は揺らいでくる。せめて伴侶は心の底から望む相手を、と両親に兄、普段であれば我こそはと娘を差し出してくるだろう貴族達でさえそう口を揃える、が、しかし。


「そうだな、我が国、我が民を支えてくれる女性を心の底から望んでいるよ」


 などと眩しい笑顔でフレドリックは言い切るばかり。第二王子は国に尽くすために自分の心を無くしてしまったのだ、そう育ててしまったのだ、そうなるよう押し付けてしまったと、国王夫妻と王太子――つまりは彼の家族の落胆ぶりは凄まじい物だった。


 そんな時、フレドリックにまさに青天の霹靂とでも言うべき事が起きる。

 たまたま参加した夜会で出会った令嬢、オリアーナに一目惚れしたのだ。


 この際身分差など問題では無い、無欲で生きてきたフレドリックが初めて欲を示したのだと、王家は諸手を挙げて彼女を第二王子の婚約者と指名した。これに驚いたのは当然名指しされたオリアーナである。

 明るく朗らか、細かい事は気にせず何事も広い心で受け止めるなんとも人好きのするご令嬢、と評判であり、実際その通りの性格をしている彼女をもってしてもこればかりは二つ返事では受けられない。

 身分は元より、王族に名を連ねる責任を果たすだけの能力も覚悟も自分には足りず、そんな人間がいてはいつ何時なにがあって民に害になるかが分かりませんと、恐れながらと震える声でありながらも彼女はそう言い切った。


 これにまたフレドリックの好感度が上がる。ついでに国王夫妻と王太子、王宮に勤める侍女達の好感度まで上がった。第二王子と結婚! 富と権力! 贅沢三昧!! と荒ぶる婚約者候補の令嬢達とオリアーナ、比べるまでもなくどちらに仕えたいか答えは一つ。そんな侍女達の時には押して時には引いて、さざ波の様にフレドリックの魅力を伝え、王宮での生活も怖くないですよと万全の体制であると囁き続け、ついに彼女はフレドリックとの婚約に頷いた。


 それからしばらくは大変微笑ましい、むしろ年若い男女の方がもう少しだけ仲睦まじい姿を見せるのでは? と思うほどに健全な付き合いをしてきた二人であったが、徐々にフレドリックが突拍子も無い事を口にするようになる。


 まさに今し方の発言の様に。


「監禁……監禁ですか……二日、ううん一日くらいならいいですけど」

「いや、もちろん本当にするわけではないよ? オリアーナは外に出かけるのが大好きだから、閉じ込めておくなんて可哀想でできない」

「そうですね、こんな風にお天気の良い日は特に外に出かけたくなります」

「後で庭に出ようか。庭師が綺麗に薔薇を咲かせてくれたんだ」


 素敵ですね、と微笑むオリアーナは婚約者と言う立場を受け入れてからは、それまでの評判通り明るく朗らか、細かな事は以下省略な性格を発揮している。グレンとジュリアからすれば神に感謝する程のありがたさだ。今の会話もフレドリックの軽い冗談、なんなら王族ならではの軽口なのだろうと流してくれる。


「あれ絶対本気と言うか本心でしたよね」

「飾りなんか一切無しの心の底からの言葉だったな」


 扉を背に、二人の様子を見守りながら騎士と侍女はひそひそと言葉を交わす。

 グレンとジュリアには密かに国王夫妻から課せられた任務がある。


 一つは、フレドリックがこれ以上妙な嗜好に走らないよう目を開かせる事。

 もう一つは、フレドリックがオリアーナに対して一般常識に照らして常軌を逸した行動に出る前に、彼の身柄を拘束する事。


「多分、フレドリックはこれまで無欲でいた反動で全ての欲がオリアーナに向いていると思うんだ。当然本人はそれを自覚なんてしていない。今のところ暴挙に出ていないのは、フレドリックがひたすら常識人であると言うことと、オリアーナが上手く受け流してくれているからだろう」


 アーヴィングの認識に二人もその通りだなと同意を示す。


「きっと、おそらく、オリアーナから少しでも拒絶と言うか……引かれでもしたらフレドリックは転がり落ちてしまうような気がしてならなくて……」


 残念ながらこれまた同意、とグレンとジュリアは頷いた。


「一目惚れ、だなんて言った所でそれまで好意どころか興味すらもっていなかったフレドリックに見初められたんだ! オリアーナにとってはとんだ事故案件だろう!? それを逃がしてやるどころか、どうか頼むからと囲い込んでしまって……なんとしても彼女の心身の安全だけは確保してやりたい」


 その為ならば第二王子相手であっても抜刀してよい、とまで言われている。流石にその前にどうにかする、というかしなければならないわけだが、王家のそこまでの覚悟にもう笑うしか無い。


