第58話 再びアマルフィのダンジョンへ2

前方の魔物を見る。トゥールネのダンジョンに比べるとかなり楽だが、さすがに最下層まで来ると魔物の強さが明らかに強いと分かる。


前方にナディヤがライティングの光を投げると、アークデーモンがその姿を表した。姿を現したそいつらは、こちらを睨み付けていた。


「全く人に憑依したり、隠れ潜んだり、待ち伏せ攻撃する、数にモノを言わせる。全く魔族は狡猾だな。卑怯としかいいようがないね」


「アル、魔族に正々堂々を期待するなんて無駄な事よ。人間と同じ価値観があれば、そもそも和平への道だってあるわよ。歴史上、和解した事は一度もないのよ、それが魔族」


「そう言えば、そうだね。分かり合えれば魔族と戦争なんてしないか」


「そうよ下僕、わかったら、さっさと戦ってご褒美の鞭を受けなさい」


「いや、その僕のドM設定…できればやめてください」


「えっ? アルってドMの変態じゃなかったの? それにハードプレイや変態プレイが好きな、性に関してはアウトな人じゃなかったの?」


「ち、違うよ! みなそんな風に思ってたの?」


僕は憤慨した。ヒルデやリーゼと話してたら、とんでもない誤解がある事がわかった。


「お兄ちゃん、見苦しい言い訳はやめた方がいいわよ。お兄ちゃんは妹のロッテとキスしちゃうような変態なんだからね!!」


「ロッテがそれ言う?」


ロッテは不意をついて僕の唇を奪ったくせに、僕から求めたかのように言うな!


「でも、ロッテはいつでも受け入れるよ…お兄ちゃんの気持ち…一緒に地獄に堕ちようね!!」


「下僕の性欲は実の妹にも及ぶのね。全く変態も大概にしなさい」


「ロッテとは血が繋がってないから!」


「血が繋がってないならいい訳ね、流石変態ね」


怖いから言い返さないけど、僕、どんなけ変態と思われているのだろうか? というよりそんな変態のどこがみないい訳?


一瞬失念していたが、階層主のアークデーモンが出現してたんだった。


だが、アークデーモンは一向に動く気配がない。


「随分と余裕をかませてくれるわね。私を侮っているのかしら?」


「魔族を侮る程馬鹿じゃない! とうとう姿を現したか、アンナ? いや魔族!」


2体のアークデーモンの間からアンナが姿を現した。アンナの正体は魔族、アンナに憑依している筈だ。倒せばアンナを取り戻せる。


「私を滅ぼしたら、この娘の命は果たしてあるのかしら?」


「……汚いヤツめ」


魔族の言葉に、僕は怒りに打ち震えた。


アンナは主人のティーナ王女と主従というより友達だ…それも仲の良い…必ず生きて取り戻す!


「薄汚い魔族、お前の正体、名前はなんなのかしら? 倒す相手の名前くらい覚えておいてあげるから、さっさと名前をおっしゃい」


リーゼが魔族の名前を聞き出そうとする。これはリーゼの意図ある問いだろう。少しでも敵の情報が欲しい。


「人間如きが私になんと不敬な。だが、教えてやろう。死んでいく者に少しは情を与えよう」


リーゼの毒舌にまんまとハマる魔族、流石リーゼだ。


「私は、蝿の王ベルゼバブ様のしもべ、ニベルコルだ」


「つまり汚物にたかる蝿に更にたかる汚物な訳ね」


「何っ!?」


魔族を纏う黒い瘴気が、揺れ動いた。魔族が怒ったのだろう。


「人間の姿のままで、戦えるのかしら? 人のままだと魔族の力は発揮出来ない。違うのかしら?」


「言われなくとも、今、私いや我の真の姿を見せてくれる!」


「魔族の姿になると、憑依した人間とは切り離される訳ね?」


「ッ!」


今、魔族が明らかに動揺した! つまり魔族の姿になっている時にいくら攻撃してもアンナに危害は加わらない。シュミット侯爵も人間なら死んでいる攻撃を受けた。でも、侯爵は衰弱しているだけだった。


「リーゼ、ありがとう。安心して戦えるよ」


「下僕はそんなにリーゼを凌辱をしたいの? 舐めるように見ないでって何度言えばいいのかしら? 本当にあなたは気持ち悪いわね」


なんで僕がいつもそんな風に言われるの?


