第47話 アマルフィのダンジョンへ3

ダンジョンは普通の洞窟とは違う。真四角の通路になっており、明らかに人工、いや、魔族の手によるものだ。その色はほのかな魔の光を放っており、多少は見える。しかし、ところどころに暗い場所があり、大抵魔物が配置されている。


魔族が作ったダンジョンは、いくら魔物を倒しても、あくる日には魔物は復活している。そして、魔族が倒されるまで、強い魔物が生み出され過ぎて、遂にはダンジョンの外まで魔物があふれ出る。その為、この手のダンジョンの魔族討伐は最優先事項となる。


「作戦だけど、中間層の第5層までリーゼが先頭で、それから僕が先頭にたつよ」


「そんなに私に期待しているのね。下僕の命令とはいえ、期待するなら応えてあげてよ」


リーゼは毒舌なものの、僕の指示に従わないという事は一度もない。というか、彼女は隷属の魔法が施されていて、僕の命令を無視したり、僕を裏切ったりはできないんだ。


「トゥールネのダンジョンは先駆者がいなかったけど、ここは大丈夫。第5層までは他のダンジョンとそれ程変わらない。第1層からいきなりロイヤルオークという事はないよ」


僕が説明しながら歩いていると、奥から鎧の音が聞こえてくる。


おそらく魔物だろう。それも鎧を纏った人間型の。


ナディヤが光ライティングの魔法を前方遠くに投げる。


魔物の真上に光が宿った瞬間、鎧の音を立ててやってきたのは……!


「不死の魔物、スケルトンだ!」


「見ればわかるわよ、下僕は頭が悪いのかしら?」


毒舌を吐くも、リーゼが接敵する。


「リーゼ、慎重にね!? ステータス上がっているから、最初は戸惑うから、注意してね」


「下僕はそんなにリーゼの事が気になるのかしら、今すぐ告白してもいいのよ」


リーゼが剣を構えると、多数のスケルトンが斬りかかってきた。


僕が光魔法でいつでも支援できる状態にして、待機しているが、リーゼは一人で簡単にスケルトンを倒した。スケルトンはアンデッドなので、中々死なない。しかし、リーゼはスケルトンを完全にバラバラにしてしまった。アンデッドとはいえ、身体が動かす事ができないと、戦えない。そして、僕とナディヤで、光魔法の攻撃魔法で完全に止めを刺す。スケルトンはすばしっこいので、光魔法の攻撃魔法を命中させるのは難しいのだ。一旦動かない状態にする必要がある。


「やっぱり、リーゼはかなり強くなっているね。でも、大丈夫だった?」


「下僕は私の身体に傷がつくのが嫌な様ね、そう、今夜にもリーゼを凌辱しようと企んでいるのね! 気持ちが悪い雄豚ね。一度死んでみたいのかしら?」


「リーゼ。もっと僕に心を開いてくれないかな。僕はリーゼの事が好きだから」


あれ? 僕簡単に好きって言っちゃった。さっきはあんなに恥ずかしくと言えなかったのに。

リーゼが恥ずかしがり屋で 不器用で、毒舌で素直じゃないところ。でも本当は僕に深い感謝と愛情を持っていてくれる事。ホントは可愛い女の子な事。意外とドジで、安普請な宿で、僕への気持ちを盛大に暴露してしまっているところ。僕にかまってもらいたくて仕方ない事…僕はそんなリーゼに心を奪われた。リーゼの不器用な愛情表現も変なところもひっくるめて、僕はリーゼが好きだ。


少し間があって、リーゼは顔を真っ赤にして、一言、言った。


「ご主人様、ありがとう。こんなに可愛くないリーゼを好きと言ってくれて…」


聞き間違い……じゃないよね?  今、ありがとうって言ったよね?  毒舌なリーゼが素直に僕にお礼を言ったの?


「リーゼ!? 今!!」


「さて。次へ進みましょう」


「い、いや!? 今、お礼を言ってくれた!?」


「お礼? 何を言っている意味がわからないわ」


「今『ありがとう』って言ったよね!?」


「下僕にお礼を言う訳がないわ。下僕は頭だけじゃなく、耳も悪いのね。医者に行きなさい」


誤魔化そうというリーゼをそれ以上追及しなかった。何故なら、小さな声で、


「そんな事、言ってないもん!」


涙目でリーゼは言ったのだ。デレてる時のリーゼは凄く可愛い。でも、これ以上追及すると泣いてしまいそうで、怖かった。


そうこうして、僕らは第5層まで順調に来た。第5層の最期の魔物はファイヤードラゴンだった。やはり、リーゼを中心に戦うが、


「ロッテ、ナディヤ!! 支援魔法をリーゼに!!」


「分かってるわ、お兄ちゃん!!」


「了解です。先輩!!」


ロッテがデバフを入れる。簡単に入った。魔物の防御力が半減する。ロッテの魔力は僕のステータス10倍のおかげで、とてつもなく上がっている。デバフを外すのは魔族位だろう。というか、魔族は基本デバフは入らない。


そして、ナディヤの強化魔法が発動する。パーティ全体では無く、リーゼだけのステータスを2倍にする。既に10倍のリーゼは更に2倍に…つまり20倍だ。


唯の底辺剣士のリーゼが、ファイヤードラゴン相手に一人で余裕で対応する。


リーゼの剣は僕があげたデュランダルという名剣だ。斬れない物はないとすら言われる。既に手慣れたもので、両手剣のデュランダルを片手に持ち、龍の目に向かって剣を振り下ろす。


流石にステータス20倍のリーゼは本当に強い。龍相手に一刀両断とまではいかないけど、目を潰した後は、一撃で龍の鱗を貫通し、首に深い傷を与えることができた。龍がリーゼの剣による大ダメージに咆哮をあげる、僕は頃合いだと見定めて。


「ドラゴンはもう素早く動けない筈だ。そろそろトドメだ『フリーズ・ブリッド』!」


僕の氷の攻撃魔法が発動して、ファイヤードラゴンの胸に大穴が開く。これで龍はほぼ戦闘力を喪失した筈だ。


「トドメよ!?」


リーゼはそう叫ぶと、ファイヤードラゴンの首に向かって、剣を振り下ろした。


剣を受けた龍はあっけなく首が落ちて、崩れ去る。


アマルフィのダンジョンで、リーゼの成長を感じながら、僕達は更に先へと進んでいった。

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