ディアーナ式剣術
先生役として学園に来ている王宮騎士は、剣術補習に来ている生徒全体をみなければならないため、ラトゥールに付きっきりという訳にはいかない。ましてやラトゥールは剣術は素人どころか、自分はまったく向いていないと思い込まされてきた事もあって何も知らない本当の初心者よりもたちが悪かった。
「たしかに、ラトゥール様は筋肉とかつきにくいのかもしれないな」
クリスが、ラトゥールの二の腕をぷにぷにと掴みながらそんなことを言う。
「背も低いし、ひょろひょろだし」
「入学した頃よりは、体力ついた」
「わかってるよ」
今日の剣術補習は木刀に炎をまとわせる練習をしている。相変わらずの木屑を固めた剣を手に、周りの生徒達が次々に剣を灰にしていっている。講堂の床には灰と焦げた木屑が散らばっている。
木剣にそのまま炎をまとわせれば燃えてしまう。それは、真剣になったところで同じで、持ち手は熱くなってしまうし刀身も熱で柔らかくなってしまう。
ではどうするかというと、この前にならった魔力で木刀を強化する方法を使うのである。まず、魔力で木刀を強化して、その魔力の層の上に炎をまとわせる。それができれば、木屑を固めて作った脆い木刀でも崩れないし燃えないのだ。
「こんな感じ」
ラトゥールは、いとも簡単に木刀に炎をまとわせて見せた。独学で、コツコツと魔力制御を勉強してきたのは伊達では無いのだ。
「うーん。ラトゥール様はやっぱり魔法が強いな。この時間に俺が剣の基礎を教えるのは逆にむだかもしれないな」
ラトゥールは、ジャンルーカと一緒に毎朝走り込みをしているので体力はちょびっとだけ増えた。週に何度かある剣術補習でクリスから基本のキを学んだが、まだ立ち方や剣の握り方ぐらいしか身につけていない。
「ちっちゃいし軽いし細いしなぁ。剣術の方はカイン様にお願いして、ここでは魔法剣の習得に集中した方がいいかもな」
クリスの言葉に、ラトゥールが首をかしげる。
「なぜ、カイン先輩?」
「そりゃあ……」
燃え尽きて持ち手だけが残った木屑の剣を、クリスはゴミ箱へと放り投げた。
「ディアーナ嬢に剣を教えたのは、多分カイン様だからな」
水曜日の放課後、使用人控え室にカインが行くとラトゥールに向かって高笑いをするディアーナがいた。
「おーほほほほ。さあ、ラトゥール様! 私を師匠と呼んでくださってかまいませんのよ!」
「……いや、私は、カイン先輩に……」
「私の技は、カインお兄様とイル君の二人から授かり、私の努力で融合、昇華された私だけの技ですのよ! その私のように戦いたいというのであれば、私に師事を仰ぐべきでは無くて?」
「……そう、なのかな? そんな気も、してきた」
「だまされるなよ、ラトゥール。おそらくディアーナはグッと構えてバッと振るって言い出すタイプだ」
「失礼ですわよ! アル殿下!」
一年生組がわぁわぁと騒がしいのを横目に、カインはソファーまで進むとそっと腰を下ろした。
「賑やかだね」
「ラトゥール様が、お嬢様のような身軽な剣を教わりたいとおっしゃったんです」
サッシャがすすすとソファーの側まで静かに移動してきてそう教えてくれる。イルヴァレーノは簡易キッチンへと向かってカインのお茶を用意している。
「ラトゥールには、クリスが剣術を教えるんじゃ無かったっけ」
「ラトゥール様は背も低いし細いし軽いんですよ。俺やアル様みたいながっしり系の技を身につけるより軽さと速さを武器に速攻をかました方が勝ち目があると思うんですよね」
「成長期だし、ラトゥールがずっと小さくて軽いわけじゃないだろう」
カインがディアーナに教えたのは、体の軽さを活かしたスピード戦法だ。
相手が剣や槍なら懐に入り込めれば打たれ難くもなる。
女の子の腕力では男の子には勝てないので、体重や加速、遠心力などを剣にのせて相手にぶち込めと教えてある。
クリスやアルンディラーノの話によれば、ラトゥールも壊滅的にセンスが無いわけでは無いらしく、体力が無くて基礎が無く、剣に対する恐怖で体がすくんでしまうのが問題らしい。
いずれ体力がついて男の子らしい体つきになってくれば、普通の剣術を身につけた方が良いにきまっている。
「夏休みになれば、さすがに寮生じゃない生徒は寮から追い出されるらしいんですよ」
クリスが、ディアーナとアルンディラーノの口げんかの間でおろおろしているラトゥールをみながら口を開く。
「とりあえず一撃。夏休み前までにカマしてやるには時間が無いんですよね」
「なるほどね」
クリスが、思った以上にラトゥールに親身になっている事に驚きつつもやろうとしていることはわかった。
カインとしても、落とし所としては魔法剣士を目指して『魔法学園からでも騎士団入団を狙える』と家族に認めさせるのが良いだろうと思っていた。
元々魔法のセンスが良かったラトゥールは、剣に魔法をまとわせるのは得意らしい。
「よっし。じゃあ、ラトゥール君を強くする会を始めようか!」
カインはソファーから立ち上がると、ディアーナとアルンディラーノの間に入ってそう宣言した。
ひとまず、ラトゥールの視線を相手に読ませない為に決戦の日までは瓶底眼鏡のままで行くことにした。
ディアーナが剣術ができる事は秘密であるため、ディアーナ式剣術の練習は使用人控え室で行われた。
それと同時に、剣術補習の時間にはクリスから剣を振ると同時に魔法を発動する方法を教わり、飛距離を伸ばす練習を繰り返し行った。
時々、アルンディラーノ対ディアーナの模擬試合を室内で行っては、ラトゥールがそれを見学して自分の動きに反映して行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます