真実のその後
翌日以降、ジュリアンに言い寄って来る女子生徒の平均胸囲は明らかに小さくなった。
準備が間に合わなかったのか、緩めの胸元を隠すようにニットベストを着て登校する女子が何人かいた。
「僕は、『大きさよりもかたちを重要視してますよ』としか言ってませんよ。おっぱいがとは一言も言っていません」
とはカインの言である。
ジュリアンに言い寄る女子の胸が萎んだ事については、ジュリアンだけではなく同級生男子一同に衝撃が走ったのであった。
「女の子のおっぱいってしぼむんだ?」
「ばっか、もともとないのをマシマシにしてたんだって」
と言った会話がそこかしこでかわされていた。
もともと、体育の授業で体操服を着ている時などはマシマシにはしていなかったハズなので、普段から特定の女子に注目していれば分かったはずの事ではあるのだが。
結局、誰も彼もがジュリアンに言い寄ってくるおっぱいの大きい子ちょっと良いよねぐらいにしか思っていなかったのだ。どいつもこいつも。
「というわけで、分かってもらえたかと思うんですが。入学したばかりのこの時期にジュリアン様に声を掛けてくるような女子は、ジュリアン様自身ではなくて、第一王子という地位に心惹かれただけの女なんですよ。そこに真実の愛なんてないんです」
「カイン様、追い打ちをかけるのはやめて差し上げろ!ジュリアン様はそこに愛はあるかどうかを確認していらしたのだ」
学校の食堂で昼食中の男子五人。
カイン、アルゥアラット、ディンディラナ、ジェラトーニとジュリアンで一つの丸テーブルを占拠して食事をしていた。本来四人用のテーブルに隣のテーブルから椅子を借りてきて座っている。
今日の昼食は鶏肉のつみれ団子の甘辛ソースがけと温野菜である。
「ジュリアン様はもっとシルリィレーア様と向き合ったほうがよろしいのではないでしょうか」
「そうですよ、正妃をまず大切にしないとそれこそお家騒動になりかねませんよ」
「アルゥの家みたいに、側妃は仕事仲間って割り切っちゃえば良いんじゃないですか?」
「シルリィレーア様は素敵な女性じゃないですか、何が不満なんですか」
「い、いっぺんに喋るでない」
四人につめよられ、若干体を引くジュリアン。キョロキョロと辺りを見渡すと改めて前のめりになる。
「シルリィレーアに不満などない。だが、シルリィレーアの気持ちがわからぬではないか……。最近の彼女はカインばかりを遊びに誘っておるだろう。子どもの頃に決められた婚約であるからな、本当は嫌なのではないかと……」
ジュリアンがこっそりとそんな事を言う。身を乗り出して小さな声でどんな内緒話をされるのかと思っていたのに、出てきたのがそんな言葉だったのでカインは呆れてしまった。
他の三人も、ジュリアン様何言ってるんですかと表情が物語っている。
「はぁ。ジュリアン様バカですか」
わざとらしくため息を付いてカインがそういうと、ジュリアンはムッとした顔でカインを睨みつけてきた。
「何がバカだというのだ」
「シルリィレーア様が私をお誘いくださるのは、私を誘えば私がジュリアン様を誘うって分かってるからですよ」
カインはそう言うと、つみれ団子にフォークを突き立てて皿にグリグリと押し付けてソースを絡めた。行儀が悪い食べ方だが、ココでそれを咎める人は居ない。
「本来、女性から男性をお誘いするのはあまり褒められた行動ではないじゃないですか。でも、カイン様は留学生なので公爵家令嬢であるシルリィレーア様が気を使ってお声がけするのはギリ有りですし」
「カイン様って紳士だから、婚約者のいるシルリィレーア様からのお誘いには絶対婚約者であるジュリアン様を誘うでしょ」
「ジュリアン様からシルリィレーア様を誘えばいいじゃないですか」
カインがつみれ団子を口に入れてモグモグしているので、アルゥアラット達が続きを話していく。モグモグしながら、やっぱりみんなから見てもあからさまだったんじゃないかとカインは思った。
ごくんとつみれを飲み込むと、お茶を飲んで一息つく。
「シルリィレーア様が本当に一緒にでかけたいのはジュリアン様ですよ。嫌いだったら『愛してるって百回言え』なんて言うわけないでしょ」
「そ、そうであろうか?」
カイン以外の三人もうんうんと大きく頷いている。
「大体、ジュリアン様がやらかした時に『愛してるって百回言え』をやってますけど、ジュリアン様が自主的にシルリィレーア様に『愛してる』って言ったことあるんですか?」
ジェラトーニに問われる。
ジュリアンは眉毛をハの字にして顔を横に振る。
「恥ずかしいではないか。あ、あ、愛してるとかそんな」
「誘ってくれないって嘆く前に、ジュリアン様からシルリィレーア様を誘ったことあるんですか?」
ディンディラナに問われる。
ジュリアンは頬を赤くして顔を横に振る。
「何処に誘っていいかわからぬし、誘って断られたら……」
「断られたら慰めて差し上げますよ!」
アルゥアラットがグッと拳を握って励ました。
ジュリアンは目尻に涙を浮かべて「やはり断られるのか……」とつぶやいている。
「甘えてほしければ甘やかせって言いましたよね」
カインがジュリアンの目をみて静かに言った。
「ジュリアン様、今からシルリィレーア様をお誘いしてきてください。放課後に図書館で一緒に勉強しようってお誘いで良いですよ。それなら抵抗すくないでしょう」
「お主らも一緒に図書館に……」
「俺たちはついていきませんよ。二人きりです。図書館なので完全な二人きりにはなりませんが、婚前なので丁度いいでしょう」
「ふ、ふたりきり」
「そして、放課後の図書館でちゃんと好きだって言うんですよ」
「!!!」
「図書館から帰る時、寮までは手をつないで帰ってくることにしましょーよ」
同席している同級生から次々とミッションを課されて行くジュリアンはどんどんと退路を断たれていく。
食事がもう終わっていたアルゥアラットが立ち上がると、ジュリアンの椅子をジュリアンごと引き、テーブルから引き離す。
「さぁ、シルリィレーア様はあちらのテーブルでお食事中です。行ってください」
「ユールフィリスや他の女子も一緒に食べてるではないか!」
「だからなんですか」
「え……。いや、恥ずかし……」
「さぁ、行ってらっしゃい!僕たちはココで待っていますから」
さぁさぁさぁと皆から視線でせかされ、ジュリアンはとぼとぼとシルリィレーアのいるテーブルへと歩いて行った。
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