偽乳特戦隊
注意:おっぱいと連呼します
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寮の食堂に行くと、席は六割程度が埋まっている状態だった。
学校で部活動に入って活動している生徒はもっと遅い時間にやってくるし、当番などで明日の朝が早い者はとっくに食べ終わっている時間帯だ。
つまり、一番混雑する時間なのである。
「ジュリアン様〜。カイン様〜。ココ空いてますよー」
厨房のカウンターで今日の夕飯を受け取って席を探そうとしていたところで声を掛けられた。
みれば、アルゥアラットが大きく手を振っているのが見えた。
アルゥアラットの両隣にはジェラトーニとディンディラナが座っている。
よく一緒につるんでいる三馬鹿である。
一旦無視して食堂を見渡せば、シルリィレーアも食事をしているのを見つけたが、その他に女生徒が四人ほど一緒に居たので混ざるのは難しそうだった。
「仕方がないから、アルゥアラットと一緒に食べましょう。ジュリアン様」
「カインは、もうちょっと友人を大切にしたほうが良いと思うぞ」
ジュリアンと連れ立ってテーブルとテーブルの間を縫うように歩き、時には料理の乗った盆を頭上に上げながら通り抜けてようやくアルゥアラットたちの向いの席にたどり着いた。
アルゥアラットはすでに食べ終わり、ジェラトーニとディンディラナはまだ半分ほどの食事が残っていた。
「アルゥアラットは早食い王なの」
「何その称号。席について食べ始めたのが早かっただけだよ。ジェラトーニとディンが食堂に来るのが遅かっただけ」
カインとジュリアンが座れば、ジェラトーニがテーブルの真中に置いてあるヤカンからお茶を注いでくれた。
男子寮と女子寮の共同施設であり、一年生から六年生まで全員が使う食堂はとても広く、テーブルは長い。
いちいちお茶を取りに行かなくて済むように、テーブルの上に適宜お茶の入ったでかいヤカンが置いてあるのだ。
「ありがとう、ジェラトーニ」
「どういたしまして」
ジェラトーニはついでに自分のカップにもお茶を注いでからヤカンをテーブルの真ん中に置いた。
カインとジュリアンは、目の前のチキンのソテーにナイフを入れて食事を始めた。添え物は、蒸したいんげん豆とさつまいも、そして甘く煮付けた人参だった。
カインは人参を先にパクパクと口に放り込むと、一口サイズにちぎったパンを口に入れて咀嚼したふりをしてお茶をのんで流し込んだ。
「アルゥアラットで思い出した。ジュリアン様、三人の側妃は奥さんとしてじゃなくて有能な仕事仲間としての人材を採るっていうのはどうなんでしょう?」
「は?何の話だ?」
「どういうこと?」
カインの突然の発言に、ジュリアンとアルゥアラットが同時に反応する。
カインはそれに答えずゆうゆうとナイフで切り分けたチキンを口に入れると、ゆっくりと味わって飲み込んだ。
「今日の夕方、みんなで一夫多妻のあり方について話し合ったんですよ。そこで、アルゥアラットの家は正妻の他、第二夫人と第三夫人は、夫人というより領地の共同経営者だって話をしたんです」
「あぁ。してたね」
カインは、夕方の勉強会の話をジュリアンに簡単に説明し、アルゥアラットがそれを肯定する。
「その後自室で、ジュリアン様の夢を叶えるには同世代の仲間。次代の国政を担う仲間が必要だよねって話をしていたんだよ」
「あぁ。それでジュリアン様も、真の奥さんはシルリィレーア様だけにして、側妃三人は仕事仲間として娶れば良いんじゃないの?って話になるわけね」
次に、カインは寮に戻ってからのジュリアンとの会話を簡単にアルゥアラットたち三人に説明する。アルゥアラットはすぐに言いたいことが分かったらしい。
「本当はシルリィレーア様が好きなのに、無理やり後三人好きな人を作る必要なくなりますもんね」
「な、な、何を言うのだアルゥ!その、あの、あれだ!シルリィレーアは同じ歳で家格も釣り合い……」
「はいはい。ソウデスネー」
「ジュリアン様、天の邪鬼も度を越すと取り返しがつかなくなりますよ」
「何が不満なんですか、あんな美人で優しくて穏やかで優秀な人を蔑ろにするとか逆に不敬ですよ」
慌てるジュリアンに、アルゥアラット、ジェラトーニ、ディンディラナが畳み掛ける。
そしてカイン。
「大体、あんなニセチチどもの何処が良いんですか。本当におっぱい好きなんですか?」
カインのこの言葉には、ジュリアンだけでなく同級生三人も目を剥いた。
「ニセチチ!?殿下がことごとく引っかかった令嬢たちがニセチチ?」
「どういうことだ?ニセチチとはどういうことだ?偽の……偽物のおっぱいだとでもいうのか?」