「オリアーナ? どうかしたのか? 今日はいつもより食べる量が少ないみたいだけど」


 素晴らしき観察眼、と言うか普段からどれだけ見てるんですか王子、とグレンは腹の底で突っ込みを入れる。女性の食べる姿を凝視とかないですね、とジュリアは喉元までせり上がった言葉をゴクリと飲み込む。

 指摘されたオリアーナは「う」とだけ呟くと、しおしおと身を縮ませる。


「口に合わなかったかい?」

「……いえ、そうではなくて」


 ここで毎回出される菓子はどれも絶品の物であるからして、若い娘であれば誰だってついもう一口、と食べてしまう。


「なので……最近こう、少し……」


 赤く染まった顔を隠した状態でそこまで言われれば、フレドリックも察するしかない。


「オリアーナはもう少し肉を付けた方がいいくらいだと思うが」

「却下です王子。不可、間違い、この無神経! と罵られても仕方のない発言です」

「女性に対して適切ではないかと」


 ジュリアとグレンの突っ込みにフレドリックは「すまない」とオリアーナに詫びを入れ、そして少しばかり感心した眼差しをグレンに向ける。


「お前に女性に対しての言葉を窘められる日が来るとは思わなかったよ。これも夫人のおかげかな?」


 フレドリックのからかいに、氷の騎士との異名さえ持っていた護衛の騎士は不様にも動揺を見せた。サ、と頬に赤みが差す。しかし咳払いと共に即座に冷静な顔に戻り「おかげさまで」と短く返した。


「グレンがなにかと夫人との仲を見せつけてくれるものだから、余計にオリアーナが恋しくなるんだよ」


 はあ、とフレドリックは溜め息を吐く。愛しい彼女とはまだ婚約の段階だ。どんなに願っても、夜にはオリアーナは自分の屋敷へと帰ってしまう。


「オリアーナと一緒にいたいだけなんだけどなあ……」


 ガクリと項垂れ、そこから五つ数えた所で「そうだ!」とフレドリックは勢いよく顔を上げた。名案、と喜色に飛んだその顔付きに、これまたろくでもない言葉が出るなとグレンとジュリアは身構える。


「私がオリアーナの屋敷に監禁されればいいんじゃないだろうか!」

「伯爵家を謀反人に仕立て上げる気ですか」

「むしろ何故それをいいんじゃないかと思ったのか説明してもらいましょうか」


 凍てつく冬の夜かの如く、温もりなど一切感じさせないジュリアとグレンの突っ込みがフレドリックに突き刺さる。しかし彼の脳は今、一連の流れを「仲の良い主従の会話」と捉えたオリアーナの笑顔しか認識していない。

 愛しい相手の楽しそうな表情に、こちらも負けんばかりの幸福そうな笑顔を浮かべ二人は向かい合っている。

 いつものことではあるけれど、本当に一体なんなんだこれはとグレンとジュリアは同時に重い息を吐く。二人の様子を見守るだけの簡単な仕事であるはずなのに、的確に突っ込みを入れなければならないし、そのためには二人の会話を一言たりとも聞き逃してはならない。恋人同士の会話に耳をすませていなければとは、とんだ出歯亀もいいところだ。地味にしんどい。


「でもきっと、今よりも丸くなったオリアーナは、それはそれで可愛らしさに磨きがかかっていいと思うなあ」


 フレドリックは話を戻す。だからそれは、と三人がそれぞれ突っ込みをいれようと口を開くが、あまりにもこう、フレドリックがうっとりとした顔をしているので言葉が詰まる。


「……もし私が、今よりもっとずっと丸くなったとしても、フレドリック様は嫌わずにいてくださいます?」

「オリアーナを嫌いになることなんてない、どんなオリアーナも大好きだ」


 甘い顔に甘い声、そして甘すぎる発言に場の糖度が一気に上がる。胸焼けしそう、とジュリアは顔をしかめ、隣に立つグレンは遠くを見つめたまま無言を貫く。


「今のオリアーナは可愛くて美しいけれど、丸くなったオリアーナは可愛くて美しくてそして可愛いだろうね」

「可愛いが増えましたよ?」

「丸くて柔らかい物はそれだけでも可愛いじゃないか。だから丸くなったオリアーナには可愛いが可算されるんだ」


 クスクスと笑い合う二人であるが、だんだんとそれがオリアーナの物だけになる。いつの間にかフレドリックは無言で、そして無表情でオリアーナを凝視している。どうしたのだろうかと首を傾げるオリアーナに、彼はポツリと呟いた。