「魔族と言っても小物のようね。魔族も人材不足なのかしら?」


「ぐぐ……っ!」


リーゼの嘲りに怒りが頂点に達した。魔族が黒く禍々しい光の粒子をまき散らすと、炎の帯を額に巻き頭には大きな角が二本ある。足はアヒル、尻尾は獅子、全身が真っ黒な魔族が出現した。そしてアークデーモンが動き出した。


リーゼのおかげで、安心して戦える。よし…これからが僕の出番だな。


僕はリーゼの指揮通り、右側のアークデーモンに向かって攻撃魔法を放つ。


アークデーモンは人間に非常によく似ているが角があり,鋭い牙を持ち,高貴な服装、炎の鞭を使いこなし残忍極まる性質だ。油断できる相手じゃない。


どちらかと言うと全体魔法攻撃が怖い魔物だ。強い魔法が来る前に倒したいが、僕の魔法を受けても魔法障壁でレジストした。ダメージは与えているが、呪文詠唱を阻止できない。


ならば剣で切り込む!


「はあっ!」


僕が魔剣の斬撃を魔物に与えたと同時に、ヒルデが左側の魔物に斬撃を与える。


しかし、このまま2体の魔物と魔族同時に対応するのは厳しい。魔族の魔法攻撃も油断できない。


その時、リーゼからロッテに指示が出る!


「ロッテさん! 魔族と魔物の間に土魔法で壁を!」


「はい、リーゼさん! 『ストーンウォール』!」


石の壁が魔族と魔物、僕らを分断する。上手い! これだと魔族は攻撃範囲を特定できない。


僕達は魔族を気にせず戦えた。


「いやあ!」


「えい!」


ロッテの攻撃魔法で隙をついて僕とヒルデの魔剣、聖剣がアークデーモンに止めを指す。


リーゼの戦術は上手い、それに仲間の存在は大きい。僕とヒルデが魔物と相対している間にロッテとナディヤの支援攻撃、時折リーゼの魔弓やナーガの攻撃魔法が飛んでくる。


仲間がいる事で選択肢の幅が大きくなる。発想力一つで僕らの力は何倍にもなる。これがパーティ。これで、邪魔者を相手する事なく、魔族に集中できる。


思えば僕はエルヴィンの勇者パーティで居場所がなかった。僕は自分がいていい場所を手に入れたんだ。


『ティルトウェイト!』


魔物が滅びたのを察したのか、魔族が最大の攻撃魔法で魔物ごと石の壁を吹き飛ばした。前方から激しい轟音が聞こえる。


土の壁の残骸が降り注ぐ中、段々とアンナ、いや魔族が姿を現す。しかし、魔族の姿は黒い霞がかかり、黒い粒子に包まれ、再び姿を変えた。


「それがお前の本当の正体か?」


僕が魔族に問うと、魔族は答えた。


「ヒッヒッヒェヒェ…ヴゥゥッ…」


この魔族の真の正体は…蛙か? 蛙と人間が混ざったような姿。皮膚はプルプルとして気持ちが悪い。


さて、どう戦うか? リーゼの指示を待つ。


「下僕と馬鹿王女、二人は前衛に、ナディヤさんとロッテさん、ナーガさんは後方支援宜しく! 先ずは様子見よ。蛙の化け物という事はわかったけど詳しい事はわからない」


「わかったリーゼ、ヒルデ! いくぞ!!」


僕とヒルデが前衛に出る。そして魔族に斬りかかる。たちまち通常なら致命打となる斬撃が僕とヒルデから叩き込まれる。しかし、


「ハハハハッ、無駄無駄無駄ぁぁ!? 不死の我にその程度の攻撃は効かん!」


「くそ!? 斬っても斬っても!」


「ナディヤさん! 魔族にヒールを! 効果がある筈よ!」


リーゼの指示に納得する。この魔族は自身を不死と言った。不死、アンデッドの弱点は聖水か回復魔法を与える事! そう本来生者へ回復を与える治癒の魔法は不死の魔物、魔族には大打撃となる。


「この世ならざる者どもよ 歪みし哀れなるものよ 聖なる癒しのその御手よ…」


ナディヤが治癒の魔法詠唱に入る、威力を考えて詠唱魔法だ、だが!


「な、何?」


「き、消えた?」


魔族は突然姿を消した。そして、ナディヤの目の前にその姿を現したのだった。

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