魔法担当のティルノーア先生

いつもありがとうございます。

  ―――――――――――――――  

【本日のディアーナ様】

今日はイアニス先生の授業の日でした。

前回から引き続き加算と減算を習いました。ディアーナ様は指を使わずに十までの計算が出来るようになりました。

イアニス先生に褒められてとてもうれしそうでしたが、頭を撫でるよう強要してイアニス先生を困らせていました。

お昼ご飯は奥様とご一緒に取られたようです。僕は使用人部屋で食べたので昼食時の様子はわかりません。

 イルヴァレーノ

-----


自室の机の上に置いてあった手紙を読んで、カインは身もだえていた。

午前中騎士団に訓練を付けて貰ってる間のディアーナの様子を報告するようにとイルヴァレーノに厳命しておいたのだ。

イルヴァレーノは面倒くさそうな顔をしていたが、大好物の皿をひっくり返してしまった時のディアーナのような悲しい顔をカインがしていたので、簡単で良いのならと引き受けたのだった。


「あぁぁああぁぁ!ディアーナをほめたい!おてて使わずに計算できるようになって偉いねって頭撫でたい!まだ4歳だよ!?ディアーナまだ4歳なのに足し算出来るとかマジすごくない!?ねぇ。これ本当に褒めすぎってこともなくほめるべき案件でしょうに何でその場に俺は居なかったのかなぁぁぁ!?その時俺は一体何をやってたんだって話だよ!アル殿下をほめてたんだよ!なんでよその子ほめてるんだよその分ディアーナを誉めたいよおおお!計算できた時のディアーナのドヤ顔が見たかったよおおお」


「カイン様、顔」


「うははは。カイン様のディアーナ様ラブっぷりは相変わらずッスね。ほら、ディアーナ様に『おにいさますごーい!』って言われるためにも魔法頑張りましょう~」


ディアーナ不足を嘆くカイン、その崩れた顔を注意するイルヴァレーノ。

そこに、魔法を教えているティルノーアが部屋に入ってきた。


「ティルノーア先生。部屋に入る前にノックをしてください」

「ボクとカイン様の仲だもの。さて、今日から君も魔法やるんだよね。張り切ってやってこーね!」


イルヴァレーノの注意を受け流して、ティルノーアはグッと握り拳を突き出してきた。

どう言うことだという顔でイルヴァレーノはカインを見るが、カインも首を傾げている。


「あっれぇ?なんか、カイン様と執事さんからイルビーノ君にも魔法習わせたいって言われたよ~んって公爵様が言ってたよ」


「よ~んとは言わないですよね。父上は…」


「まぁ、そんなわけで今日からイルビーノ君も魔法やってこ!ゆくゆくは魔導師団はいろ!」

「イルヴァレーノです」

「そうか!魔法使う上で名前は大事だもんね!でも言いにくいねぇ。イル君でいい?」

「…好きにしてください」


「そしたら、カイン様は魔術理論ね~。火と風と水を一応極めてるから~。次は土とか行っとく?火と風の複合魔法の爆裂系か、風と水の複合魔法で氷結系とか行っちゃう~?」


ドサドサと魔術理論の本をローテーブルの上に載せていくティルノーア。それぞれ属性ごとの分厚い理論書だ。

カインはもう魔法の基礎が出来ているので、新しい魔法を覚えるときは理論書を読んで魔法の理屈を理解すればある程度使えるようになる。使える様になれば、後は反復練習で威力向上を目指す事になる。


「好きなの始めちゃって!解らないところが出てきたら質問してね!お勧めは土!土魔法使えるようになると、風との複合魔法で転移魔法にチャレンジできるからね!」


そこまで一気にしゃべると、ティルノーアはくるりと体を回転させる。藍色のローブの裾がひらりと花のように広がった。


「イル君!イル君!イル君は初期の初期からね!ボクねぇ~、このねぇ~、魔法出来ない子が出来るようになる瞬間!ってのを見るのが大好きでねぇ~。魔法の家庭教師もっとやりたいんだけどねぇ~。面接で落ちちゃうんだよねぇ~。また新しい子教えられるの嬉しいなぁ~。カイン様は優秀過ぎてもうつまんないんだよねぇ~。カイン様もねぇ、最初に魔法使えた瞬間はねぇ、飛び跳ねて喜んで可愛かったんだけどねぇ。もう、勝手に本読んで勝手に使えるようになっちゃうしねぇ。つまんないねぇ。さっ!じゃあまずは自分の魔力を感じるところから始めよっか!手ぇ握ろっ!ね!」


一気にしゃべって一気に距離を縮めてくるティルノーアにたじろいでいるイルヴァレーノを横目に、カインはテーブルに積まれた本を一冊ずつ手にとってパラパラと中を流し読みする。

力を得るためには複合魔法を勉強した方がより強力な攻撃手段を手に入れられるが、土魔法と風魔法で転移魔法が使えるとかティルノーアが言っていたのが気になっていた。


転移魔法は、ゲームのド魔学には出てこなかった魔法なのだ。もちろん、ゲームではカインの得意魔法は氷魔法だった。シナリオ内では水も風も使っていなかったし、2属性の複合魔法という情報は特に出てこなかった。

魔法を使うための呪文はゲームと一緒なんだけどなぁと、カインは頭を掻いた。


ゲームでは、レベルをあげてスキルアップすれば魔法は勝手に覚えられた。主人公ヒロインは、珍しい聖属性が得意で治癒と魔物の浄化に関する魔法とバフ系の魔法を覚える。

…覚えるが、乙女ゲームなのであまり披露する場面はなかった。

聖騎士ルートと皆殺しルートぐらいしか使いどころがない。同級生魔導師ルートでは、全く魔法を使う場面が無いものの魔法スキルを上げておかないと好感度が上がらないという仕様だった。カインが前世で『無駄な作り込み』と実況していた部分だ。


なんにしても、転移魔法が使えればいざという時にディアーナの元に駆けつけられる。どこにいてもディアーナのそばに帰ってこられる。

ならば、次に修得するのは土魔法しかない。カインは土魔法の理論書を手にとって、学習机に向かったのだった。

  ―――――――――――――――  

読んでいただきありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る