三人寄れば文殊の知恵
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「お茶会の仇はお茶会で取り戻す」というケイティアーノのアイディアは、至極単純な物だった。
『お茶会を開いてお相手の令嬢をご招待し、話し合いで誤解を解きましょう』という内容である。
なにせ、令嬢を怒らせてしまったカイン本人は外国に留学中でここには居ないのだから、「カインが謝罪をする」という一番の正攻法が使えないのだ。
もちろん、
「お金で雇ったチンピラに襲わせて、そこにカインが颯爽と現れて令嬢を助ける」だとか、
「毎朝起きると窓辺に花が一輪置いてあり、正体を探ろうとして夜更かししていたら月夜に光る金髪三つ編みがひらめくのを見かける」とかいう、
最近読んだ本の影響をバリバリにウケているアイデアも使えないのである。
カインがいないうちに、カインが帰国しやすい環境を整えたいディアーナは、一番まっとうで一番地味なケイティアーノの案を採用することにしたのだった。
しかし「お茶会でお話し合い作戦」は内容そのものはとても単純なのだが、それを実現しようとするとなかなか難しいもので、ディアーナとケイティアーノが額をくっつけて話しあってもまとまらず、後日相談相手を増やしてさらに話し合いをした。
刺繍の会で知り合って仲良くなったノアリアとアニアラである。
「まず、カインお兄様が怒らせてしまったご令嬢とつながりが無いのが問題ですの」
「みんな、年上のお姉様ですもんね」
ノアリアとアニアラは朗らかに笑ってそういった。
エルグランダーク邸の中庭、カインお気に入りのちょっと寂れた東屋でお茶を飲みながらの優雅な相談会である。
お友達を招待しておいて、ちょっと寂れた東屋を利用するのもどうかと思うのだが、意外と友人達には『隠れ家っぽくて良いですの』『内緒の相談事ですもんね』と好評だったりする。
カインのプレお見合いお茶会の相手はカインと同年代の令嬢だったので、ディアーナ達とは世代が異なる。なので「お友達になりましょう」と親同士が引き合わせると言うこともない。
「私たちよりは年上ですけど、自主的に刺繍の会に参加するには若すぎですの」
「私たちは、アルンディラーノ王太子殿下のお友達候補として呼ばれてるのですもんね」
「うん。そうなの」
ノアリアとアニアラの言葉に、ディアーナも素直にうなずいた。
「あとね、もう魔法学園の学生さんになっていらっしゃるでしょう? お時間を調整していただくのも難しいでのはないかしらってディちゃんとお話していましたのよ」
ケイティアーノがディアーナの言葉に続いて問題点を挙げる。そして、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばして口の中へと放り込んだ。
「甘くないお菓子も、美味しゅうございますわね」
「しょっぱいクラッカーに、甘いクリームを載せて食べるのが美味しいってお兄様がいっていたよ」
「まぁ。ではもう一枚……」
「私も!」
十歳の女の子達は、お菓子が大好き。こんな感じで時々話が脱線しつつ、カインお兄様好感度アップ作戦会議は続いていた。
話が行ったり来たりした結果、結局お相手の令嬢をお茶会に招く方法は思いつかなかった。最後にはサッシャやケイティアーノ達の侍女から『ご令嬢をお招きしてお茶会をしたいと親に相談する』事を勧められてしまった。
お茶会をするとなれば、家の庭かサロンを利用することになるし事前の準備や開催中の給仕、後始末まであるので家の使用人を動かす必要があるのだ。
今日のこのお茶会だって、お友達が遊びに来るよ! という気軽さでディアーナは開催しているが、侯爵家の令嬢三人をお招きしても良いかをサッシャがパレパントルを通じてエリゼに確認していたり、邸のティールーム所属のメイドやシェフ達の予定を調整したりと駆け回ってやっと開催しているのだ。
ちなみに、サッシャは
「ディアーナ様に気取られずに裏方で良い仕事が出来た」
と満足そうに笑っていた。
カインが令嬢を怒らせた理由は令嬢毎に異なっている。冷たくあしらった令嬢と無視をした令嬢では説得方法が違うだろうと言うことで、一人ずつご招待することにした。
そして、カインの良さを知る自分たちがそれぞれ良いところを紹介する事で誤解を解こうと言うことになり、ディアーナの他にケイティアーノとノアリアとアニアラも参加することになった。
「カインお兄様のお優しい所をお伝えすれば、きっとわかってくださいますの」
ノアリアは、刺繍の会で親切にしてもらったことや、失敗をうまくフォローしてもらったことを伝えようと思った。
「カインお兄様は色々な事を知っていて、その知識を惜しげも無く披露してくださいますもんね」
アニアラは、カインが博識なのにもったいぶらず、色々な事を教えてくれる気さくな所を伝えようと思っていた。
「カインお兄様は、ディちゃんに対してちょっと過保護が過ぎるだけなのよねぇ」
ケイティアーノは、ディアーナを無碍にしなければカインは真摯であることを伝えようと思っていた。
友人三人組は仲良しであるディアーナの為に、そして自分たちには優しいカインお兄様の為に力になりたいという善意からの提案だった。
それが、最悪の結果になってしまうとは誰も思っていなかった。
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