「それもいいな……」

「フレドリック様?」

「丸くなったオリアーナも見てみたい」

「却下です王子」

「どうしてだジュリア? 丸くなって可愛いが可算されたオリアーナは君だって見たいだろう!?」

「オリアーナ様は今でも充分すぎるくらい可愛らしい方ではないですか。これ以上の欲は身を滅ぼしますよ」

「人間とは欲深い生き物だ。それが恋する相手であればなおさら」

「馬鹿話を壮大な物語のように言わない」


 長年付き従っている相手である、心底呆れたグレンの突っ込みは言葉遣いも雑だ。そんなグレンを仲間に引き込もうとフレドリックは言葉を投げる。


「グレンだって夫人の可愛いが可算されたら嬉しいしそんな夫人を見たいと思わないのか!?」


 だがしかし、グレンは眉一つ動かさずにそれを打ち返した。


「俺のフェリシアの可愛いは毎日更新されているので大丈夫です」


 きゃあ、とオリアーナが黄色い声を上げる。グレンの横からはうっわこの人真顔で言い切ったうっわ、と言う冷たい眼差しが飛んでくるが、グレンはどちらも華麗に流した。


「オリアーナの可愛いだって毎日更新されているからな!」

「フレドリック様!」


 恥ずかしさのあまりオリアーナが叫ぶ。それすらも可愛い、とフレドリックは喜ぶのだから頭のネジの緩さがジュリアはとても心配だ。


「今より可愛いが可算されたオリアーナが見たい」

「そうすると今のオリアーナ様は見られなくなりますがそれでもよろしいんですか?」

「今のオリアーナは私が覚えているから問題ない」


 それに、とフレドリックは視線をオリアーナに向け、ニコリと微笑む。


「むしろ、今後出会う人間は今のオリアーナの姿を知らないことになる。うん、とても素敵じゃないか」


 他人が知らない姿を自分は知っているという優越感。想像しただけで体の奥底から沸き上がる歓喜に、フレドリックは恍惚の笑みを浮かべる。その姿のなんと危険な事か。


「どこからどう見ても完全に危ない人ですよ王子!」

「オリアーナ、もっとたくさん美味しい物を食べてみないか?」

「無理矢理太らせようとするな!」

「うるさいグレン、私はたんにたくさん食べるオリアーナが好きなだけだ!」

「そうやって無理矢理太って、健康に害がでたらどうします? オリアーナ様を病気にさせるおつもりですか」


 ジュリアの冷たい眼差しと声には無傷でも、その言葉は浮ついたフレドリックの頭を痛烈に殴りつけた。途端、フレドリックは叱られた犬の様にシュンと項垂れる。


「オリアーナにはいつまでも元気でいてほしい」


 ごめんなさい、と素直に謝るフレドリックに、ひとまず今回も無事に場を乗り切ったとグレンとジュリアは胸をなで下ろした。




※※※※※※※




「あーわかる、猛烈によくわかる。おれも、おれしか知らないジュリアの姿を見たいし覚えていたいし他人にはそもそも知られたくないもん」


 テーブルの向こうで頬杖をついてニコニコとしているのは、フレドリック専属の菓子職人であり、ジュリアの婚約者であるルイスだ。今日オリアーナが食べていた菓子も彼が作っている。


「ジュリアも丸くなったところで可愛さが増すだけだし、いいよなあ丸くなったジュリア……」


 専門は菓子だが、普段食べる分の料理も余裕でこなせるだけの腕をルイスは持っている。


「おれが作った物をジュリアに食べて欲しい」


 そう言って強引にジュリアの三食をルイスは提供し続けている。今ジュリアが食べているスープも彼が作ったものだ。ジュリアは口元に運びかけていたスプーンを静かに皿の中に戻す。


「どうした? 美味しくなかった?」

「あなたの作る物はいつも美味しいです……」


 ジュリアの胃袋はすでにガッツリとルイスに掴まれている。その頃からやたらたくさん食べさせようとしていたが、もしやその時から計画的に、とジュリアが疑いの眼差しを向けてしまうのは彼こそが真の危険人物であるからだ。


 ルイスは元々騎士の一族である。それがある日突然菓子職人の道に目覚め、周囲が戸惑っている間に勝手に突き進みあっと言う間に王室お抱えの職人になった。三男坊で家督を継ぐ必要がなかったとはいえ、それにしたってどうなんだろうかと、初めて会った時にジュリアは少し引き気味に見ていた。


「おれって見た目がいいだろう? それに気遣いもできる優しい男で、さらに実家は騎士の名門とまで言われるリンデゴード家。だから狙ってくるご令嬢が多くてね」


 あ、自分で言うんだ、と喉元まで出かかった言葉をジュリアは飲み込む。それにしては彼がどなたかと付き合っているという噂は聞かないが。それが顔に出ていたのだろう、ルイスは自他共に認める美しい顔に笑みを湛えて、とんでもない事を口走った。


