第67話 クソ勇者エルヴィンの受難

フランク王国の首都トゥールネを出発したエルヴィン達はとある噂を耳にする。


『魔王軍が近々大規模な戦闘を仕掛けてくる』


その噂は本当のようで、斥候に出た騎士団やSSS級冒険者が帰還していないという。


更に、天候は大きく荒れており、もしかして、魔王自ら出陣するのではないかと想像できた。


エルヴィン達は急ぎ、戦場である、帝国と魔境の境に向かった。


「勇者ちゃ~ん。今日は私の番よ♡ 楽しみにしてるわよ♡」


「わ、わかった…」


勇者エルヴィンは念願のハーレムの夢が叶っていた。相手は全員男だが…内面は不明だ…

彼は散々掘られまくって、ケツが痛いし、ぢができたから、許して下さいと懇願したところ、掘れっ…と言われて、やむなく掘った。それで、このあっち系の冒険者達の心をがっちりと掴んでしまった。


彼は毎夜メンバーを入れ替え、とっかえ、掘りまくる。本人の意思とは関係なく…


「今日の夜が楽しみだわぁ~ん」


「あ、あ、そうなのか? は、はは」


もちろん、エルヴィンにはそっちの趣味はない。彼は性被害にあっているのだが、彼は奴隷な為、合法なのである。男の奴隷のそっちの方向の予防の法律が実は無いのである。思わぬ法の盲点であった。もちろん、ダニエル侯爵はこうなる事を予想していた。


☆☆☆


勇者エルヴィンのパーティは遂に戦場の補給基地のある街まで来ていた。そして、最初の任務を街の防衛隊の指揮官ミューラーから下命された。


「随分と平和な処だな」


「見た処、強い瘴気は感じないね」


「そんな事、どうでもいいだろ! 早く森へ入ろ」


「みな、冷静にね。この付近は高難易度に指定されているわ、何かある筈だわ」


深い森に進むエルヴィン達、だがエンカウントするのは弱い魔物ばかりだった。


途中、仲間の冒険者達や騎士団が目に入るが…


エルヴィンが鑑定スキルで確認するが、誰もが低レベルと思われた。


彼から思わず苦笑の笑みが漏れた。


エルヴィンは、彼らが必死に戦っているところ悪いが、ここは自分が任務の対象の魔族をあっさり倒させてもらおうと思っていた。彼は魔族と戦った事がなかったにも関わらず…

エルヴィンは処罰を受けても、未だ反省する事無く、アルと国王が悪いと信じていた。


自身が受けた仕打ちは不当で、この戦場で活躍し、武勲をたてれば国王も彼の地位を再考せざるを得ず、庶民は彼の武勲を褒め称えるだろうと考えていた。


これまでの恨みを晴らし、先ずは魔族を倒して、自身の名を万民に知らしめてやろう。


本気でそう考えていた。


「みんな、行くわよ!」


「「了解」」


「は、はい」


名を売ろうとするエルヴィンだが、彼は奴隷であり、名を売るのは、この冒険者で、彼ではない事を知らない。それに、どのような武勲をたてても、国王は決して彼を許す事はないだろう。何故なら、国王が激怒したのは、彼の愚行や悪行であり、武勲が足りないという理由ではないからである。彼が再評価されるには、人格を改めるか…魔王でも討伐するしかない。


☆☆☆


「ひいいいいごめんなさいいいいい! なんなんだあれわぁ!!」


「待って、一人だけ逃げないで!!」


「みな、早く逃げるの! あんなのに勝てる訳ない!」


浅黒い肌の魔族が凄まじい瘴気を伴い、追っかけてきていた。


更に高位の魔物が数十!

魔物だけなら、問題ない。彼らのパーティなら、十体だろうが二十体であろうと容易に勝利を勝ち取る事が出来ただろう。


しかし、魔族…魔族は勇者の聖剣のみ有効だ。従って、パーティメンバーは支援しかできない。だが、エルヴィンは試練のダンジョンでほとんど戦った経験がない、本当の意味の経験値が足らない。彼が魔族に一撃を入れる事など不可能なのだ。

しかも彼らは森の中盤でこの魔族とエンカウントした。つまり、この魔族は斥候役の下っ端で、彼らが任務を達成できる筈など無かった。


「俺達、ヤバイ処に来ていないか?」


「お黙り! あんたが下手を討っただけでしょ!」


「この卑怯者!」


「役立たず!!」


エルヴィンはパーティメンバーが折角作ってくれたチャンスをことごとく逃し、聖剣の一撃を入れる事が出来なかった。その上、仲間を見捨てて、真っ先に逃げた。メンバーが激怒するのも無理はない。


「畜生! 見込み違いもいいところだ!」


彼はあっさり魔族を倒して、奴隷から解放してもらうつもりだったのだが……


全てはレベルを上げる経験値を安全に手に入れていた為、戦いの本当の意味の経験値がないエルヴィンが悪い。


「マジで役に立たないわね! この糞勇者!」


「す、すいませんでした!」


彼が珍しく謝ったのには訳がある。この後のお仕置きが予想できたからだ。


☆☆☆


何でだ? 何故俺がこんな目に? 俺は勇者なんだぞ? それに比べて、あの足手まといのアルは! アルがヒルデやリーゼ達を連れて美少女ばかりで構成された勇者パーティを編成しているのは有名な話で、彼の耳にも入っている。


『畜生! こんな事があっていい筈がねぇ! 俺は勇者だ! 足手まといのアルとは格が違うんだぁ!』


格が違うのはもっともで、アルが上であり、彼が最下層なのは言うまでもない。これだけ差がつけば、わかりそうなものだが、未だに判らないエルヴィンだった。


こうして、エルヴィン達のパーティは街の宿までほうほうのテイで帰還した。しかし、


「よくも、一人だけさっさと逃げたわね?」


「あなた、プライドは無いの?」


「それでも勇者?」


「い、いや、俺は、その…」


迫る、怖い冒険者達…


「今日はみなで、コイツを回すわよ!」


「ふふっ、そうこなくっちゃ!」


「たっぷり可愛がってあげる!」


「や、止めて! 止めてくれ!!!!」


その夜、エルヴィンの悲鳴が何度もこだました。因果応報である。

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