お土産が多すぎる
ネルグランディ領の領主城、カインの部屋。
大きく開け放たれた窓からはレースのカーテンを揺らして心地よい風が吹き込んできている。
カインは夏用に用意されている籐椅子に座って、馬車から降ろした荷物を部屋に運び込んでいる使用人たちを眺めていた。
そのほとんどはディアーナへのお土産なので、イルヴァレーノが「それはディアーナ様の部屋へ」「それもディアーナ様の部屋へ」と城の使用人へ指示を出している。
出入りする使用人を縫うように、少年と少女が部屋に入ってきた。
「よう、カイン。すげぇ荷物だな。……ちゃんとウチ用の土産もあるんだろうな?」
「ないよ。全部ディアーナの為の土産だよ」
「ブレないわぁ。安心のカイン様だわぁ」
一旦入ってきてはすぐに出ていく使用人を見ながら、少年がカインに声をかけるがカインの返答はすげなかった。一緒に入ってきた少女の方は呆れ顔の半笑いでカインを小突いた。
カインはにやりと笑って手を上げると、少年と手のひらを打ち合わせてパンと音を立てた。
「キールズ、コーディリア。久しぶり。嘘だよ。ちゃんとお土産あるから」
「無理しなくて良いぞ。ディアーナの土産を分けてくれなくて良い。王都に帰る予定でこっちにくる予定じゃなかったんだろ」
「無理してないよ。言われなくてもディアーナの土産を人に分けたりしないよ」
「ディは、分けてあげてもいいよ?」
「ディアーナは優しいね。なんて良い子なんだろう。こんなに心優しい女の子は居ないよ。天使かな?本当は天使なんでしょ?神様に連れ戻されないように隠しておかなくちゃ!」
カインは膝の上に座らせていたディアーナに覆いかぶさるようにがばりと抱きつきながらぐりぐりと自分の頬をディアーナの頭に押し付けた。
ディアーナはあつーいおもーいと言いながら笑っている。
キールズは、エルグランダーク子爵の息子でカインの従兄弟に当たる。コーディリアはキールズの妹である。
一応、ネルグランディ領の領主はカインの父であるディスマイヤである。しかし、王都で法務省の事務次官という仕事をし、元老院に所属している関係でなかなか王都を離れるわけにはいかない。そのために、弟であるエルグランダーク子爵が代官として実質統治をしている。
領地の人々は、キールズを坊っちゃん、コーディリアを嬢ちゃんと呼び、カインやディアーナのことはカイン様、ディアーナ様と名前で呼ぶ。
ちなみに、今の流れには全く関係無いがディスマイヤは公爵の他に侯爵の爵位も持っている。
カインが成人後、家を継ぐまではカインに侯爵を譲ることになっている。ディスマイヤ曰く「爵位なんて持ってても税金ばっかり持ってかれて何も嬉しくない」だそうだ。
「サイリユウムのサディスの街を出てから領地に寄るって聞いたから、お土産はサディスじゃなくて途中の宿場町で用意したんだけどね。おじ様とおば様は?」
「父さんは騎士団、母さんは領地の奥様たちと合同でみんなのご飯作りに行ってる」
「私も後でお母さんのところに行ってくるよ。夕飯にはみんな揃うんじゃないかしら」
「そっか」
キールズとコーディリアは自分で籐椅子をよっこいしょと運んでくると、カインと並んで座った。
一緒に出入りする使用人たちを眺めながら、とりとめの無い話をしあう。
「サイリユウムどうよ。可愛い女の子いる?」
「ディアーナより可愛い女の子はいないな」
「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」
椅子から乗り出していたキールズはカインの返答を聞いてどさりと背もたれに体を投げた。
ため息をつくキールズの代わりにコーディリアが横を向いてカインを見る。
「サイリユウムの貴族学校ってどうなの?ここからだと、王都の魔法学院よりユウムの貴族学校の方が近いじゃん?どっちに通っても良いんだけど、どっちが良いかなと思って」
「あれ、コーディリアは学校通うの」
キールズは王都のアンリミテッド魔法学園には通っていない。領内にある騎士や郷士の子息令嬢向けの学校に通っているのだ。
キールズはまだ15歳だがすでに父であるエルグランダーク子爵の手伝いをして領地運営に関わっている。領地の有力者たちと友人関係にあったほうが将来的にも優位であるのは間違いない。
ディスマイヤも、領地の管理は引き続き子爵家の方でやってもらうつもりだと言っていた。カインに弟でもできれば話は変わってくるかもしれないが、王都にいながら領地の面倒もみるというのは領民に対して不誠実だと考えているようだった。
「兄さんが領地を管理するんだったらね、私は外に人脈作って、流通とか、えーと外貨?うんと?そういうの?よくわかんないけど、領地と外をつなぐ役ができたら良いなって思ってんだよね」
そういってコーディリアがエヘヘと笑いながら頬をかいた。
カインはディアーナの髪を手ですきながら、コーディリアの顔をまじまじと見た。コーディリアはカインの一歳年下でディアーナの二歳年上だ。
「コーディもお兄様大好きなんだね」
「別に好きじゃない」
ディアーナがカインの膝上から身を乗り出してコーディリアの顔を下から覗き込んでニコニコ笑うが、コーディリアはプイとそっぽを向いてしまった。
「コーディもってことは、ディアーナもお兄様のことが好きなんだね?」
「ディはお兄様大好きだよ!知らなかったの?」
「知ってたー!!!」
カインとディアーナがアホな話をしているのを、並んで座っているキールズとコーディリアが呆れた顔をして眺めている。
カインは膝の上のディアーナを持ち上げたり降ろしたりしながら時々ぎゅうと抱きしめては脳天の匂いをかいでいる。
「色々土産話も聞きたいのに、ちっとも話が進まないじゃないか」
キールズは籐椅子の上で足を組んで腕組みをし、背もたれの上に頭を乗せて天井を見た。コーディリアが「いつものことよね」と肘置きに腕を乗せて頬杖をついた。
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