第66話 魔族
僕達が街の中央の軍施設に近づくと、突然大爆発の音がした。大きな爆炎が現れると周りが一瞬夜の様に暗くなる。そして肌を焼くような熱波とともに、魔物を焼き尽くした。
「生存者がいる! アルザスの騎士団は未だ抵抗している!?」
それはアルザス騎士団の最期の抵抗なのだろう。この要塞に立てこもったからと言っても、援軍が来るあてはない。現状だと、人の軍勢は敗走を余儀なくされている。この戦いに待っているのは…。もちろん魔族に降伏という手はない。魔族の食料になるだけだ。
騎士団は軍の施設を要塞化していた。建物は頑丈そうな小さな城の様な作りだ。その正門を剣を持った騎士と、それを援護する魔法使いの騎士。彼らは生還の可能性が無い事を知りつつも、尚も戦っていた。
「小隊長、もう魔力が尽きました!?」
「魔法使いは負傷者をおぶって退避!」
「えっ? 小隊長達はどうするので…」
「俺と心中してもいいヤツだけが残れ」
「そ、そんな…」
正門での戦いは限界にきていた。既に指揮官は玉砕覚悟だ。
僕はみなの顔を見た。みな頷く、彼らを救う。そして、ミュラー騎士団長も!
「騎士のみなさん、助けに来ました!!」
「な、何だって!?」
「え、援軍なのか?」
騎士達は死地の中茫然と僕達を見た。僕達は次々と高位の魔物を切り払い、或いは殴り、銃で射殺し、矢で射殺して、聖剣、魔剣、魔針で魔物を蹂躙した。
「もう大丈夫です。この付近の魔物は殲滅しました。この正門は放棄して、帝都へ逃げてください、どうか逃げ延びてください! ミュラーさんは僕達が必ず!」
「ほ、本当に援軍なのか?」
「急いでください。帝都までの道に魔物が舞い戻って来てしまいます」
「わかった。ありがとう。君の名は? さぞかし名のある方なのだろう?」
「僕は唯の底辺回復術士です。僕の事はいいから、早くお願いします!!」
「わかった。詳しくは問わん。要塞の中央の団長を頼む。南門が陥いていなければ…」
こくりと頷くと、僕らは要塞の中央へ向かった。しかし、中央からも戦いの音が聞こえてきた。南門が陥ちたのか? 僕らは急いで魔物を殲滅しながら、中央を目指ざした。
「闇黒灰燼‐宵闇!」
「神聖流星剣!?」
「いけぇぇぇぇぇぇえ!」
次々と魔物を殲滅する勢いで僕達は中央への渡り廊下を駆けあがった!
―ゾクり…
何だこの感覚は? 似ている…僕の魔剣に似ている…そうか、魔族か? それにしてもこの禍々しさ。突然肌がざわつき、異様な気配を感じて後ろを振り返ると…。一掃したはずの魔物が再び現れて…通路が埋め尽くされつつあった。
「そ、そんな……だってさっき殲滅したじゃないか?」
さっきの騎士達は? 絶望感が僕に襲い掛かる。そして、中央に到着すると、そこには…
「リーゼ? リーゼなのか?」
聞きなれた声が聞こえる…。ミュラー団長の声だ。
「ミュラー団長?」
「ミュ…ミュラー」
リーゼの声が氷つく、そこには両腕を失ったミュラー団長が一人の女性の遺体に寄り添って瀕死の状態でいる姿が見て取れた。
「リーゼ…久しぶり…ではないか。…随分と会っていなかった様な気がする。もう少し早く来てくれたらな……。いや、こんなに早く来てくれてありがとう…と言うべきか…」
ミュラー団長は乾いた声でそう言った。
「ミュラーさん! 今、治癒の魔法を!?」
「いや、無駄だ。私は既に死んでいる。これは君達に精神的なダメージを与える為の罠だ。気をつけてくれ…ははは、妻を守れなかった。私に生きている資格などない」
「そんな、ミュラーさんは生きているじゃないですか!!」
「そうです。生きている! ご主人様、お願い!!」
リーゼが治癒の魔法を促す。例え両腕を失っても、ギガヒールなら命は繋ぎとめる事ができる筈。僕はギガヒールの魔法を唱えた。だが…
「な、なんで? なんで治癒の魔法が効かないんだ?」
「アルベルト君…。私は既に死んでいる。死者だ…。魔族がじきに来る。私は捨て置け」
「そ、そんなミュラー、私、いったいどうしたら……」
「リーゼ、君がすべき事はたった一つ…これから現れる魔族を倒してくれ。私達の仇を」
「………」
「リーゼ、君とは良い関係だった。妻に出会わなければ…。いや、忘れてくれ…。私は少し疲れてしまった…妻も待っているし…。だから、これから先は君に任せた……」
ミュラーさんは奥さんを愛おしそうな目で見ると、身体が崩れて黒っぽく細かい粉が、蛾の翅はねの粉を撒いたように巻き散って消えて行った。
「ミュ、ミュラー!? わあぁぁぁぁぁあ!?」
リーゼが絶唱する。古い知人のミュラーを失った彼女の気持ちはよくわかる。出会ったばかりの僕もかなり辛い。
みな死んでしまう。誰も救えない? 僕は何の為のここに来たんだ?
ミュラーさんの最期は少しだけ安堵の表情を浮かべた様に見えた。
その時、激しい瘴気が渦巻いた。ゾクっとする程冷たい瘴気を纏って何人もの異形の者が現れた。魔族…だ。
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