「好きな相手は監禁したくなるんだ」

「そういうご趣味が」

「実際はやらないけど。したいなあ、ってずっと思うだけ」

「そういう嗜好をしておいでで」

「結婚したとしても、常時監禁したいなあとか首に鎖付けておれの側においておきたいなあとか想像してるんだけど、それでもいいですか? って聞くとまあ見事に断られるよね」

「でしょうね」

「だからおれは今も誰とも付き合ったりしてないんだ」

「まあ……そうなって当然かと」


 自己申告すればいいと言う物ではないだろうが、彼はこれを職場でも元気に言い放っている。当然貴族の令嬢達にも筒抜けだ。


「たまにそれでもいいから、って寄ってくる猛者もいるけど」

「それはお受けにならないんです?」

「本当に監禁してしまったら可哀想じゃないか」

「……監禁したいのでしょう?」

「したいなあと思うだけで、実際はやらないって。でも相手はしてもいいって言うんだから難しいもんだよ」

「単にあなたの嗜好が面倒くさいだけなのでは」

「うん、そう、おれの監禁したいなあって希望を冷たく断ってくれる子がいいんだよね」


 君みたいに、とまでは言われなかったけれど。それから怒濤の勢いで言い寄られ口説かれ押し切られ、ついには婚約者の立場まで手に入れたのだ。やはりあの時点でジュリアは狙い定められていたのだろう。迷惑極まりない。


「それでも最終的にはおれに堕ちてきてくれたもんな」

「言い方」

「長かったよ……ジュリアの体を手に入れるまで」

「まだです。まだ胃袋までしか掴まれていません」


 婚約したのはつい最近だ。なのでまだ、そういった関係には至っていない。


「それは今後のお楽しみだよね」

「そろそろ黙らないと口に藁でも突っ込みますよ」

「おれはジュリアに突っ込みた……ってごめん悪かったです冷たい眼差しはご褒美だけど侮蔑されるのは堪えるから!」


 ルイスはテーブルに額を擦りつけてジュリアに謝る。


「スープが冷めるから、ほら、食べてジュリア。大丈夫、別におれの血とか肉とか入れてないから安心して」

「今この瞬間安心できなくなりましたけど」


 そう言いつつもジュリアは再びスプーンを動かし始めた。作り手はどうであれ、彼の作る物はとても美味しいと思う。


「ジュリアはそういう所素直だよね」

「なにがですか?」

「ん? おれが大丈夫だよって言っただけですぐ信じるだろ?」


 本当に、なにも入っていないと思ってる? とどこか試すような笑みを見せるルイスに、随分とつまらない事を訊いてくるものだとジュリアは呆れた。


「私が本当に嫌がることをするような人ではないでしょう――あなたは」 


 パチリ、と音がする程に大きく瞬いた直後、ルイスはゴンと派手な音を立ててテーブルに突っ伏す。髪に隠れて見える耳の縁が真っ赤に染まっている。


「ほんっと……もう……そういうところぉ!」

「食事中は静かにしてください」

「おれの気持ちをもてあそんで! 好き!!」

「はいはい、私も好きですよ」

「言葉が軽くない!?」

「その分気持ちは重いから安心してください」

「重さならおれだって負けてないから!」

「ホンモノ相手に勝てるだなんて思ってませんし、勝ちたくもないですね」


 ジュリアがだいぶアレな男に言い寄られているが、それを見事にいなしてそれどころか従えている。そんなジュリアにとっては不名誉極まりない噂が広まり、最終的にその気配があるフレドリック、の、婚約者であるオリアーナを守るためにと専属侍女になったのだ。栄誉ある仕事が、こんな理由の為だと知った時のジュリアの心境たるや。


「あなたのおかげで今の仕事に就けているわけですから感謝してますよ」

「気持ちが欠片もこもってない」

「こめる気持ちはないですから」

「そういう所は可愛くないなジュリア」

「でもそんな私が好きなんでしょう?」

「大好きです!」


 結局は惚れた方の負けなのだ。だからルイスは己の欲は妄想に止め、それをジュリアにぶつける真似はけしてしない。


「あなたのそういう秩序を持っている所が私も好きですよ」

「もし秩序を持ってなかったら?」

「騎士団に即通報します。今生の別れになるでしょうが、来世は一般的な嗜好を持って生まれて来られたらいいですね」

「あれ処刑一択しかないねそれ? 遠方に追放ですらない? でもそうなったら来世でも絶対捕まえてやるから!」

「私が男に生まれていたらどうするんです?」

「その時はおれが女に生まれるから大丈夫」


 そんなにまで自分を好いてくれているのかと、さすがにジュリアの心臓もトクリと跳ねるが、ここで甘い顔を見せると調子に乗られるのは目に見えている。なのでジュリアはそのときめきごとスープと一緒に腹の底に押し流した。

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