第59話 再びアマルフィのダンジョンへ3
忽然と姿を消した魔族は後衛のナディヤの直ぐ目の前に姿を現した。転移の魔法だ! それも無詠唱、魔力の痕跡もない。隙をつかれた。まんまと後衛への侵入を許してしまった。
「ナディヤ! 気を付けろ!」
「気を付けてナディヤさん!」
僕とヒルデが声を荒らげる。前衛を突破されてからの後衛への攻撃は最悪の状態だ。後衛職は接近戦向きじゃない。普通なら…
最後衛のリーゼが剣を手に魔族に向かうが、一瞬遅い。
「ははははははー! 死ね!」
「あれ? ナディヤ命を狙われちゃいましたか☆ てへ☆」
そう言ってナディヤは手に
「な、何?」
「ざ・ん・ね・~・ん・でした☆」
銃声がこだまする。ナディヤに宿った『戦士の銃』のスキルだ、それをリーゼが『魔銃』へ編集した。そして、近くにいたロッテが魔族に襲い掛かる…普通逃げるところなんだけどね。
「この卑怯者! ぶっちめてあげるからね!」
「な、なんで、後衛が殴りかかって、あぐ! へぐっ!」
魔族はロッテの『魔拳』によってタコ殴りにされている。
「そ、そんな馬鹿な! こんな、ひ、卑怯な!」
「誰が卑怯よ! 姑息な真似をしておいて!!」
リーゼが魔剣を手に斬りかかる。リーゼは魔弓の他、魔剣のスキルを僕が付与した。そして、
「お命頂戴しますわ。同胞の方」
ナーガが蛇の身体で魔族をグルグル巻きにすると、魔族に『魔針』を突き立てる。
「い、嫌~! 嫌すぎる!?」
魔族は叫ぶと再び姿を消した。また転移の魔法だろう。だが、今回は完全に魔法の痕跡を消す事ができなかったようだ。余程慌てていたのだろう、先程と違って、転移先がバレバレだ。
「な、なんて勇者パーティ! 後衛の方が怖いではありませんか!?」
「何だって? 僕達前衛が弱いとでも言うのか?」
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃいー」
一足先に魔族の出現地点に先回りした僕の目の前に魔族が現れる。全く、僕とヒルデの前衛よりロッテやナディヤの後衛の方が怖いって、失礼なヤツだな!
魔族のでかい目が更に大きく見開かれていた。間違いなく、驚愕していた。
全く、この魔族は人間が弱い事を前提に作戦を考えていたな。だけど僕達はそれを逆手にとった。魔族や高位の魔物が後衛を狙うのは常套手段だ。もちろん、これ程鮮やかに僕とヒルデの前衛を突破したのは見事だろう。
…自分が圧倒的に強いと思っていたんだろう? だから弱い後衛を責めれば簡単に倒せると?
残念だったね、僕達のパーティは違うんだよ。普通の勇者パーティとはね。
僕は最大魔力を込めた魔剣を振り下ろし、魔族の身体が縦に半分になる。
「おのれ! き、貴様! ……何故だ? 何故ただの人間の剣で我が……!」
「残念だね。僕の剣は魔剣だ。魔族をも滅ぼす力を持っている。アンデットにも効く様だね」
僕は再度剣を振るって、魔族の首を吹き飛ばす、宙に舞ってくるくると回り…魔族の最期だ。
僕はヒルデの方を見ると、ニッコリ笑った。そしてみんなの方を見た。
この魔族の敗因は僕達と対峙した事だった。このメンバーの中に1対1で戦っても魔族に勝機は無かった。ましてや僕達パーティに戦いを挑むのだなど…
魔族には後悔する時間も無かったろう。アンデットの魔族らしく、灰となり、消えて行った。そして、代わりに横たわり消耗しきったアンナの姿が現れた。
「ナディヤ、治癒を頼む!」
「あれあれあれ? もしかして先輩、自分が回復役だって事忘れてませんか?」
「秒で忘れてた…」
「あれあれあれ…秒でいなされた…」
僕達のパーティの絆を完全だな。みな同じ気持ちだろう。このパーティには前衛も後衛も関係ない。後衛も前衛職を兼ねる事ができる。つい先ほどまでは後衛の護衛はリーゼが行っていた。前衛が突破された時、背後から不意打ちを受けた時の保険…だが今の僕達は誰もが前衛も後衛も務める事ができる。完全なパーティ。死角は何処にもない。
「みんなありがとう。みんな強くなったよ。多分、僕達、魔王を倒せると思う」
僕の一言はみなの緊張を和らげた。そして、ヒルダをはじめ、みな同じ気持ちだった。
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