「ありえない……腕に押し付けてくる感触はとても柔らかかったのだぞ?」
「判別が付くの?偽と本物ってどうやって見分けるの?」
カイン以外の男子四人が食いついてくる。
カインは周りを見渡して人差し指を一本立てて口元に立てると「しー」と静かに言った。
「食堂は男女共有の場所だよ。もっと声を抑えて。おっぱいって言ったがために拳骨を貰ったのを忘れたのか?」
男子三人がサッと両手を頭のてっぺんに乗せた。放課後の食堂で、ユールフィリスに拳骨を貰ったのを思い出したようだ。
「アルゥアラットとディンディラナは領地組だよね。ジェラトーニは花祭りの時何処に居た?」
「家に居たよ。ガーデンパーティを開いて平民や仲の良い貴族たちと交流していたね」
「最終日は?」
「早い時間は屋台の食べ歩きとかしたけど、ガーデンパーティの手伝いで疲れてたし午後は寝ちゃってたかな」
「そうか」
そこまで聞くと、カインはジュリアンに向き合った。
「カリン嬢の胸は、全部詰め物でしたよ。当然ですけど」
カインのその一言で、ジュリアンが真顔になった。
領地組の二人と、疲れて寝ていたために城前広場のダンスを見ていないジェラトーニには分からない話だ。
「……まさか……女子のおっぱいは……作れるというのか」
真顔の上、若干青白くなっているジュリアンの顔色にただ事ならぬ空気を感じた男子三人も真顔になった。
「大体、考えてもみてください。僕たちはまだ十二歳ですよ。当然、ジュリアン様にいい寄ってくる女子たちも同じ年の十二歳か十三歳ですよ。三年生以上の生徒は流石に分別あるみたいですし。保健体育の教科書読みましたか?二次性徴の平均速度みたいなの載ってますよ」
カインの前世の職場は事務系の職員はほとんどがパートタイマーのおばちゃんだった。
おばちゃんは、アラサー男子の存在を気にしない。存在を気にせずに娘がブラジャーデビューしたみたいな話をしだす。
おばちゃん同士の情報交換の場に居合わせると、そういった情報がバンバン耳に入ってくるのだ。
あと、ゲーム実況動画にも「このキャラクタでこの乳のデカさはありえないと思いませんか」みたいなコメント投げてくるヤツもいる。乳揺れが見どころの格ゲーやってるとチョイチョイあった。
お前の性癖なんぞ知るかと思いながらも、平均よりは大きいかもしれませんねー。でもゲームの演出的には……みたいな無難なコメントで逃げていた。
それらの情報をかき集め、さらに自分が中学一年、二年だった頃の同級生女子の事を思い出せば自ずと見えてくる。
ジュリアンに迫っていた女子達のおっぱいは大きすぎるのだ。年齢に対して。そして体格に対して。
「そりゃ、遺伝とか体質とか、食事のとり方とかに依ってはありえないとは言いませんけど。毎日毎日とっかえひっかえ出来る人数の女子がみんなおっぱい大きいとかありえないでしょう」
食事を一通り食べ終わり、ヤカンからお茶を継ぎ足して一息つくカインである。
ジュリアンはまだチキンが半分残ってしまっている。
「そんな……。あれらはみな……嘘だったというのか」
放心しているジュリアン。
「いや、自分には関係ない対岸の火事だと思ってみていたけど……正直羨ましいとは思っていたんだけど……偽物……」
「いやでも、制服があの体型用に立体製法だったじゃんか……まさか?」
「僕は、別に……。マジか」
それぞれ、思い思いに過去に思考を飛ばしてしまっている。
「ジュリアン様。では、確認してみましょう。私はちょっと仕込みをしてきますので、その間に食事を済ませてしまってくださいね」
カインはジュリアンの肩をポンと叩くと席を立ち、食べ終わった食器を持って食器返却カウンターへと歩いていった。
食器を戻した帰り道に、シルリィレーアの元へと歩いていくと、シルリィレーアとユールフィリスに何やら耳打ちした。その後、通りすがりに女子が固まった席があると何事か声を掛けながらジュリアンとアルゥアラット達が待つ席まで戻ってきた。
「明日から、ジュリアン様にお茶やお話のお声がけをしてくる女子達のおっぱいは飾らない素直な状態だと思いますよ」
テーブルの上で指を組んで微笑むカインを、その他の男子四人が胡散臭げな顔で見つめた。
「何をしたのだ」
ジュリアンがそう問えば。
「簡単なことです。『ジュリアン様は、実は大きさよりもかたち重視なのですよ。ささやかな大きさで、きれいなかたちの方が好きなのです』と伝えてきました」
とカインが答えた。
ジュリアンは泣きそうな顔で、カインの晴れやかな笑顔を睨みつけた。
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