第104話 エピローグ2~幼馴染は絶対に負けないのです~

「…う…ん」


意識がうっすらと回復する。人肌を感じる、そうだ私はアルと一夜を共にしたんだ。ついにアルと結ばれたんだ。そう思うと、嬉しさで顔に笑みが浮かんでいるだろう。その時、


「蛍を見た夜に二人で初めてのキスをしたね? 覚えてる?」


「う、うん、良く覚えている」


忘れる筈がないよ。初めてのキス…アルと私の、でも何でそれを?


「フィーネ、好きだよ…いつまでも…」


「私も、うッ!?」


私も、という処で、我に返った。今の私はヒルデ、フィーネじゃない。なのに私はフィーネとアルしかしらない昔話に応えてしまった。あまつさえフィーネという問いかけに普通に応えてしまった。そして、私の腹部からは激しい痛み…視線をお腹に移すと、腹からはアルの魔剣の刀身が突き出ていた。


「…ア、アル」


「やっぱり、フィーネだったんだね? よくも今まで僕を騙してくれたね?」


「ち、違うの!! アル、ごめんなさい、でも、違うの!」


ズシャリとアルが剣を引き抜く、いつかエルヴィンに後ろから剣で刺された時の事が脳裏に過る…違うの…アル…私は涙を流しながら、意識が薄れ、倒れて行った…














「ア、アル!!」


ハアハアと激しい息遣いで我に返る。


「ゆ、夢だったの?」


自身の腹部を見て、先程のが夢だと知り、安堵する。


「でも、正夢になるかも…」


今日はアルと一夜を共にする日、先日の結婚式の日、二人共疲れ果ててしまって、せっかくの初夜はお預けになってしまった。二人共、同じベッドに倒れ込んで寝込んでしまった。朝、起きた時、二人で顔を見合わせて笑いあった。とても幸せな記憶、しかし、


「…アルは気がつき始めたかもしれない」


結婚式を前に、アルは気になる事を言った。まるで私がヒルデあると同時にフィーネ、女神エリスである事に気がついてしまったかのように…


「アルに本当の事を言おう、もし、それでアルが許してくれない時は…」


黙ってアルに斬られよう。


アルには申し訳がない。全ては私が女神エリスから普通の人間になる為…アルに女神を殺させて、女神エリスは消滅する。そして、女神のほとんどの記憶を失くした私、ヒルデが残る。私、ヒルデは本当は一度死んだ。ヒルデの魂は既に輪廻に帰り、この身体は本当の私のものじゃない。しかし、フィーネの魂を吹き込み新たなヒルデとして復活した。女神エリスの記憶の一部と、フィーネの記憶全てを持って…フィーネは死んではいなかった。だから可能だった、女神にのみ出来うる奇跡…一度たりともした事がない奇跡…それを自身の為に使った。


私は女神エリスの死と共に、自身がフィーネだという事、女神エリスだった事を思い出した。封印が解けたのだ。そして、アルへの罪悪感に苦しんだ。アルがどれだけ苦しんだか? ヒルデとして、良く記憶している。全ては女神エリスの計画に従い、私は勇者エルヴィンの慰み者になった事にした。エルヴィンを催眠魔法にかけていたのだ。そして、エルヴィンの子を宿したと嘘を言った。エルヴィンに私を殺させる為に…


その事で、アルがどれだけ傷ついたか? 正直、途中で何度も止めようと思った。でも、止めた場合、どれだけ世界の未来への影響が出るのか計り知れない。


女神である私はそれ程病み、世界を破壊しかねない存在でもあったのだ。


バタフライ効果…蝶々のほんのひと羽ばたきが、世界の未来に甚大な影響を与える。ましてや、女神だった私の行動が少しでも変わるとどうなるか? 私は怖くて、女神の計画に抗う事はできなかった。自身が女神の一部であるがゆえに…


その日トゥールネ城で女王として執務をした。私はフランク王国の女王として即位していた。アルはプロイセン王国の侯爵、リーゼさんはアルザス王国で公爵家を再興した。他のみなはアルと一緒に行動している。


女王としての執務は大変で、あっと言う間に夜となった。そして、いよいよアルと一夜を明かす頃合いだ。


私は寝間着に着替えて二人の寝室に向かった。そして、愛しいアルがそこに待っていた。


私は真っ先に自身が女神であり、フィーネである事を告白した。


「…アル、ヒルデ、どうしてもアルに伝えておかないと行けない事があるの」


「どうしたの? ヒルデ、そんなに深刻そうな顔をして?」


「もし、ヒルデの正体が女神エリスでアルの幼馴染のフィーネさんだったらどうする?」


切り捨てる…そう言われても仕方がない。でも、伝えよう真実を…そしてアルを苦しめた事を謝ろう。


「不思議だったんだ。僕…ヒルデといるととても安心するんだ。理由はわかったんだ、君はフィーネと同じ感じがする。全然似てないのに、不思議だったんだけど…でも、その理由がわかったよ。話してくれるよね? 一体どういう事なのか? 何か理由があるんだろ?」


私は息席切って自分の境遇を話した。女神の事、そしてフィーネは本当はエルヴィンに汚されてなんていなかったという事、騙した事を心から詫びた。


「…そっか…やっぱり君はフィーネだったんだね? 嬉しいよ。女神様だというのはびっくりしたけど、僕の幼馴染は生きていてくれたんだ」


アルの方を見ると、アルの目には涙が…でも、その顔色には喜色が…


「ヒルデの事、ううん、フィーネの事を許してくれるの? フィーネはアルを利用したんだよ。アルを傷つけて、自分が幸せになるために…」


「女神の苦悩はわかったよ。僕は女神様が自分から自分の弱点を言った時、察したんだ。この人は死にたいんだなって…でも、天使や悪魔のお父さんやお母さんの言う事がほんとなら、止めを刺すしかなかった。僕も肩の荷が降りたよ。女神様の死が女神様の願いなら、僕が苦にする事ないよ」


「…アル、ありがとう」


お礼を言う私に近づくアル、そして私の目の涙を拭ってくれた。そして、アルは私に優しくキスをすると、私をベッドに押し倒した。

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